第五話
サーデス神殿より齎された一報は……早朝の王城を揺るがした。
「…………何たることだっ……!」
気持ちよく眠っていた所を叩き起こされた国王、レオナルド。
「……あの者がサーデス神殿にいたことを知っていた重役を集めよ。
集まり次第……情報共有を行う。」
寝起き早々に、伸び込んできた大問題に痛む頭を抱えレオナルドは命令を下すのだった。
国王の命令のもとに集まった貴族たち。
「この場は無礼講で構わん。
早速、状況の整理と方針を決める。」
徹底的な人払いを行った会議室。
難しい顔を浮かべたレオナルドが、早々に口を開いた。
「兄上……この度は、愚息がご迷惑をお掛けして……私、は……何とお詫びを申し上げれば良いのか……分かりません……」
真っ青な顔色の王弟であり、神官長でもある……そして、サミュエルの父でもあるクリストフが頭を下げた。
「陛下……影のものを護衛として手配したおいたとはいえ、申し開きもございません。」
深々と頭を下げる無表情のアーガスト侯爵。
「…………二人とも、頭を上げよ。
まずは、状況を整理せねばならぬ。」
レオナルドは額に指を当て、視線だけで説明をランドルフへ促した。
「(…………どうして、私は此処にいるのかしら……?)」
そんな緊迫した状況の中に、何故か混ざっていることにセレスティナは内心で頭を抱える。
「(……しかも、アレクシェルまで……)」
セレスティナの背後に控えるアレクシェル。
自分とアレクシェルが呼ばれた理由を考えたセレスティナ。
幾ら考えても……セレスティナには、アレクシェルが件のサミュエルの婚約者だったくらいしか思い当たらなかった。
「状況を副騎士団より説明致します!」
王族の近衛の役割を持つ第一騎士団、団長のランドルフがアスランへと水を向ける。
「報告致します。
事件が露見したのは、夜明け前でした。
食事当番だった神官二人が厨への移動中、窓から白い大きな物が庭に落ちているのを発見。
不審に思って確認へ赴いたところ、白い物が人間即ち、同僚の神官の一人であることを確認しました。
すぐに、神殿長へ報告し、点呼を行ったところ、神官見習いとして所属していたサミュエル殿が行方不明となっていたことも発覚。
速やかに、王城へと早馬を飛ばしたとのこと。」
色素の薄い髪の狭間より、アスランの鋭い眼差しがアーガスト侯爵を射抜く。
「……早馬を受け、第一騎士団員がサーデス神殿へ急行し、現場保存ならびに死亡者の身元の確認を行いました。
しかし、死亡した神官の経歴は詐称されており、サミュエル殿とほぼ同時にサーデス神殿へ入ったことだけは確かでした。
そのため、アーガスト侯爵家所属の影の者である可能性を考慮し、身元の確認を行いました。」
「確かに、死亡した神官は我が家の影の者で御座います。
己を見つめ直すためにも、とサミュエル殿をサーデス神殿へお預けしました。
そのため、サミュエル殿の身の安全の確保するためにも、側に一人手練れを配置しておりました。」
アスランの言葉を引き継ぐように、苦しげな表情のアーガスト侯爵が答えた。
「……しかし……まさか、このようなことになろうとは……。」
「アーガスト侯爵よ、念のために尋ねる。
殺された神官、影の者の腕は確かなのだな?
まさかとは思うが……あの者に、サミュエルに情を移し、逃走を助け、殺害された可能性は?」
レオナルドは、苛立ったように机を指で叩く。
「そのようなことは、決して有りませぬ。
我が家の影は、そのような生温い輩はおりません。
そして、影の中でも上位の腕前を持つ者を充てがっておりましたゆえ……」
アーガスト侯爵は、一度言葉を切る。
……その視線が意味有りげに、アレクシェルを捉えた。
「……外部より手助けが有り、あの者の逃走を助けた者が居たとしたら?
あの者を慕っていたか、もしくは……殺害したいほどに憎んでいたか?」
「ほう?
興味深い話ではあるな。」
レオナルドの目が冷たい光を宿し、アスランの眉間にシワが寄る。
「(……この流れは、良くないわ)」
静かにセレスティナは感じ取る。
アーガスト侯爵が、サミュエルの失踪を主導したとは言わない。
だが……この一件を利用しようとしていることは理解できる。
「愛と憎しみは紙一重。
手練の影を闇討ちし、一刀のもとに叩き斬るだけの技量を持った……元婚約者殿のご意見を伺いたいものですな。」
「…………」
冷たい炎が燃える瞳がアレクシェルを通り越して、セレスティナへと向けられるのだった。




