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3ー5

 結局、アキラさんは渋々合鍵を渡してくれた。


 こんなことのために合鍵を持ってるわけじゃなかったのになぁ、なんて苦い顔をしながら、それでもわたしに優しくしてくれるアキラさんは素敵だし、やっぱりすごく大好きなんだ。


「それじゃ、明日から学校終わったらよらせてもらいます」

「待って」


 そう言うと、アキラさんは擦り切れた革の二つ折り財布から五千円札を取り出した。


「今手持ちがこれしかないんだけど。もし足りなければレシートを置いていってくれたら、食費として置いておくから」

「そんなっ。いいです。わたしが勝手に頼んだことですし」

 

 そもそもアキラさんをこれ以上痩せさせたくない。


「でも、結局僕の胃袋に入るだろう?」

「それはうれしいことなので。お願いですから、わたしに気をつかわないでください。でも、どうしてもって言うのなら、ファミレス価格で払ってくれたらいいと思います」


 そのお金でまた、アキラさんの晩御飯が作れるのだから。


「わかったよ。その代わり、代金がいくらかかったかはちゃんと書いておいてよ?」

「はい。それはもう」


 わたしの思いつきから始まったアキラさんへの晩御飯作りは、こうして形になることになった。


 やったっ!!


 アキラさんの住所を聞き出してからアイスティーを飲み終え、外に出る。ぽかぽかした陽気だけど、いたみそうなものはお弁当に入っていないから大丈夫なはず。


 わたしたちは公園のベンチに腰かけた。


「はい。アキラさん。お弁当です」

「ありがとう」


 慈愛のこもったまなざしでお弁当を見て、節くれだった指で蓋を開ける。


 今日一番頑張ったのはだし巻き卵と鶏のから揚げ。どっちも下味つけてあるんだ。


「いただきます」


 そう言って、正しい姿勢でお箸を持つと、アキラさんが最初に口にしたのはだし巻き卵だった。


「おいしい。こんなにおいしいだし巻き卵、食べたことがないよ」

「本当ですか? やったぁ!」


 それから唐揚げへ。


「うん。皮がぱりぱりしてるしとてもおいしい。きみ、本当に料理人じゃないよね?」


 それくらいおいしいってことだよね。うれしい。


白いご飯にはふりかけをかけてある。米の一粒一粒に愛情込めて洗いましたから。


「この前のおむすびもおいしかったけど、これはこれでおいしいね」


 アキラさんは律儀にも一つ一つを丁寧に褒めてくれた。


 食べ終わる頃には、ああ、もう食べ終わってしまう、なんてうれしい言葉ももらえてしまった。


「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」

「おそまつさまでした」

 

 その時、アキラさんの目が潤むのを見逃さなかった。


「っごめん。ちょっと昔を思い出してしまった」


 アキラさんは目をつむって目頭を押さえた。


 そうだよね。どんなにがんばってもわたし、ナツミさんにかなわないよね。思い出とか、食べた時のシチュエーションとか、全部がナツミさんにかなわないと知っていながら、アキラさんに味という記憶を上書きさせて、わたしのお弁当の方がおいしいと思わせている。


 わたし、こんなに残酷で汚い人間だったんだ。


 恋は時として、知らなかった自分の一面をあばきたてるものだということを、初めて知った。


     つづく

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