閑話三
―――雨雲の狭間より稲光が走る。
「…………」
「……細工が施されていたことを、見抜かれても構わなかった……いや、見抜かれることを分かった上での嫌がらせ、か。」
窓硝子に叩き付けるような酷い雨音が響く。
「…………」
「……死んだ数日後に見付かったらしい。
死体は酷い有様だったとかで…………すぐに焼いたそうだ。」
雷に照らされた遺品の剣と……小さな壺。
そして……剣以外の少ない遺品の中で、存在を主張する"薄汚れた布"。
「……高潔な騎士様とやらを目指していたアイツの……」
同じ赤銅色の髪を持つ父と長男、ガノンとランスロット。
その脳裏に浮かぶのは……許せぬ罪を犯した次男のフレドリックの生前の姿。
今はもう……小さな壺の中身に収まる、骨になったフレドリック。
「っ……」
目を細め、遺品の中に有った薄汚れた布を手に取ったランスロットの鼻腔に突き刺さる……微かな香り。
「……始末された。
あの狸ジジイにとって、都合の悪い考えでも持ったから……排除された」
書面に記された弟、フレドリックの死ぬまでの経緯。
同じように逃げた訓練生よりも、執拗に魔物に狙われたフレドリック。
その理由が……ランスロットには、痛いほどに分かった。
「陛下より付けられた首の鈴が五つ。
その内の四つは、あの侯爵にとっては生かす価値はない…………それだけのことだった」
ランスロットは、ギリリと奥歯を噛み締める。
「…………」
決して仲が良かった兄弟では無い。
出来損ないと嘲笑される兄を嫌っていた弟。
「(……何故……受け取ったんだ……!)」
書面の内容から推測するに、"虫除け"とでも言われて渡された可能性が高い。
「…………っ」
ランスロットの心に、まだ仲が良かった頃の……いや、袂を別けた日の記憶が蘇る。
訓練中の弟に、気まぐれで渡そうとした虫除けの匂い袋。
「ほら、やるよ。
虫に刺されるのは嫌だろ?」
小さな弟の口元を引き結んだ顔。
「いらないっ!」
渡そうとした己の手を払った弟。
「兄上はできそこないだってみんな笑ってる!
お前とちがってぼくはりっぱな騎士になるんだ!」
振り払われて宙を飛び、中身が飛び散った匂い袋。
「……そーかよ。」
泣きそうに顔を歪めて、ランスロットを拒絶したフレドリック。
立派な騎士になることを夢見た弟の結末は…………騎士として、死ぬことも許されなかった。
騎士として死ぬことが許されなかったことは……受け入れよう。
王家が、国が……自分たち家族すら、フレドリックが犯した罪を許さなかった末路なのだから……!
…………だが……だがっ!
「…………何で、わざわざ……虫除けを使いやがった……!」
「…………」
ランスロットの瞳に怒りが燃え上がったことを、ガノンは確かに見た。
「…………騎士として……死ねないことは、分かっていたことだ。
ランスロット、怒りに目を曇らせてはならぬ。」
第三騎士団長の重責を背負う者として。
そして……罪を犯した息子の首を刎ねると言った父として。
フレドリックの死の真相を暴く資格など……最初から無い。
暴く必要すら無い……だから、改革派であるガノンに対する嫌がらせの一環としてフレドリックを使った。
「……分かっています。
何もしません、する必要はない。
いずれ……決着を付ける日が来るでしょうから。」
失礼します、と踵を返すランスロットの背中を見送ったガノン。
「…………この剣を、まだ……持っていたのか……」
遺品の中に有ったフレドリックの折れた愛剣。
「…………」
学院に入学した時に、ガノンと妻がフレドリックへと買い与えた剣。
フレドリックのために作られたはずの剣は……フレドリックの命を確実に奪うために細工が施されていた。
「……折れて、しまったのだな……」
命を喪うと分かっていた。
騎士団長として、騎士として……受け入れていた息子の結末。
「……私も……まだまだ、修練が足りぬな……!」
愚か過ぎる息子よ。
お前は……死ぬ間際に、何を思った?
「…………」
ガノンは静かに目元を覆い、天井を見上げるのだった。
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