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涙はすっかり乾いてしまった。
アキラさんは本気でこまっていたから、もう少しだけ押してみることにした。
「だったらこうしませんか? わたしの元彼が、わたしのお弁当がまずいと言いました。だから、アキラさんにお弁当を食べてもらって、どこがまずいのか教えてもらいたいってことにします」
「あんなにおいしかったのに、まずいなんて言われたの?」
「そうなんです。だから、わたしを助けると思って、お弁当の感想を聞きたいんです。それでもだめですか?」
ほとほと弱り果てたアキラさんが、しょうがないな、と声をもらした。
「そういうことなら。それで? 期間はいつまで?」
「わたしの気持ちに整理がつくまで」
「またそう言って大人をからかう。ハナさんは僕をこんなにこらしめて楽しいかい?」
「こらしめていません。むしろ愛してます」
ええ〜っ、と戸惑いの表情を浮かべられる。
「ナツミに聞いたかもしれないんだけど。僕たちは施設で育てられたんだ。両親に見捨てられてね。だから、無償の愛なんてものは知らないし、なんなら手作りのお弁当だってナツミのしか食べたことがなかったくらいなんだ。そんな僕に味の感想とか聞かれても、毎回同じになりかねないけど、それでもいい?」
「はいっ。やったっ」
胸の前でガッツポーズを取る。過呼吸もいつの間にかおさまっていた。
「それじゃあ明日からっていうのでどうですか?」
「時間はね、わからないんだよ。僕はアルバイトを三つかけもちしているから」
「だったら、アキラさんのお部屋にお弁当を届けておきます」
「それはいけない。独身男性の部屋に女子高生があがりこんだりしたら、どんな噂をながされるかわからないし、きみのことを守ることもできないよ?」
わかるね、と強く言い含められてしまった。
約束したのにいきなり暗礁に乗り上げるなんて、さすがは年上の男の人だな。
「守ってもらわなくていいです。わたしは自分の言動を重視する人間なので、自分が後悔するようなことになっても基本大丈夫です」
元彼は失敗したけどね。あんな三下にいつまでも食いつかれてたまるかって思うよ。
そんなことにエネルギーを使うなら、さっさとアキラさんとあらぬ噂の根源になりたいです。
「合鍵くれたら掃除もしておきますし、なんならお夕飯作って帰りますから」
「待って。それだとお弁当ですらないじゃない?」
「どっちでも同じですよ。料理して、提供する。それがコンパクトにお弁当箱におさまるか、お皿に盛られるかだけの違いですから」
自分が悪徳セールスマンみたいな向上を放ったことに笑顔になる。
わたし、こんなに必死になったことがこれまでに一度もなかったかもしれない。
つづく




