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水谷誠司が異世界転生してアーシュに出会うまでの冒険譚が少しも、綺麗じゃない件について!  作者: 八車 雀兄
破ンター✕破ンター

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第十九話 夢の中で会った、ような……それはとっても嬉しいなって、もう何も怖くない! あたしって、ほんとバカ





 昔者莊周夢為胡蝶

 栩栩然胡蝶也

 自喻適志與不知周也

 俄然覺則蘧蘧然周也

 不知周之夢為胡蝶與

 胡蝶之夢為周與

 周與胡蝶則必有分矣

 此之謂物化



 昔、荘周、夢に胡蝶と為る。

 栩栩然として胡蝶なり。

 自らたのしみて志にかなえり。

 周なるを知らざるなり。

 俄然として覚むれば、則ち蘧蘧然として周なり。

 周の夢に胡蝶と為るか、

 胡蝶の夢に周と為るかを知らず。

 周と胡蝶とは、則ち必ず分有らん。

 此を物化と謂う。


 荘子




   *




 俺が光るメカブの海で震えていると、元気になった子バイソンに乗りながら、ポンコツAIコンビとクソ山羊が手を振りながら近付いてきた。



「やれやれ……。やっと来たか……。

 ――早く、助けてくれませんか!? お願いします!!!」



「囮作戦大成功だったな! お疲れ――って、なんか、お前クセーな……」



 (金髪傷野郎)が、困った顔をしながらも、子バイソンの上に乗せてくれた。

 俺はナウシカゴッコをしたせいで、粘液まみれである。風が吹くと肌寒い。



「地獄バイソンの粘液ですか。仲間として、臭いをつけられたんですね。しばらく落ちませんよ」



 輪廻(クソ山羊)も苦笑いを浮かべながら俺を見た。



――待て、最低、最悪すぎるだろ。地獄に来てから、ろくな目にあってないんだが!!



「あの、地獄は大概酷いめに合うために送りこまれるので、扱いとしては妥当ですよ?」



 輪廻が俺の心を読んで返事した。



「チッ! 地獄へ落ちたとて――!!!

 なろう的成上がりと国造りで、俺を世界の救世主にする展開くらい、用意しろってんだ! チキショー!!

 あー。腹減った。

 熱々の白飯にメカブかけて食いてぇ――」



 俺は一気に本音を吐き捨てると、子バイソンの背中で仰向けに横になった。


 空は赤いが、常夏で乾燥している。


 嫌な目には合うが、飯は美味い。


 しかし、明日人不在にも関わらず、快、不快が同居して非日常的な楽しさがあることが、気に入らなかった。


 そして、この物語の着地点になる筈の天上界への道が少しも見えてこない。


 ただ、どこまでも、見たことのない場所へと運ばれていく――。



――大学の時に読んだ、安部公房の『カンガルー・ノート』を思い出すな……。



「おい、輪廻――安部公房の『カンガルー・ノート』って、最後どうなるんだっけ?」



「著作権違反と、ネタバレになることなんか、ここで話せる筈ないでしょ?」



「覚えられねぇんだよ。安部公房ってさ……。読んでる時はめちゃくちゃ面白い。なのにどうでも良いところばかり覚えてて、結末が覚えられない――。


 読んでる快感は鮮明なのに、ラストが思い出せないんだ。おかしいだろ?


 大体『カンガルー・ノート』ってよぉ――。

 (すね)にカイワレが生える奇病に罹ったのを治したい筈なのに、どこまでも、どこまでも、違う場所に、連れて行かれて――。


 果ては、地獄の小鬼がダンスしてた気がするんだ。


 ――なのに、ラストが曖昧なんだ。おかしいだろ?

 死んだ記憶すらないのに、地獄に行くってよ――脛にカイワレが生えるのは、何の罪なんだよ?


 そして、カイワレが生えたアイツは、最後どうなったんだ――?」



「前衛小説に意味を求めるのは、ナンセンスですよ。

 それなら、もう一度読み返してみれば良いでしょう?

 読書というものは、年月を経てからの再読も楽しいのですから」



「へっ。俺は、ガキん頃から、読書が嫌いな方でね――登場人物の気持ちに自分の気持ちを重ね合わせる作業が苦痛だった。


 でも『手袋を買いに』は、異常に好きだった。

 『ごんぎつね』は擬人化された動物が殺されることでカタルシスを押し付けてくる感じが、嫌いだったのにな。


 どちらも新美信吉の作品なのに、どうしてどちらも愛せないのか?

 結論として――俺は、読書に向いてねぇんだと思ったね」



「✂おかしな話ですね。しかし、あなたは『ディグオンの伝説』の登場人物になりたがっているじゃ、ありませんか。


 ゲームもまた、物語である――。


 読書が嫌い。

 感情誘導も嫌い。

 なのに、物語で感動を誘導する、ゲームキャラクターには、心の底からなりたい。

 この矛盾した気持ちになるのは、何故なのでしょう?✂」



「感動するか、しないかは、登場人物を愛せるかどうかだろう? やったけど、つまんねーゲームなんか、山程ある。

 勿論、世間のクソゲーが、俺の神ゲーだったなんてことは、よくあることだ。


 それでも、やっぱりプレイした全てゲームの中でもアーシュが好きだ。世界で一番愛してる。外見が好みなのもある。だが、それは一面でしかない。


 俺が本質的にアーシュを愛しているのは、セリフが無いことで、プレイヤーへ自由な心でいて良いことを保証しているからだ。


 セリフがないことで、全プレイヤーの代弁者になる。無言でありながら、多弁。

 それは、小説や芝居では不可能なことだろ?」



 俺の言葉に、鎖は爆笑した。



「お前がプログラムで統率されたゲームキャラになる?

 多弁、我が儘、欲求の塊。死んでもしぶとい自己顕示欲。お前が一番ゲームキャラに向いてねぇじゃねぇか」



「うるせぇな。俺がなりたいのは、ニケルだ。アーシュには、なりたくない!

 俺がアーシュになるなんて、最低、最悪だぜ――アーシュには――世界で最も純真無垢であってほしい……」



「✂あなたはゲームの世界で、無垢なアーシュへずっと語り続けていたいだけなのではないんですか?✂」



「そうかもしれねぇ――あ……」



 俺は、弾かれるように起き上がった。



――アーシュのように、全く自我の無い存在になることを、明日人は望んでいるのか――?



 地獄の赤い空が夕闇に沈む時、言葉にし難い、胸騒ぎを覚えながら、俺は子バイソンの背の上で行くあての無い旅を続けていた――。

次回

「no title」

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