閑話一
「何とかアーガスト侯爵の一手に待ったをかけたが……何なんだ、あの狸はっ?!
あやつは、何でこんなにも王座を欲しがるのだっっ?!」
もうやだ!と王の執務室の重厚な机へと突っ伏すレオナルド。
その姿には、謁見の間で見せた貫禄は微塵もなかった。
「流石ですね、陛下。
予想外の伏兵を提示され、内心動揺されていたでしょうに、アーガスト侯爵への鮮やかな切り返し。
このグウェンダル、感服いたしました。」
「……我が友、グウェンよ……本音は?」
「親バカ全開でアーガスト侯爵を止めることが出来る者は、王国広しと言えど陛下だけかと。」
普段は頼りになる宰相であり、大切な幼馴染の一人であるグウェンダルの言葉にレオナルドはますます撃沈する。
「おやおや……陛下は、相変わらず打たれ弱いですね。
取り敢えず落ち込んで湿度を上げるならば外へどうぞ。
その執務机は王家伝来の年代物ですから、陛下が茸を生やしたとなりますと面倒……修繕費が高くなりますよ。」
「アスラン……落ち込む幼馴染よりも机なのか……」
ニッコリと爽やかな笑みを浮かべて抉るアスランの言葉に、レオナルドは本気で泣きたくなる。
「アスラン……落ち込む陛下に対して……」
「甘やかしてはなりませんよ、グウェン。
謁見の間にて警護をしておりましたので一連の流れを把握しておりますが、このままアーガスト侯爵が引き下がるとは思えません。
……あの狸のことです。
必ずや碌でもないことを引き起こしますよ。」
第一騎士団の副騎士団長であり、近衛の一人であるアスランの言葉にレオナルドとグウェンダルの顔に緊張が走る。
「アスラン、それは何かを既に掴んでいる、ということか?」
「いえいえ、そのようなことは有りませんよ。
ただ、バッファム騎士団長より面白い話は伺っておりますが。」
レオナルド達と同じ程度の年齢でありながら、一番若く見える童顔に女性が黄色い悲鳴をあげるような甘やかな笑みを浮かべてアスランは答える。
「……アスラン、面白い話とは何だ?」
執務机に突っ伏したまま、上目遣いでアスランへ視線を向けてレオナルドが問いかけた。
「陛下、成人男性がそのようなあざとい体勢はおやめください。
ぶっちゃけ可愛くありませんよ。」
「あざとさもっ!可愛さもっ!
全くもって求めておらん!
まるで余がそのような振る舞いをしているか如き風評被害はやめいっっ!!」
うわー……という目をアスランから向けられたレオナルドが執務机を叩いて立ち上がり、グウェンダルは頭を抱える。
「アスラン……陛下をからかうのはそろそろ……」
「グウェン、まさか私が趣味か何かで畏れ多くも忠誠を誓う陛下をからかっていると?」
「いや、そこまでは言っておらん。」
「趣味でからかうならば、もっと可愛らしい鳥籠の淑女をからかいますよ。
男をからかう趣味も、虐める趣味もありません。」
「「…………」」
爽やかすぎる黒い笑顔で応えるアスランにレオナルドとグウェンダルは撃沈する。
「……まぁ、冗談は此処までと致しましょう。
陛下も、グウェンダルも、感情を表出したことで少しは頭が回り始めたのではありませんか?」
撃沈した幼馴染二人を見て、アスランは肩をすくめて笑う。
「すまんな、アスラン……落ち込んでいる暇などないのにな。」
「その通りですよ、陛下。
恐らく、この話はアーガスト侯爵への薬にもなれば、毒にもなる。
……今朝、バッファム騎士団長より御息女の件で面倒な手紙を受け取ったと聞いた時には頭を抱えましたから。
常々バッファム騎士団長には教え込ん……ではなく、政治的配慮が必要となる案件はすぐに知らせるように言っておいたというのに。
このバッファム騎士団長より聞いた件は、此方にとっても下手な手を打てば、面倒なことになる……そんな予感がするのです。」
「薬にも、毒にもなる話、か。」
立ち直ったレオナルドとグウェンダルが視線だけでアスランへ先を促し、それに応えてバッファム騎士団長からの聞いた話を語る。
そうすれば、レオナルドも、グウェンダルも、呆れた表情を浮かべてしまうのだった。




