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「実は昔、僕がまだ小学生だった頃、母さんに執着していたストーカーがいてさ。刺されたんだよ、そいつに」
げっ。それは本物の事件だよ。わたしのと比べものにならないって言ったら、マサミくんはそんなことないよって応えてくれた。
「その人も最初はそんなにしつこくなかったんだけど。妹が産まれたあたりからだいぶしつこくなっちゃって。それから空手、自己流で覚えたんだよ。母さんは軽傷ですんだけど、刺された場所や深さによっては命を落とした可能性もあったからね。だからつい、ハナちゃんのことも心配になったんだ」
だけど、実際こうやってわたしのこと守ってくれて、山田ももうなにもしてこないとすると、マサミくんのおかげだよって思っちゃう。
「僕は単純だからさぁ、できれば世の中の女性はみんな護身術を学ぶべきだと思ってるんだ」
いざとなったら自己防衛しかないからね、と優しい口調でつづける。
「そうだよね。学校の授業とかで護身術があったらよかったのかもしれない。わたしもなんらかの武道習ってみようかな?」
「うん。そうすべきだと思う」
マサミくんと二人、ならんで歩く。アキラさんに対しての罪悪感はなくて、だってマサミくんはわたしのことを助けてくれたから特別だし。
「もし、山田のことがなかったら、ハナちゃんしばらくアキラさんの部屋に居ただろう? アキラさんだって普通の男の人だし、大人だからおかしなことにはならないだろうけど。僕はきみのことが心配だよ」
「心配って?」
山田のせいでちょっと神経が過敏になっていて、責めるような口調になった。
「アキラさんに完全に拒まれたらショックが大きいだろうと思うから」
「ん〜、それは、わたしのお弁当をいらないって言う日がくるかもしれないってこと?」
「そう。アキラさんに好きな人ができたとしたら、それはきっと大人の女性だろうから。ハナちゃんは嫉妬する前に泣くことになるんじゃない?」
「泣いても後悔したくないの。だから、お弁当は作りつづける。もういいってあきれられてもかまわないの。だって、アキラさんはわたしの初恋の人だから」
そう。六歳だったあの日、自分より年上の男の人が本気で泣いている姿を見た時から、アキラさんのことを好きになってしまったんだ。
だから、納得するまでつづけてみたいんだ。お弁当づくり。
「そうだよね、ごめん。よけいなこと言って」
「いいよ。マサミくんはわたしのこと、本気で心配してくれたんだから」
そう、たまにはアキラさんと外で会いたいな。また公園のベンチでお弁当食べて欲しい。
それがわたしの贅沢な希望なんだ。
つづく




