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4ー1

 自分がこんなにもずるくて意地汚い人間だとは思ってなかった。


 自己嫌悪におちいって自宅に帰ると、ハムスターのはむちゅんが元気に車輪を回していた。


「ただいま、はむちゅん」


 はむちゅんを見ているとお母さんを思い出すんだ。トライアスロンに一生懸命なお母さん。その生きざまを全力で否定されることもえるけれど、彼女もわたしも気にしない。


 だって、お母さんが自分で選んだ人生だから。


 お父さんだって、お母さんのトライアスロンを全力で応援している。


 その分、家事の負担はわたしとお父さんで分けることになったけど、気にならなかったし、他人の目を気にしてまで横一列にならぶような人生にしたくなかった。


 だから、お母さんのことを責めたことは一度もない。


 でも、今だけはお母さんのアドバイスが必要だから。


 部屋に鍵をかけてお母さんに電話をかける。


『もしもし? ハナ? どうかしたの?』

「お母さん、わたしは悪い子に育ったようです」


 真剣にそう切り出したら、声を出して笑われてしまった。


 すべての事情を説明すると、おかあさんはふぅ〜ん、とあいずちをうってくれた。


『ハナが恋をねぇ。それで? その山田って子とは完全に切れたの? そういう子とぐずついてると後で面倒よ』

「わたしは完全に切ったつもりだし、今後ともあんな奴のためにご飯なんて作ってやらない」

『そう。恋ってね。いろんな自分に出会うから、悩みたかったら好きなだけ悩みなさい。それでも自分にしかなれないんだから、自分にできることをすればいいんじゃない?』


 これはそんなにあっさり割り切れる問題じゃないよう。


『近いうちに日本に帰るから。また話しましょう。それじゃあまたね』

 

 一方的にそう言って、お母さんは電話を切ってしまった。


 なにも部屋に鍵なんてかけなくてもよかったのにな。


 ねぇ、アキラさん。こんなわたしでも、晩御飯食べてくれますか?


 いよいよ明日から晩御飯を作りに行ける。


 そう、まだちゃんと告白したわけじゃないんだ。あせるな。お弁当だっておいしいって食べてくれたし、それだけで充分じゃないか。


 わたしは悔いのない人生を送ることに決めてるんだ。


 たとえばあの頃、お母さんの盲腸が破裂していなかったら、ナツミさんともアキラさんとも出会わなかった。


 もし、わたしの前でアキラさんが行き倒れてなかったら、お弁当を食べてもらうチャンスも恋をすることもなかった。


 最悪、山田の浮気を気にしすぎていて、だらだらと関係をつづけていた可能性すらある。


 そんな自分じゃなくてよかった。

 

 本当に。

 

 だから、わたしは明日からまたこりずに晩御飯を作りに行きます。どうか食べてくださいね、アキラさん。


     つづく

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