第二十四話
恭しくも、決して否定を許さないとばかりの強い圧を伴ったアーガスト侯爵の一言に、謁見の間の空気が揺れる。
「それは……アーガスト侯爵よ、此度の功労者の一人でもあるアシュレイ・フォルト子爵のことを指しておるのか?」
表面上は平静を装いつつも、レオナルド王は間違いないかとアーガスト侯爵へ問いかける。
「御意に御座います。
我がアーガスト侯爵の名において、アシュレイ・フォルトを第一王女殿下の側室として推薦致しまする。」
レオナルド王の内心の動揺を知ってか知らずか、アーガスト侯爵は重ねてアシュレイを推薦することを進言した。
「…………」
「アーガスト侯爵、フォルト子爵ですか?
王家の血を引くことが重要視されていると王妃様は仰っていましたが……いや、まさか……?」
レオナルド王が眉をしかめ、ローゼンバーグ侯爵が驚きの声を上げ、王妃とグウェンダルは沈黙を貫く。
「あの当時を知る者は少なくなりましたが……畏れ多くも前王陛下の治世において、そのお情けを頂く女人は少なくなかった。」
「アーガスト侯爵、それはもう昔のことだと我らは認識しておりましたが。」
普段より二割増で眉間にシワを寄せたグウェンダルがアーガスト侯爵へと告げる。
「確かに、昔のことでしょう。
陛下が王座に就いた前後、この王城は数多の悲劇に見舞われましたからな。」
グウェンダルの言葉を受けてなお、何処か底しれない光を宿した瞳のままにアーガスト侯爵は語り出す。
「陛下が玉座に至るまでの間に何人の王族が儚くなられましたかな?
前王陛下の情けを受けて、産まれた王家の血を引く若者たち。
……生き残っている者は、片手の指ほどで御座いましょう。」
「ア、アーガスト侯爵……あの当時に起きた悲劇のほとんどは悲しい事故であり、全ては偶然が重なったゆえのこと。
私は我が父より、そのように伝え聞いておりますれば……」
「そうですな。
誠に偶然とは恐ろしきもの。
……ゆえに、晩年の前王陛下は最後に情けを与え、己の子を身ごもった侍女を信頼の置ける貴族へと下賜したのです。」
「……それが、アシュレイ・フォルト子爵の父にあたるカイン・フォルトか。」
重々しい声音で尋ねたレオナルド王へとアーガスト侯爵は好々爺の笑みで答える。
「その通りでございます。
前王陛下がカイン・フォルト子爵へ渡したアシュレイ殿が己の子であるという証明書には王家家紋付きの印、そして直筆の署名が御座います。」
疑うことなくアシュレイは王家の血筋であることを証明できる、とアーガスト侯爵は微笑む。
「……では、アシュレイ・フォルト子爵と第一王女は叔父と姪の関係になりますわ。
契りを結ぶには些か血が近すぎるのではないかしら?」
「おやおや……それを言ってしまえば、第一王女殿下とベルフォート卿は従兄弟関係で御座いましょう。
対して変わりは致しませぬ。
それに、どちらかと言えばフォルト子爵の方が第一王女殿下には相応しいのではないでしょうか?
殿下の体調を慮るならば、武人よりも文官のフォルト子爵の方が何かと配慮できましょうぞ。」
「……武人だから淑女を思いやることができないなんてことはありませんわ。
武を嗜む騎士だからこそ、第一王女を慈しみ、守ることもできましょう。」
お互いに微笑みを浮かべながらも、水面下では火花を散らせて言葉という矛を交える王妃とアーガスト侯爵。
「ふっ……ふはっはっはっ!」
「「「「……!」」」」
王妃とアーガスト侯爵のやり取りが最高潮に達しようかとしたその時、急にレオナルド王が声を上げて笑い出した。
「まったく……王妃よ、我らが愛娘がこれ程までに容姿も能力も優れた男達から是非にと求められるとは、数ヶ月前までは思っても見なかったとは思わぬか。」
「陛下……ふふ、確かに第一王女、セレスティナに対して見目麗しく素敵な男性達が恋焦がれ、セレスティナを求める日が来るとは夢のようですわ。」
「うむ、王としてはともかく、一人の娘の父としては些か不満ではあるが。
そうだ、アーガスト侯爵よ。」
「はい、陛下。」
「第二騎士団長と第一王女を引き合わせた際に一つ忠告したことがある。」
大きな笑い声を響かせた後、驚く周囲を見渡し、楽しそうにレオナルド王は微笑む。
そして、何かを思い出したようにアーガスト侯爵へと声を掛けた。
「忠告で御座いますか?
それは一体どのようなことに御座いましょうか。」
レオナルド王がわざわざ水を向けた忠告とやらに表向きは微笑みながらも、アーガスト侯爵は内心では顔をしかめる。
「第二騎士団長には、セレスティナは成人しているとは言え異性との関係に疎い面もあるため、清く、正しい、順番と礼節に則った交際を続けてゆようにと忠告しておる。」
「……そうで御座いますな。
異性との関係に不慣れな乙女に対し、無理強いをするような真似は野暮というもの。
確かに、男の風上にも置けぬかと。」
「そうであろう!
余と同じく娘を持つアーガスト侯爵ならば理解してくれると思ったのだ!
そう、余が王妃とお互いに理解を深めるために交わした交換日記より始めることを第二騎士団長へと推奨しておいたのだ。」
「まあ……!
若かりし頃、婚約者同士であった陛下と交わした交換日記!
とても懐かしゅうございますわ!
陛下よりどんなお言葉を賜われるのか、心を弾ませていたものです。」
うふふ……と口元に扇を広げて微笑む王妃へ、レオナルド王も微笑みを返す。
「此度の第一王女の婚約に関して、まずは若い当事者たちが心を通わせ、互いを理解できるように時間を設けていくこととしよう。
それに、近いうちに第二王子より第一王子へとなったレグルスも帰国する。
全てはそれから正式に決定しても遅くはなかろう。」
レオナルド王は微笑みを消し、真面目な表情で宣言するのだった。




