第二十三話
セレスティナと商人たちの謁見があった翌日。
王城内にある謁見の間には、主要な貴族たちが集められていた。
「此度の一件、至極残念極まりないものとなった。」
玉座に深く座り、深いため息とともに話し始めたレオナルド王は難しい表情を浮かべていた。
「陛下、よろしいでしょうか?」
「王妃よ、申せ。
皆の者も己が意見を述べて構わぬ。」
難しい表情を浮かべた王を気遣うように、心配そうな表情の王妃エリザベートが声をかけた。
「昨日の謁見の件、私も聞き及びました。
騎士団に紛れ込んだ賊を捕らえるために、勇敢にも第一王女が自ら囮になった、と。
しかも、その場において凶刃を向けられるなんて……!」
震える手を口元へ当て、王妃は悲しげな表情を浮かべる。
「王族の一人として、守るべき民を苦しませ、王国を蝕む咎人を捕らえるために、なんと勇敢なことでしょう……!」
「確かに、此度の一件は王国を蝕んでいた賄賂などの温床を根こそぎ排除する切っ掛けとなりましょう。
更に第一王女殿下主導の新しき事業により、一部の経済が活性化され、新しき雇用や人の流れを生み出しておりまする。
流石は、王位継承権第一位の王女殿下で御座いますな。」
王妃の言葉に続くように、王国一の公爵であると同時に宰相でもあるグウェンダルも意見を述べた。
「おやおや……まさに今をときめく第一王女殿下と言わんばかりですな。
実際に見事な手腕だと、私自身とても刺激を受けております。」
「その通りですなぁ。
いやはや、わが娘オリヴィアより第一王女殿下のお話を聞いたときには飛び上がって驚いたものですが……。
第一王女殿下はシャボンの売り上げの大半を王国、ひいては民のために惜しみ無く注いでくださる!
簡単にできることでは有りませんなぁ。」
ニコニコと好々爺と言わんばかりの微笑みを浮かべるアーガスト侯爵。
そしてオリヴィアの父であるクルっと髭が特徴的な財務大臣のローゼンバーグ侯爵もそれに続く。
「王国の未来を担う若者の活躍は純粋に嬉しいものですな。
……しかし、此度の一件において陛下のおっしゃる残念極まりないこと。
まさか獄に繋がれていた罪人たちが……」
「誠に、残念なことですわ。
……余程、あの者達の口を封じたい、都合の悪い御仁がいらっしゃったのでしょうね。」
至極残念だと言わんばかりのアーガスト侯爵に対して、悲しげな表情を浮かべつつ王妃エリザベートが意味有りげな視線を送る。
「そうですな。
フォルト子爵より第一王女殿下へ献上された日記に記入された者達の誰か、と考えるのが自然かと。
……最も、相手が一枚も二枚も上手ならば分かりませんがな。」
王妃の暗に"お前が裏で糸を引いているのだろう"という視線をアーガスト侯爵は真っ向から受け止める。
そして、アーガスト侯爵は王妃へと"儂が殺ったと言うならば証拠を出すがいい。後手に回った貴様に出せるものか"と暗に返すのだ。
「もう良い……罪人たちの件に関しては残念極まりないが、この場で話しても致し方あるまい。
……優秀な騎士達が真実に辿り着くことに期待することとしよう。」
玉座で静かに話を聞いていたレオナルド王が手を振り、話は終わりだと示す。
「では、陛下。
私めより一つよろしいでしょうか?」
「許す。
申せ、アーガスト侯爵。」
話が終わった、というレオナルド王に対して、恭しい仕草でアーガスト侯爵が進み出る。
「陛下、未だに正式に発表はされておりませんが、第二騎士団長ベルフォート卿と第一王女殿下が婚約されたとお聞きしました。
誠に御目出度いことで御座いますな。」
「うむ……先だっての第一王子の一件にて、余も今後の王国の未来について考えることが増えた故の決断である。」
表向きは誰も表情を変えることはなかったが、改革派に属する王や王妃、宰相であるグウェンダルは内心では警戒心を強める。
「一つ、私めより進言させて頂きまする。
この王国において、貴族の均衡を図ることは重要なこと。
それ故に、元第一王子の婚姻についてはシェパード公爵令嬢が選ばれました。」
「確かにその通りですな。
改革派と穏健派の貴族達の均衡を図るために、貴殿の娘であり、側室であるキャロライン殿が産んだ元第一王子に対し、我が娘との婚約が成立した。」
人の良さそうな、しかし底のしれない笑みを浮かべたアーガスト侯爵の言葉にグウェンダルが応じる。
「だが、それは元第一王子だからこそ成立したもの。
今現在の穏健派に属する貴族で第一王女殿下に釣り合う人物は居ないのでは?」
それはお前が一番知っているだろう、とグウェンダルの無言の言葉を部屋にいる者たちは感じ取る。
「ふぅむ……どうやら宰相殿はご存知なかったですかな。
第一王女殿下の婚姻において重要視されているのは王家の血筋。
……相違ありませんかな?」
「ええ、その通りですわ。
第一王女の体質を考えれば、夫に望むべきは王家の血を継いでいることですわ。」
セレスティナを女王に、と考える王妃エリザベートにとって、一番の不安要素はセレスティナが病弱であること。
病弱ゆえに子供を身ごもり、出産において、セレスティナの身体が耐えられるかどうか……。
もし万が一、セレスティナが出産に耐えられず儚くなったとしても……その赤子が育つまで、王家の血を引く夫が代理の王となればいい。
それが、レオナルド王や王妃、改革派の上層部の考えだった。
「ならば、私めからも一人第一王女殿下の側室として……アシュレイ・フォルト子爵を推薦させて頂きましょうぞ。」
普段の好々爺としての笑みを消し去り、アーガスト侯爵は進言するのだった。




