第十八話 その者、白き衣をまといて不毛の地に降り立つべし。失われし大地との絆を結びついに人々を高き天上の地へ導かん――!?
「私はワタシと旅に出る。」
糸井重里
高畑勲監督『おもひでぽろぽろ』
*
「✂今、落ち着かせてるので、触るの止めてもらえませんか?」
子バイソンが威嚇したので、ポンコツ共とクソ山羊に睨まれた。
俺は黙って、スマホを開くと、心の安定の為にアーシュとの夢小説を書き始めた。
――俺には、アーシュがいるから大丈夫だもん!!!
「鋏、治療中すみませんが、この辺一体、半径五十キロを、水鏡観察でいくつか映し出してもらえますか?」
輪廻の希望に答えて、鋏が定点カメラを何ヵ所かに設置して、大型の鏡に写し出した。
「あ――!!! やっぱりこちらに向かって来てる……。さっきの鳴き声に反応して、地獄バイソンの大群が、こちらへやって来てます……」
「えええ――!?!?!? それって、俺のせい!?」
三人は無言で俺を見つめた。
「輪廻、やってくる地獄バイソンの数は? ここは崖の上だ。数万トンの重量が加わったら、崩落する危険がある。
――おぉい! 誠司、お前、囮になって、地獄バイソンの大群を引寄せろ」
鎖は金髪をくしゃくしゃ掻きながら、指示を出してきた。
「✂判りました。水谷誠司には、子バイソンに見える幻影術をかけておきますね」
「え?! 俺、一人……!?」
「つべこべ言わずに行ってこい!!!」
俺は金髪クソ野郎の鎖に巻かれて、限界までの距離に強制移動させられた。
「やり方が、乱暴過ぎる――!!!」
そして、俺は不毛地帯に一人取り残された。
鋏が霧を止めてるので、辺りは隅々まで見渡せる。赤い土。子供の頃、海外旅行で連れて行かれたオーストラリアのエアーズロックを思わせる何もない場所だった。
足の裏に、微弱な振動を感じる。地獄バイソンの群れが俺に向かって近付いてる証拠だ。
――やれやれ。折角の和牛を食い損ねたぜ。
俺は、やれやれ系主人公になることで、心を落ち着けようとした。
だが、遠くから見える地獄バイソンの群れが黙視出来る距離になると、逃げ出したい気持ちになった。
――数が凄い……。待って……!! デカさもスピードもヤバいんだけど!!!
俺は、子供の頃に父親から見せられた『風の谷のナウシカ』を思い出した。
――確か、ナウシカが王蟲の大群に囲まれるシーン――アレ、大怪我してなかった!? え!? 俺もそうなるの!?
俺はあのアニメのお陰で、節足動物の足がグジュってるヤツが苦手になった。触手モノもNG!!
なので、ダイオウグソクムシとか、マジキモいと思っている。
巨大で真っ赤な、地獄バイソンが俺に向かってやって来た。角で跳ね上げられるかとヒヤヒヤしたが、徐々にスピードダウンして、俺から三十センチ程の距離で、綺麗に停止した。
――獣臭い。何千頭いるのか判らないけど、なんか、牛舎の臭いがする……。
そして、停止した地獄バイソンの額から、緑色の細い触手がにゅーっと、伸び始めた。
――おえええええっ!!! こわっ!!! 哺乳類なのに、頭割れて触手出すとか!!! キモいキモいキモい!!! 助けて――!!!
緑色のメカブに似た無数の触手は、俺にしっとりと触れた。
――白米にかけたら、美味そうだな。なんか、磯臭いし。うーん……完全に生温いメカブだ。
俺は何万、いや、何億もの光るメカブに持上げられながら、その波の中を両手を広げ、歩いた――。
――ららん、らんらららんらん、らん、らん、らんらららん♪
だが、下を見ると十メートル程の高さである。脳内で歌うのは、すぐに止めた。
「高い――!!! 怖い――!!! ナウシカなんで平気なの!? あ、普段からメーヴェ乗ってるからか……
後、これ、いつまで続くの――!?」
やっぱり、今回も――俺は泣いた。
次回
「第十九話 夢の中で会った、ような……それはとっても嬉しいなって、もう何も怖くない!」




