第十八話
「ええっ?!
ランちゃんってば、ちゃんとお仕事をしていたんですねっ?!」
色違いの猫目を丸くして驚くミオン。
「そりゃないだろ……」
ちょっとだけ情けない姿を見せた自覚のあるランスロットは苦笑するが、すぐに顔を引き締める。
「……分かったことを擦り合わせるぜ、ミオン。
お前も……改めてサーデス神殿を調べなおしたんだろ?」
ランスロットとミオンの視線が重なる。
王弟の次男、サミュエルが失踪した一件を解くための鍵を並べていく。
「……失踪したサミュエルがサーデス神殿に入ってから、今日までの出入りの記録は洗い出した。
殺害されたアーガスト侯爵家の影についても、分かる範囲で調べ尽くして、そして……」
出入りの商人、入殿希望の見学者、それ以外の者たち。
調べ上げたサーデス神殿における殺害された影の言動。
その影が死ぬ間際まで持っていた所持品、その中に有ったレースのハンカチに大切そうに包まれた"薔薇の押し花"。
「特徴的な昏倒薬の刺激臭……その奥に微かに香った"匂い"。
致命傷になった傷、殺害された状況の違和感はミオンの領分か?」
共に鼻の良いミオンとランスロット。
「匂い?
確かに、特徴的な刺激臭とは別の匂いはしましたけど……」
だが、ミオンは気付けず、ランスロットが気が付けた理由。
「刺激臭から追いかけた昏倒薬を購入した人間の特定はもうすぐ。
そして、ランちゃんのいう殺害された影についての違和感。
何故、殺害された影は殺意に反応をしなかったのか?」
「そう……其処が、可笑しい。
お前なら俺に背を向けても、俺がお前を殺そうとした瞬間に首を掻き切るために振り返るだろ?」
「当然ですね。
影は殺意に反応して迎撃態勢に入る訓練を積んでいますもの。
アーガスト侯爵家が中途半端な実力の影を作るはずがない。
徹底的に訓練を課された影が、味方だろうと顔見知りで有ったとしても、背後から殺意の刃を向けられて抵抗もせずに殺される。」
……自分ならば……ランスロットの言うとおり、抵抗もせずに殺される。
……そんなことは、絶対に有り得ないとミオンは目を細める。
「……追加情報を出すぜ、ミオン。
先日、フォード副騎士団長達とサミュエルに会うために訪れたサーデス神殿。
その時の案内役こそが……殺害された影本人だった。
……そして、俺はその時に微かに香った"匂い"の持ち主を三人……知っている。」
だからこそ、俺は気が付いたんだよ!と口角を上げるランスロット。
「三人……一人は、殺害された影。
じゃあ、残りの二人は?」
「ははっ!
ミオンは、誰だと思う?」
「……ちょっと、ランちゃーん……勿体ぶるのはやめてもらえますぅ」
額に青筋を浮かべたミオンから殺意の波動が迸る。
「悪い、悪い。
……けどな、二人の内の一人の名前は……お前が見付けた"押し花"が示してるぜ」
「押し花……?」
己の言葉に眉を寄せるミオンに、ランスロットはニヤリと微笑む。
「俺さ、薬が趣味じゃん。
薬って色んな物が材料になるんだよ。
だからさ、花の名前も一通り知っててな……」
「押し花……薔薇の、名前……」
「そう……ピンクの薔薇の名前だよ。
薔薇の花の名を持つ者は複数いるが、アーガスト侯爵家の影が守るピンクの薔薇の名を持つ人間は唯一人。」
ランスロットの言葉に、数ある薔薇の名前と人名がミオンの頭の中で交錯していく。
「っ……まさか……」
「ああ、その"まさか"だよ。
そして……もう一人の"匂い"の持ち主。
それは薔薇の名前の持ち主と関係がある、いや有ったんだ……」
ランスロットとミオンの視線が交わる。
「……ランちゃん、この件はすぐにセレスティナさまに報告するけど……」
「分かってる。
行動力の増したひーさまなら……どう、動くか……」
「「…………」」
ミオンとランスロットは顔を見合わせて、何方ともなく苦笑してしまう。
「……ミオン、俺がひーさまの側に侍れないぶん頼んだぜ」
「当然ですぅ!
こぉの可愛いミオンちゃんにお任せあれ!」
ニィっと笑い合うミオンとランスロット。
不敵な笑みだけを残して、一瞬で姿を消したミオン。
「……マジで、頼んだぜ」
ミオンが立っていた場所を見つめ、ランスロットは静かに呟くのだった。
――セレスティナの自室。
「……以上が、ランちゃんと集めた情報になりますぅ」
就寝前の一時。
寝台に腰掛けたセレスティナが、ミオンが集めた情報に耳を傾けていた。
「そう……」
ミオンからの報告で、薔薇の名前の持ち主を理解したセレスティナは思考を巡らせる。
「……実際に……言葉を交わしてみなければ、分からぬことも有るでしょう」
「……セレスティナさまぁ……」
危険なことをしないでください……と喉元まで出て来そうになる言葉をミオンは飲み込む。
「心配を掛けてしまって、ごめんなさい……ミオン」
でも……動かなければ始まらない、とセレスティナは強い意思を瞳に輝かせる。
「……会いに行きましょう……ピンク色の薔薇の花の持ち主に」
これはジェダイトではなく……アシュレイに頼むべきかしらと、セレスティナは困ったように微笑むのだった。
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