第10章【番外編2】 初夏の霜月駅に於いて
霜月駅を訪れるのは、二ヶ月ぶりの事である。と云うのもその時僕は中学で仲の良かった岡田耕司と云う奴と、霜月の更に向こうに在る津屋と云う小さな町へ向かった時、此の霜月で一時間もの接続待ちをしたのだ。尚、此の駅には、道の駅ではなく非常に紛らわしいのだが、「まちの駅 しもつき」なる施設が併設されて居り、軽食も楽しめる。僕と岡田は、其処で味噌饂飩を食べたのだが、非常に美味しかった。
さて、其の訪問に於いて特別な点は、僕が此の駅の待合室に駅ノートを設置した事に在る。駅ノートとは、主に田舎の無人駅等に置いて在る、駅に訪れた人が旅の感想等を自由に書き込めるノートの事だ。実は日本中に在る駅ノートは、殆どがこうした有志に依る物だ。僕の様に旅の好きな人が遠方のノートを数冊管理することもあれば、今年度廃止された深益線で一時話題になった宇久井駅の様に、鉄道趣味とは無関係な地元の老人が管理して居る等の例も多い。
実を言えば、千布鉄に乗る為には、霜月の一駅手前の佐貝と云う駅で降りれば良かったのだ。にもかかわらず何故一駅先の霜月まで来たかと言えば、此の駅ノートを確認し、初めて此処へ来る石川へ見せる為に他ならない。僕は駅ノートが紛失してはいないかと多少不安を覚えながら待合室の扉を開けた。
待合室に入るや否や、其の部屋の中央に在る机の上に置いて在った駅ノートが目に入った。間違いなく二ヶ月前に自らが置いた物である。表紙の、「霜月駅駅ノート1」と云う角張った字は、明らかに僕の書いた物だと分かった。僕は、一体どのような書き込みが在るのだろうかと胸を高鳴らせながら、其の表紙を捲った。
先ず驚いた事には、二ヶ月間置いただけで、もうノートの半分が埋まっていた。実は霜月駅での新殿・島田方面と津屋・員部方面の接続は非常に悪いので、乗り継ぎ待ちで暇な人が沢山書いているのでは無かろうか。僕はそう考えたのだが、何にせよ書き込みが多いことに僕は少し嬉しくなった。
駅ノートを無事見届け、佐貝へと折り返す為新殿行きに乗った(先刻の列車が折り返すだけだが)僕と石川。実は此の霜月駅に居た時間は、わずか九分に過ぎない。




