第十六話 技能獲得を増やすぞ! なぜか? それが異世界物の王道だからだ!
"Cela m’était égal."
私にはどうでもよかった。
カミュ 『異邦人』
*
悪食か――。
地獄の食生活が快適になるなら、構わない。
あの、超有名スライムっぽいから、俺は割と気に入っていた。
何でも美味しく食おう。
旨い物が食えれば、俺はわりと平気だ。
食べ続ければ何か、チート級に進化するかもだ。
「そんな単純なことで、チート能力なんか獲得出来るわけ無いでしょ」
輪廻が呆れ顔で、見つめた。
「チッ――。チート能力ねーのかよ?」
「あなた、努力や時間をかけて獲られる力を、死んだくらいで得ようとしてるんですか?
某スライムだって、防御にパラメータを極振りする子だって、ちゃんと物語の積み重ねを経ているでしょ?
読者はチート能力が見たいわけではなく、なぜそのキャラが、何をも寄せ付けない程の超能力を獲得したのか、その過程をキャラと歩みながら楽しみたいんですよ?」
「おーい、正論で冷や水ぶっかけんなよ?
けどな! 話が面白くならなきゃ、意味がねぇだろー?」
「はぁ? じゃあ、どんなチート能力が欲しいんですか?」
「大勢の敵を一瞬で倒せたりする……とか?」
「野蛮ですねぇ。死んでまで、誰かと争い続ける発想がナンセンス過ぎませんか?
大体、争いに伴う死体処理とか、どうするんですか?」
俺はグロが苦手なので、死体というワードが生理的に無理だった。
「んー。死体? そこは……やだなぁ……出来れば、砂みたくサラァ――と、キラキラ消えてほしい」
「はぁ!? 遺体を埋葬もせず、殺戮のみ特化させるということですか? どれだけ自己中心的なんですか?
そもそも、大量殺戮できるような能力自体がコンプラNGですから、そんなの許容しませんからね!?」
「チッ――俺TSUEEEE!!! 出来ないじゃん、おもんな!」
「では、食材捕獲用のスキルでも磨いたらどうです?」
「美味い生物いるの?」
「ふむ、地獄バイソンの味は和牛に近いですよ?」
「その、能力絶対欲しい!!! さばく技術とか!!!
――あ、嘘……。やっぱ止めた。うーん――でも、和牛食べたい……血が出ない方法で、肉に変える方法できない?」
「むちゃくちゃですねぇ!」
輪廻は、呆れだした。
「一頭分、牛タンとホルモンまでスーパーのパックにする能力が欲しいんだけど……真空パックで、何時でも美味しい――みたいな!
でも、血とか脳ミソとか内臓は――気持ち悪いし、怖いから見たくない!……こ、これは、コンプライアンス的な、配慮として! 血や内臓は、俺もNG!」
「え? 狩猟スキルの解体技能をスっ飛ばして、スーパーのパッキングされた状態にしろ――と?」
「そう! だって――怖いじゃん? 読者も食欲失くなっちゃうじゃん? 画的にも屠殺なんて、全部モザイクじゃん?
あ!! そーだそーだ!! 良いこと思いついた!
地獄バイソンが現れたら、杖っぽいので、頭コチーン☆って、叩いたら、一頭分のお肉やホルモンが全部バックに変わった方が、令和的じゃね?」
「あの、それ、逆に怖いですよ? それで、もし、パックの山を背景に、あなたがホクホクしながら調理していた時に、子バイソンが母親バイソンを探しながら、悲しい鳴き声で登場したら――あなたは、どうするんですか?」
「ええ……うーん……なんか、俺が悪者っぽいけど、そりゃ――子バイソンもコチーン☆かな?
子牛の肉、絶対――美味いし」
「いやあっ!!なんて残酷な!!!
コンプライアンスに抵触はしないからといって、そんな技能を読者は、絶対許しませんよ……!!!」
「悲しいけど、これグルメなのよね――」
俺はスレッガー中尉の声真似をして、食欲のために私情を捨てることにした。
ギュルルルル――。
なんか、変なSEが聞こえた。
「あ、今、あなたの徳や好感度が急激に下降しました。
ビッグモーターが炎上した頃のSOMPOホールディングス株価みたいに。
悪食も……あー闇属性として、固定されてます――。
はぁ……酷い。酷過ぎる」
鋏と鎖もドン引きしながら、
「コチーン☆ は、ねぇ!
人の心が無さすぎんだろ!
しかも、よりによってファーストの名台詞と併せるとか、敵を作るために言ったのか?
うわぁ……引いたわ。無理だし馬鹿だし。庇いようがねぇ……お前、マジでXにポストすんなよ?!」
「✂食欲の為に、実際行動したわけではありませんけど、問題はそこではなく、
【生命を軽視する発言】が、あり得ないです✂」
「え!? 俺は、ちょっぴり想像した便利なこと、口に出しただけじゃん!
なんで、そんなに怒られるの!?
でも、皆、美味しいお肉は食べたいじゃん!!! 和牛美味いし!!!
お前ら、絶対、地獄バイソンの子供美味いと思うって――!!!」
「✂子牛コチーン☆
ドヤ顔でスレッガー中尉は無いです!
✂実際いたら、激痛ポストでミュートします✂ 恥ずかしい……」
「無い無い無い。ヒデーわ。自分が思ったことを、世界中の皆が面白いと思う想像力の無さが怖っ!
ポストした途端、こんな文章、翌日炎上血祭りにされるのが令和の常識だろ?
バカとして、発掘されてぇのか!?」
「彼、一応タイトルに名前ついてる、主人公の自覚無いんじゃないですか?
炎上予防の為に一旦、降板させます?」
三人はヒソヒソと、タイトル変更会議をし始めた。
「だって! グルメって、そうじゃん!
子牛や子羊は、やらかくて美味しいんだからな!?
そんなの言ったら、有精卵とか!!
食べれなくなるじゃん!!!
主人公にヴィーガン強制するのは、良くないと思います!!!」
俺は少し涙目になった。
スライムがドラゴンや希少魔法鉱物を食べるのは良くて、俺が美味しい地獄バイソンの子供を食べると批判されるのは納得がいかない。
「そもそも、俺はまだ、コチーン☆する能力持ってねぇ!!! 想像の話だろ!? 実際可哀想な地獄バイソンはいないのに!!!」
「あーあ。開き直った~!
はい、バカがより、バカを露呈して、踊り始めました~!
世界中のガノタと動物好きの皆さ~ん!
サンドバッグは、こちらですよ~!
ハイ、お前の垢終わったー!」
「うわぁ……その想像力の低さ、発言してしまう浅慮を注意されているのに――✂」
「コチーン☆技能なんか、大却下ですよ!
間違って人に当たったら、大事故ですよ!?
こんなものが技能として通ったら、法務部トップ全員の、首が飛んでしまいます。
私も管理不行き届きで懲戒免職ですよ」
三人はぷりぷり怒りながら、俺の発案した、コチーン☆ は最低という、結果に終わった。
え? 何、この回? 俺泣きそうなんだけど?
「えー……じゃあ、何て言えば良かったんだよー」
「誠司、テメーは喋るな! ポストすんな!」
「✂話すなというのは、極論ですが――失言そのものは、みんなが言ってしまうことです✂
軽口。内輪ノリ。知識不足。想像力不足。
これは誰でも起こる。創作者でも、政治家でも、友達同士でも。
問題なのは、そのあと。
■パターンA
ごめんなさい。配慮が足りませんでした。
これで だいたい鎮火する△
■パターンB
冗談だろ。。文脈読め。叩く方がおかしい。
ここで 火に油。✕
■パターンC
開き直り。何が悪いの?
これは 完全炎上ルート。✕✕✕
人が怒る理由って実は、発言そのものより態度なんです。
人は、失敗だけなら許せても、傲慢は許せない傾向が強い。
配慮が足りませんでした。これが言える人は炎上が長引かない。逆に言えないと
【問題が人格の話】に切り変わる」
「鋏の理論は『ちょっと甘い』SNSが優しさだけで出来てると思うな。
態度さえ良ければ鎮火するは理想論だ。確かに九割はそうだけど、残り一割は
【内容がヤバすぎて謝罪じゃ済まない】ケース。
例:児童関連の失言、差別発言、犯罪擁護、動物虐待系。
こういうのは謝罪程度じゃ収まらない。鋏の理論は『軽めの炎上』に特化してる感じがする。
鋏の理論をベースに、少し俺の厳しさを混ぜたバージョン:
発言前に「炎上リスクチェック」を習慣化
『これをXにポストしたら、1週間後の俺はどうなる?』を自問自答。
失言したら即パターンA
『ごめんなさい。配慮が足りませんでした』+事実確認+再発防止宣言。
これで9割は鎮火。
【内容がヤバい時は最初から言わない】
想像の話でも、児童・差別・犯罪・動物虐待関連は絶対NG。
炎上リスクを内容でゼロにするのが最強。
わかったか? 誠司」
「俺は! 和牛が!! 食べたいだけだ――!!」
炎上してないのに三人にボコボコにされ、俺は泣いた――。
次回
「第十七話 地獄子バイソン登場!!! 悲しそうな瞳で見ているよ」




