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脇役王女の王国奇譚〜乙女ゲーム? いいえ、現実(リアル)ですわ~  作者: ぶるどっく
幕間

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閑話三 中



「お前ら、今日は持久力訓練だ。

 この深い森の中にある印を付けた巨石の前まで行って、引き返して来い。」


 兵士の訓練所の側にある深い森の前。

 この訓練所に属する教官の一人が、面倒そうな空気を隠すことなく命令を出す。


「あー……そうそう、この森には魔物も居るからとろとろ走ってると襲われちまうからな。

 せいぜい気を付けて全力で走れよ。

 この砂時計が落ちきる前に返って来なかったヤツは飯抜きだからなぁ。」


 片耳をほじりながら、やる気の欠片もない教官の言葉に訓練生達が悪態をつく。


「オラオラ、さっさと行け!

 ……早めに終わらせないと、一雨来るかもしれねえな。」


 シッシッと犬っころを追い払うように訓練生達を見送る教官が空を見上げてボソリと呟く。


 見上げた空は、重たい灰色の雲が広がり始めていた。





「あのクソ教官!

 他人事だと思いやがって!」


「鎧付けて走るなんざ、クソ喰らえだっつーのっ!!」


 教官に追い立てられて深い森の中へと走っていく訓練生達は、それぞれに教官への不満を吐き出す。


「うわっ?!

 このクソっっ!!」


 普通に走っていた訓練生の一人が、いきなり叫んだかと思えば腕を振り回す。


「どうしたっ?!」


「いってぇ……!

 でっけぇ蜂か、何かに刺された!」


 近くを走っていた別の訓練生が問いかければ、毒虫に刺されたのだと顔を顰める。


「お前……帰ったら薬をもらった方がいいぞ。

 首のところが赤黒く腫れちまってる。」


 ツイてない、と刺された場所を押さえる訓練生を他の者達は追い越していく。


「…………」


 虫に刺されて足を止めた訓練生を追い越していった者達の中にはフレドリックもいた。


 他の訓練生達が愚痴りながら数人単位で走るなか、フレドリックは一人黙々と走っていた。


「お〜い!

 お坊ちゃまぁ!」


 そんなフレドリックの背後から、気の抜けるような声音のジョンが手を振りながら近寄って来る。


「あぁ、良かっただぁ。

 お坊ちゃまに何とか追いつけただよぉ……」


「……何の用だ、ジョン。

 私はお前と一緒に走るつもりはないぞ。」


「そんなぁ……オラ、魔物の森とか怖いから嫌だよぉ……。

 あー……でも、格好いい騎士様の修行の邪魔はできないべなぁ……。

 うん、オラも頑張るだよ!」


 一緒に走る気はないというフレドリックに対して、不安そうな顔をしたと思えば、すぐに間の抜けた笑顔でジョンは答えた。


「こんな走るだけのことが騎士の修行になるわけが無いだろう。

 第一、騎士が魔物如きを恐れるなんて聞いたことがない。

 やはり魔物を恐れるお前が、騎士に向いていないのは自明の理だな。」

 

 魔物を怖いと言ったジョンをフレドリックは鼻で笑う。


「そうだでなぁ……オラは立派な騎士様の馬のお世話係くらいがちょうどいいだよ。

 そうだ、お坊ちゃま……あれぇ、あっ!

 あった、あった!

 これ、これを使ってくんろ。」


「何だ、これは……?」


 眉尻を下げてバカにされたことを怒ることもないジョンは、持っていた小さな革袋の中をゴソゴソと漁る。

 そして、一枚の手拭いのような布を取り出してフレドリックへと差し出した。


「おい!

 妙な匂いがする布を私に近づけるな!」


 汚れは見えないが、妙な匂いがする布にフレドリックは眉を寄せて不快感を露わにする。


「あー……匂いは勘弁してくんろ。

 ちゃあんと洗ってるんだけどよぉ……この匂いは虫除けの薬草を染み込ませたんだぁ。」


「……虫除け?

 だが……前に兄う、じゃなくて、知り合いにもらった虫除けの匂いとは違う気がする。」


 布から香ってくる香りにフレドリックは怪訝な表情を浮かべた。

 フレドリックの脳裏には、幼い頃にもらった虫除けの匂い袋から匂った薬草(ハーブ)の香りが蘇る。


「……あー……王都の方と辺鄙な土地じゃあ出てくる虫も違うだよぉ。

 王都みたいな都会に住む虫よりも、田舎に住む虫の方が大きいし、毒も強いさぁ。」


「……確かに、そうかも知れないな。

 私は王都生まれで、田舎のことなど分からないし……そういうものなのか……?」


 ヘラリと笑うジョンの言葉に違和感を覚えつつも、フレドリックは首を傾げて納得してしまう。


「うん……お前は田舎生まれなのだろう?

 そういう意味では、私よりも田舎の事情には詳しいだろうしな。

 さっき、虫に刺された奴もいたしな…。

 折角の好意を無碍にするのは騎士らしくないな。

 そういうことなら、貰っておいてやろう。」


 鼻でジョンを笑いながら、さっさと妙な匂いのする布を受け取ったフレドリック。


「格好いい騎士様のお役に立てて嬉しいだよぉ。

 ……オラは修行の邪魔にならないように、離れて走るだぁ。」


「殊勝な心がけだな。

 せいぜい魔物に襲われないように気を付けておけ。

 幼い頃から剣術を嗜んでいた私と違って、お前は弱いんだからな!」


 家を追い出されることになっても、手放すことの無かった愛剣の重さを感じながらフレドリックはジョンへと告げる。


 そして、腰元にジョンから受け取った布を結び、走る速度を上げた。


「……そうだでなぁ……オラは立派な騎士様の剣術とは無縁だぁ。

 まぁ……野刀(ヤットウ)を振り回すのは……得意じゃないからなぁ。」


 走り去っていくフレドリックの背中に向けて、ジョンはボソリと呟く。


「……予測通り……一雨くるだよ。」


 夕刻に近付くほどに広がる曇天。

 そんな灰色の空を眺めながら、ジョンはゆっくりと走り出したのだった。


 

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