第十七話 地獄子バイソン登場!!! 悲しそうな瞳で見ているよ? ドナドナドーナドーナ♪ 子バイソンを乗せて~♪ ドナドナドーナドーナ♪ 荷馬車が行くよ~♪
Nature is not cruel, only pitilessly indifferent.
自然は残酷なのではない。ただ、容赦なく無関心なだけだ。
*
なんか、俺が三人がかりでフルボッコにあってると、急に地面が振動した。
「揺れてる……?」
その揺れが段々大きくなってきた。
辺りは白い霧に覆われていて、空気まで振動しているようだ。
下からの振動で立っているのが辛くなってきた。
――地獄も地震あんの? 温泉でも湧いてるのか?
俺が呑気な想像に耽っていると、
「え!? 嘘でしょ――!?」
輪廻は青い肌をさらに白くして叫んだ。
「皆さん!!! 今すぐ高台に逃げて下さい!!! 早く!!! じゃないと、全滅します!!!」
――へ?
「この地響きは、地獄バイソンの足音です!!! こちらに向かってきてます!!!」
「✂位置を確認するため、一時的に霧を消します!!!」
鋏が詠唱無しで霧を消すと、遠くから、赤い生き物が一匹こちらに向かって走ってくる。
辺りは地平線の広がる平野である。高台は無い……。
「うわぁ――!!! 走って下さい!!! 当たれば、四肢が吹き飛びますからね!!
形容じゃない地獄の苦しみにあいますから!
兎に角逃げて――!!!」
俺たちは、一斉にバイソンから逃げた。
後ろを振り返ると、ヨダレを垂らした獰猛そうな、鋭い角や牙を持つ、牛に似た生物がドンドン迫って来ていた。
「あれが地獄バイソン!?」
俺だけスラックスなので、走りにくい!
「――の、子供ですううう!!!」
輪廻は全力疾走で叫んだ。
――は? 子バイソン!? 思ってたのと違う……!!!
振り返るともう、すぐ近くまで来ていた。おいおいおい! 体高三メートルはあるんじゃねぇか? 大型トラックが後ろから迫ってくるような恐ろしさだった。
当たったら吹っ飛ぶだけじゃすまないだろう。踏み潰されたら――想像したくなかった。
「お前ら! 歯を食いしばれ!!!」
鎖は叫ぶと、地獄バイソンの角へ鎖を放った。
そして、全員の体を鎖で繋ぎ、そのまま地獄バイソンの頭上に移動させた。
強い衝撃でしばらく身動きがとれない。鎖が命綱となっていた。
「ふり落とされンなよ――!」
地獄バイソンの真っ赤なたてがみを掴んで、必死にしがみついた。物凄い速さだ。
「聞いてた子バイソンと、全然違うじゃねぇか!!!」
俺は、輪廻に向かって怒鳴った、
「どんなのイメージしてたのか、知りませんけど、生命は尊いですよ?
重さ五トン、体高二百五十センチ。甘えん坊な性格で――時速六十キロで走ります!」
「いやいやいや!!! 頭コチーン☆ で、すぐ消え去るような、代物じゃねぇだろおおお――!!!」
――イメージ詐欺にも、程がある!!!
しかし、なんか、今にも転倒しそうなバランスの悪さだ。そうなったら、振り落とされるか体の下敷きになって、死ぬ。
金ダライみたいな温い死に方は出来ないだろう。その事実にゾッとした。
「コイツ、 前足に怪我してねぇか――!?」
俺は鋏に向かって叫んだ。
「この状況じゃ、魔法も使えませんよ――。まず、止まらせて下さい!!」
――無茶言うなよ!!!
「あー!! メンドクセェ!!! アレやれ!! コイツの母親の画像とか映せよ!!!」
「無理です!! ある程度の知的生物でないと、意志疎通ができないので水鏡観測は使えません!!!」
「チッ!!――やっぱり、コチーン☆ 出来てた方が建設的だったじゃねぇか!!!」
俺は輪廻に怒鳴った。
「待って下さい!!! この先――崖です!!!」
俺を無視して輪廻が叫んだ。
――チッ! 最低、最悪だぜ――!
「おい!!! 鎖!!! テメーの麻痺のデバフを牛にかけた後に、鎖を使ってバイソンを空中に縛りあげろ!!! 絶対に、転倒させるな!!! 鋏もコイツを眠らせろ!!! 兎に角、物理的に止めるしかねぇ!!! 今すぐやれ!!」
「誠司のクセに、俺に命令するんじゃねぇ!!!」
金髪傷野郎は鎖を展開させると、子バイソンを俺たちごと空中に浮かせた。
下を見ると、霧の向こうに大きな川が流れていた。
危機一髪だったが、崖からの転落は防げたようだった。
「っぶねー……。つーか、これで子ってことは、親は――?」
「この、倍はありますね」
――コチーン☆ 絶対不可能じゃね……?
俺と輪廻は先に地上に降りて、眠っている子バイソンの地上に降ろす誘導役をやった。
体重が重すぎるので、鎖に子バイソンサイズの低反発マットを生成させ、そこに空中から着地させるという、慎重な誘導作業を行う。
「オーライ、オーライ。もうちょい右ー。はい、ストップー」
俺はヘルメットと誘導旗を振りながら合図した。
「こちらは問題なし。降ろして下さい――そのまま、ゆっくり――怪我してるのは、前右足なので、そこを巻き込まないようにしてください」
鎖に生成させた無線で輪廻と連絡を取合い、何とか、子バイソンをマットに寝かせると、鎖もホッとしたように、降りてきた。滝のような汗をかいて、輪廻に労われていた。
――ん? ちょい引っ掛かるな……。
「鋏、子バイソンのバイタルと意識は~?」
色々モヤつくが、ポンコツメガネに話しかけた。
「✂安定しています これなら、三十分くらいで処置は終れますよ」
「麻酔が足りないなら言ってくれよ? 相棒」
「✂今のところは大丈夫ですね」
AI同士は笑顔で見つめ合っていた。どうやら、この一件でお互いをバディと認めあう仲になったらしい――。
――それ、主人公が仲間を得る時に発生するイベントじゃね? AIって、万能じゃねぇしな! 頭の悪い者同士、せいぜい仲良くして、俺の役に立てよ――。
俺は全員の危機を救ったのに、まだ、ぼっちだった。後、誰からもお礼を言われていないことに、不満を感じていた。
「ありがとうございます、鎖。あなたのお陰で全員が助かりました。鋏もよろしくお願いしますね」
輪廻がポンコツ達へお礼を言ったので、俺は顔を思い切りしかめた――。
――主人公を労わねぇとか、どういうことだってばよ!?
俺が、岩に腰かけていると、子バイソンの目が開いた。何もかもデカイ。目玉もバランスボールくらいある。
そっと大きな鼻面を撫でてやると、
「ンモォオオオオ――!!!」
思い切り威嚇された――。ちょっと涙出た。
次回
「第十八話 その者、白き衣をまといて不毛の地に降り立つべし。失われし大地との絆を結びついに人々を高き天上の地へ導かん――!?」




