第十一話
サーデス神殿より脱走を計画していた可能性が高いサミュエル。
殺害されたサミュエルの監視役だった神官を装ったアーガスト侯爵家の影。
「……ミオン、資料にはサミュエル殿の自室の扉には鍵が掛かるのよね?」
「はい!
まあ、危機感の薄そうな甘ちゃんじゃなくてぇ、サミュエル様が鍵を掛けるかは不明ですけど!
確認した限りでは、鍵穴を無理矢理こじ開けたような形跡はありませんでしたよ〜。
あくまでも、私の勘ですけど…………サミュエル様が消えた現場は殺害された影の近くだったのではないか、と。」
「勘、と言うけれど……ミオンは何か感じ取ったものが有るのでしょう?」
「ふふ……そのとーりです、セレスティナさまっ!」
ミオンの色違いの瞳がギラギラと妖しい光を放つ。
「殺害された影の死体を検分してきました。」
「っ……ミオン殿、それは……!」
「言っときますけど、ひよっ子レベルで考えないでくださいね。」
死体を検分したと言うミオンの言葉に、アレクシェルが動揺する。
そうでなくとも、サミュエルの失踪で王国上層部はピリ付いているのだ。
問題の遺体が置かれている安置所の警備も、俄然厳しくなっている。
そんな場所に忍び込むなど、アレクシェルにとっては薄氷の上を歩くように、危険極まりない行為だった。
「王城の遺体安置所程度、忍び込んでも見付かったりしませんよ。
……私も、影の端くれですから。
王城内の抜け道は大小問わずに把握しています。」
動揺するアレクシェルをミオンは鼻で嗤う。
セレスティナの懐刀たる者。
その程度の技量を持っているなど、当然のことだとミオンは考えている。
「そんなことよりも……殺害された影の遺体で気になることが有ります。
私の鼻でも微かに香る程度の……あの、独特な匂い。」
ミオンは無意識に己の鼻を撫で、何かを思い出すように思考を巡らせる。
「確実では、有りません。
でも、あの独特な……鼻に刺さるような匂い。
あれは破落戸がよく使う誘拐する相手を昏倒させる薬の匂いです」
普段の間延びした口調も忘れ、ミオンは目を細める。
「……ま!
ミオンちゃん個人としては、サミュエル様がどうして裏門から逃げようと考えなかったのでしょうね?
それがぁ、ミオンちゃんにとっての一番の謎ですぅ!」
うふふ!と賢い猫のように微笑むミオンに、アレクシェルの頬が微妙に引き攣る。
「(……ミオン殿の実力は凄まじいと思っていたが……。
やはり、未来の女王に仕える騎士たる者、相当な技量と頭脳が求められると言うことか……)」
アレクシェルが目指すべき頂は、遥か遠いことを痛感する。
「薬……」
ミオンの報告に、セレスティナは目を伏せて思考を巡らせる。
「ミオン」
そして、何かを決めたようにミオンの名を呼んだ。
「はいはーい!
ランちゃんには、すでに薬の匂いの件は伝え済みですぅ!
もう一度、死体と事件現場を含む再検証の指示を出して貰えるように根回し済みです!」
「……ありがとう、ミオン。
本来ならば、私の専属を離れたランスロットにお願いすることは心苦しいのだけど……ね」
元々はセレスティナの側近であろうとも、今は王命により側を離れているランスロット。
そんなランスロットに頼ってしまうことが、セレスティナは申し訳なかった。
「気にしなくていいと思いますよぉ。
だぁって、セレスティナさまのご命令ならば、王命を放り投げてでもランちゃんは頑張っちゃいますよ!」
「王命を投げ出されるのは、困ってしまうわね」
ミオンの大袈裟な言葉にセレスティナは、クスクスと笑ってしまう。
「はうっ……!
セレスティナさまの微笑みが眩しすぎますぅ……!
ミオンちゃんだって!
ものすごーく頑張って、セレスティナさまに褒めて貰えるように張り切っちゃいますよぉ!!」
「では、私も……」
「あ、それは断固拒否です。
余計な発言をしてセレスティナさまの足を引っ張るような奴はいりません」
頬を染めてクネクネと悶えていたミオンが、真顔でキッパリと却下した。
「…………ミオン殿は、私に対して刺々しくありませんか?」
「気の所為だと思いますぅ〜」
「…………」
ニッコリと微笑んだミオンの返答に、アレクシェルは無言になってしまう。
「さ!お仕事お仕事!
裏の連中にも、あの手の薬は保存期間が短いから直近で購入した奴らを、洗いざらい吐かせて一覧化させちゃいますね!」
「ありがとう、ミオン。
いつも私の足りない部分を補ってくれて、とても有難いと感謝しています」
張り切っているミオンへと、セレスティナは優しく微笑む。
「ただ……そうね。
ミオンから見て歯痒いことも多いかもしれないけれど……ね?
後輩のアレクシェルとイザベルのことも、導いてくれると嬉しいわ」
「う……がんばり、まーす……」
心底嫌そうに顔を歪めるミオンに、セレスティナは思わず苦笑してしまうのだった。
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