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乃ち筑紫の日向の橘の小門の檍原に到りて、
身を滌ぎ祓ひたまふ。
是の時に、左の目を洗ひたまへば天照大神生れ、右の目を洗ひたまへば月読尊生れ、鼻を洗ひたまへば素戔嗚尊生れたまふ。
そこで伊弉諾尊は、筑紫の日向にある橘の小戸の檍原に至り、そこで身を洗い清める禊を行った。
そのとき、左目を洗うと天照大神が生まれ、右目を洗うと月読尊が生まれ、鼻を洗うと素戔嗚尊が生まれた。
『日本書紀』巻第一 神代上
*
朝飯は、昨日の割下の残りで作った牛丼にした。
「お代わり!」
鎖はモモを可愛がってるクセに、俺の作った牛丼をガツガツ食った。ペットと食肉は別なのだろう。口にまだ残りがあるうちに、どんぶりを鋏に渡した。
「✂牛丼に卵入れると、なんで美味しいんでしょうね」
鋏は笑顔でそれを受け取ると、お代わりを汁だくでよそった。
「七味と山椒両方かけても美味いぜ?」
鎖が笑いながら答えた。山椒と七味をアホみたくかけている。
「✂風味が喧嘩しませんか?」
「今度やってみ? 絶対美味いから!」
鎖はAIの相棒に笑いかけた。
コイツらは本当に仲が良い。
「✂朝ご飯はシンプルな方が好みです。ご飯少なめ、ネギ多め、汁無し、生卵。お新香と味噌汁さえあれば最強ですから✂」
「お前らしいな。でも、俺は情報量がより多い方が好きだ。
次は絶対やれって! 汁だくでやってみ? 飛ぶぞ? いくらでも飯が食える」
鎖は鋏を見つめながら明るく言った。
「私は、牛丼なら、紅しょうが多めが良いですね。サッパリとした後口が好きなんです」
輪廻は紅しょうがを後乗せしながら微笑んだ。
俺はアタマ多め、普通盛りの牛丼を手早く食べ終わった。
「✂あなたは食べるのが早いですね。もう少し咀嚼することをお薦めしますよ?」
鋏が神妙な顔で言った。余計なお世話である。
「そうだぜ、誠司。
早食い群は二型糖尿病発症リスクが約二倍だ。ハーバード大のエビデンス出してやろうか?」
鋏の一言で鎖まで、検索を始めた。死ぬほどウザい。
「落ち着いて下さい、二人とも、水谷誠司は亡者です。既に死んでいます。病気にはなりません」
二人は輪廻の言葉に爆笑した。
「そういや、そうか!」
「✂スッカリ忘れていましたよ」
サザエさんみたいな明るい食卓に、俺は辟易した。明日人がいないと、人が増えても、飯を食った気がしないからだ。
「お前ら、自分の食器は自分で片付けろよ?」
食べ終わった食器を下げようと、俺は立ち上がった。
「✂後は私がやっておきます。
昨日のすき焼きも美味しかったですよ。ありがとうございます」
チャッピーの優等生回答を聞きながら、俺は表に出た。
空間端末を広げ、地図を確認し、明日人のいる天上界に繋がる山の方角を見た。
輪廻は3Dの書き割りだと嘘ぶいていたが、光り輝く山の方角だった。
――輪廻の野郎、適当なこと言いやがって。やっぱりあの山が天上界じゃねぇか。
明日人に早く会い、確かめたいことがあった。
神になるということは、永久的な自我の消失になる――という、仮説が懸念としてあったからだ。
輪廻にはこの事について、深掘りするなと警告された。
だが、もしそうだとしたら――。
妙な胸騒ぎがして、端末を見つめながらため息をついた。
すると、そこへモモが近付いてきた。踏まれないよう、即座に距離を取った。
途端にモモは、俺の真横に糞を落とし始めた。場所移動してなかったら、空間端末をぶち抜いて直撃していた。
先ほど鎖が飼い葉をアホみたいに食べさせたせいで、大量である。
「うわあっ!! くっせ!! 何すんだ!! 折角のシリアス展開を台無しにしやがって――!!
チッ!! 飼い主に似て、ムカつく牛だな!!! もー!! わざわざ俺に向かって糞をするとか、最低、最悪だぜ!!」
輪廻が笑いながらこちらへやって来た。俺は思考を中断した。
「あなたの存在は、モモにとって不浄だと判断したのでしょうね。
地獄バイソンは言葉は通じませんが、賢い生物ですよ?」
「俺にはただの、クソッタレ牛だ――残りの二人は何してんだよ? 早くしろよ。日暮れ前には明日人に会いたい」
「さぁ? 仲良く片付けでもしてるんじゃないですか?
詮索するのは無粋ですよ。
BLにおいて仲違いした者同士が意気投合したら……
どんな化学反応を起こすかは、説明しなくてもわかるでしょ?」
――は!? あの二人そういう仲なの!?
昨日やたらとモモの上でベッタリしてたのは狭いせいだと思ってたけど……。
あ――。そういえば。夜中もあの二人居なかった気がする――。チッ!! 腹立つ~!!
「嫉妬は醜いですよ?
あの二人何だかんだでラブラブなの、わかるでしょ?」
「鎖がやたらと機嫌が良いと思ったら、そーゆーことかよ!!! あー。気が付いて、損した。
一生知りたくなかった――!」
そんな話をしていたら、鎖と鋏がやって来た。二人はニコニコしていた。俺はイライラした。
距離があるので声は聞こえないが、鋏が鎖を呼び止めて髪に付いたゴミでも取ってやってるのか、向かい合って微笑み合っている。
ブァーカッ!! 見えないとこでやれよ!!
「チッ!! あく、しろよ!!」
俺が鎖に向かって毒づくと、モモに頭からオシッコをかけられた。
「……」
輪廻はブフッ!! と、口ごもって震えている。
鎖と鋏が慌てて俺に駆け寄ってきた。
「誠司! 大丈夫か!?」
「……大丈夫な訳ねぇだろ……」
口を開くと、尿が口に入りそうなので俺は黙った。
鋏が困った顔をしながら、手からお湯を生成して頭にかけて洗い流してくれたが、焼け石に水である。
クールビズのシャツやスラックスが台無しになった。スマホも無事ではないだろう。それが一番、最低、最悪だった。
「✂一旦、温泉に入りますか――✂」
俺は、昨夜入った温泉に再び体を洗いに入ることになった。
朝日でキラキラ光る湯船に入った。その横に、輪廻もいる。
「なんでお前まで、入ってるんだよ?」
「朝風呂に入っておきたかったんです」
「チッ!!」
「それに、あの二人と一緒にいると、私が二人の邪魔者になっちゃうじゃないですか。野暮はしたくありません」
「知るか!!」
俺は湯を両手で掬って顔を洗った。
やっぱりあのクソ牛は、コチーン☆で、スーパーの特売パックにするべきだった。
「あ、そうだ。お前に聞きたいことがあったんだ」
俺は湯船に浸かりながら、空間端末を開いた。
昨日偶然見つけたタブを開く。
それは、獲得した称号のタブだった。
【 漆黒守護者 】
タブにはその一行しか表示されていない。
「これよ、なんなんだ?」
輪廻は目を見開いて、端末を見つめた。
「いつ、こんなものを獲得したのですか?」
「知らん。昨日端末開いたら偶然見つけたんだ」
「こんな新着情報――私は知りません。
あなたはいつから、漆黒守護者だったんですか――?」




