第十四話
「御機嫌よう、ベルフォート騎士団長。
お伝えしたお茶会の時刻よりも、些か早いようですが…………何か、別件ですか?」
「愛しい我が婚約者殿に一刻も早く会いたくて来てしまった…………とでも、返した方が良かったか?」
セレスティナが入室を促す前に、さっさと執務室へと足を踏み入れるジェダイト。
「っ……ジェダイト様!
いくら婚約者であろうとも、最低限の礼節というものが……」
「黙れ、テレンス・マードック。
……この女は、最初から私とお茶会など開くつもりは無い。
そのつもりが有るならば、直属の侍女を第一騎士団に向かわせぬ。」
婚約者の姫君に対してあんまりな言動だ、と慌てた様子でジェダイトをテレンスは諌めようとした。
「ふふ……よく分かりましたわね、ジェダ。
このような時に、わざわざお茶会の準備をして、呑気に時間を無駄にする気は毛頭ありませんわ」
「…………は?」
クスクスと笑うセレスティナの反応に、テレンスは目を見開いてしまう。
「一応なりとも、体面的には婚約者同士のお茶会だ。
テレンスが言う所の婚約者としての最低限の礼儀だ。
……後で、適当に侍女に生けさせておけ。」
「まぁ、ありがとうございます……可愛らしい薔薇ですわね」
「そして、此方の方がお前は喜ぶだろう」
無造作にジェダイトが渡して来たのは、小さな薔薇が可憐な花束。
そして、分厚い紙の束だった。
「ふふふ……流石は、ジェダですわ。
私の考えはお見通しですわね」
花束を一瞥したセレスティナは、早々に紙の束へと視線を移して目を通して行く。
「……あの、セレスティナさま?
お茶会をするというのは……」
「建前ですわね。
本音は、此度のサミュエル殿失踪に関する情報交換です」
「「「…………」」」
アレクシェルとイザベラ、そしてテレンスは無言になってしまう。
少なくとも、アレクシェルとイザベラはお茶会はセレスティナの息抜きのために開かれるものだと思っていた。
「(……ミオン殿のことだから、僕やイザベラが気が付かない内に準備をしているものだと……)」
ミオンが第一騎士団へ赴いていることは把握していた。
だが、アレクシェルはお茶会についてのセレスティナの意向までは把握できていなかった。
「……アレクシェル、貴女とイザベラにはお茶会ではなく情報交換の場だと伝えても良かったのだけど……。
周囲の目を引き付けるために、わざと貴女に第二騎士団へ招待状を届けてもらったの」
「謝らないでくださいっ!
己がまだまだ未熟だったのです!
それに、僕が知らないことが、セレスティナさまのお役に立つならば、それで構いません……!」
勘違いをさせて、ごめんなさい……と謝るセレスティナに、アレクシェルは慌ててしまう。
「……今回の一件は、わからないことが多すぎます。
だから、小さな波紋を起こして周囲の反応を見定めようかと。
……改革派、穏健派、それ以外……」
誰が何の目的で……この事件を起こしたのか?
「……春先の婚約破棄の影響で、様々な思惑が大きく揺れ動き……盤面は大きく狂った。
少なくとも、春先の件が無ければ……私とジェダの婚約など有り得ませんでした。
もしも……それが、切っ掛けだったとすれば……」
犯人の狙いがセレスティナもしくは、ジェダイトだったならば……
「……例え、執務室で行われようとも、第一王女と婚約者の私が仲睦まじく過ごしている。
その事実を周囲に知らしめることだけが目的だろう?」
「ええ。
それで尻尾を出してくれる程度の輩ならば、御の字なのですが……」
「……現状では情報が足りぬ。
揺さぶりを掛けつつ、尻尾を探すことが先決だ。」
「ええ……」
ジェダイトの言葉に、セレスティナは書類に目を通しながら頷く。
「(……サーデス神殿を訪れた者……普段から神殿へと通っている商人たち、それ以外も見学者を含めれば数人。
さらに、第一騎士団所属の騎士……フォード副騎士団長、アラン・エルスマン、ランスロット、アレクシェル。
このアラン・エルスマンは……確か、伯爵家の三男だったかしら……?)」
ジェダイトが持って来た書類の中には、この一ヶ月程度の間に神殿に出入りした者達の記録が記されていた。
「……一通り確認しましたが、不必要に出入りしている者は居ませんわね。」
「ああ。
だが、不必要に出入りしていないからと言って、白とは限らぬ。
少なくとも、この書類に記載した者は、徹底的に裏を取るように指示をしている。
勿論、第一騎士団所属だからと言う理由などでは手は抜かぬ。」
「……わかっています。
私の護衛であるアレクシェルを含め、ランスロットについても調べて頂いて構いませんわ。」
「っ……」
当然だと返すセレスティナに、一瞬だけアレクシェルの眉が動く。
「最も、アレクシェルとランスロットに関しては、探られて痛い腹はありませんもの」
「っ……ありがとうございます……!」
続けられたセレスティナの言葉に、アレクシェルの頬が微かに赤く染まった。
「……もう一点。
セレスティナ、先ほど陛下へは進言したが……我が弟、サミュエルは失踪した日に死んだこととなる」
静かに告げられたジェダイトの重たい一言に、セレスティナは目を見開くのだった。
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