:始まり
主人公:仁内真
学校長:臥方利通
最初の日は校長からの話と、クラスごとに分かれた後の自己紹介だけで終わった。さすがに経営者とあって、臥方の話は聞いていて飽きない。
各教室に分かれた後、それぞれのタイミングで担任の話しと自己紹介が始まる。ここの担任の名前は、金田八士丙といった。五十は軽く過ぎたような年寄りだ。この話し方を見る限り、かなりのベテランだろう。もしかしたらどこかの教授とかだったのかもしれない。
しかし、その後の自己紹介が苦痛だった。アホみたいな奴がほとんどだ。
とりあえずでかい声を出すもの、声が小さくて聞き取れないものなど、どうしようもない奴が多すぎる。少し経って、俺の三つ前まで回ってきた。ここで何を話すかで俺は少し迷う。
―散々役に立たないつまらんことを聞かされたので、付けはなすようなことをいってもいい。どうせこいつらと関わることはほとんどないと考えていいし、関わりたくない。
二つ前になる。
ただ、生徒会に向けて選挙がある可能性も否定できない。
―選挙に向けて、という観点から見れば利用できないこともないだろう。
ならば、ここは一旦手を打って茶番でもやっておくことにしよう。
一つ前までやってきた。ちょうどいいタイミングだ。
順番が回ってきたので、席を立って茶番を始める。
「えーっと、仁内真です。誕生日は二月八日です。今後クラス委員とかもやっていきたいとおもってます。これからよろしくお願いします!」
いわゆる、普通のリーダーの挨拶だ。
パラパラと拍手を浴びながら椅子に座る。
これで、このクラスは雰囲気として俺をリーダー格と認めただろう。そうするポイントは二つ、少し大きめの声で話すこと、そして口角を上げること。これだけで、第一印象がよくなり、後々楽になる。簡単なもんだ。
その後も、一日中そのさわやか系を続ける。
そして、授業終了後間際―――――。
「仁内君。」
友達作りに勤しみ、授業が終わってクラス内がざわついている中、その声に振り向く。
「君は―――空河 伊織君だね?」
このクラスの名前誕生日は既にだいたいは暗記済みだ。
そうして、せっかく俺が優しく接してあげているのに――――。
「茶番お疲れ様。」
そういって空河は俺の肩をポンと叩き去っていく。
―どうしてそんなことをするかねぇ。
たしかに、俺も少し甘かった。ただ、今日だけで見抜くとはただ者ではないかもしれない。しかし、まだそこまで警戒することはない。これで終わりということはないだろうから、この後、もしくはまた明日何か言ってくるだろう。判断するのはそのときでいい。
放課後、いきなり生徒会の募集が始まる。この代が一期生だから、早めに設立しておきたいのだろう。
職員室まで紙をだしにいく。職員室があるのもまた第一の方の校舎、つまり二十五%の方の校舎なので、歩いていくとかなり時間がかかる。第一校舎には、春の日差しが差し込みほかほかとしている。初日とあって、寮の自室の整理やご近所付き合いもあるのだろう、この広い廊下のおかげで余計に人が少なく見える。まだ11時だ。昼食の時間は十二時半と書いてあったので、紙を提出して寮の自室を見てからいっても間に合うだろう。
―それにしても第一のほうは随分と広々しているな。おまけに冷暖房完備か。くだらん差の付け方をするね。
上と下で待遇の違いをつけるのは間違いではない。さらに、全体の向上を図るという名目までつけられる。しかし、それで一番下が上がるかというとそうでもない。どんな報酬がついても、やる奴はやるしやらない奴はやらない。これは、今までの経験上間違いない。苛烈になるのはボーダーライン付近だけだ。そうなるとますます上と下の差は開く。ただ、この学校はそうならなければいけないはずだが。上と下を区別することによって、支配する側と支配される側をはっきりさせる。俺はもちろん、支配する側だ。
職員室の前には、ちょっとした列が出来ていた。このほとんどは上のほうの者だろう。ひとまず列のうしろにつく。すると、前の二人が急に振り向いてこちらを見る。
「君、下のほうの、第二校舎の人でしょ?よくきたねぇお疲れ様。」
そういってクスクスと笑う。その口調、言葉遣いなどからして、完全に嘲りしか感じられない。自分たちが、有利であると錯覚しているのだろう。もし、それが本当に第二の人ならそうかもしれない。ただ、こいつらはやる相手を間違えすぎだ。
「ああ、そりゃもう大変だったよ、無能。」
すると、後ろにいた猿のような奴が口を開く。
「おやおや目上のものに対する口の聞き方がなってないようだなぁ。これは生徒会員として厳しく追求しないと。」
「お前ら、本当に生徒会に入れると思ってるのか?」
オーバージェスチャーで呆れてみせる。
すると、ニヤニヤ笑いを崩さずに前にいるボンボンが口を開く。
「もちろんだとも。入学時の成績十一位の僕がはいれないわけないだろう。それより君こそなにしにきたのかな?入れないとわかってて。あ、先生に質問かな?」
さらに後ろの猿まで話し出す。
「俺知ってるよ。この礼儀知らず、最下位で入学したんだよ。六百点ぴったり。」
そういってまたクスクスと笑う。
中途半端に知っているというのは哀れなものだ。俺の成績までしっているということは、上で繋がったりしているのだろう。
「次の人はやくしなさい。」
前から校長の声がする。いつの間にか列は殆ど消えていた。
「おっと、君に構っていたら気づかなかったよ。君も書類審査が突破できるといいね、ではごきげんよう。」
急ぎ足で猿とボンボンが前に進む。ほどなくして奥の扉から出てくるのが見えた。それを合図に俺は中に入る。
「こんにちは、校長先生。」
「おや仁内君か。初日はどうだい。」
「はい、今のところは順調ですよ。ただ、一つお聞きしたいことがあります。」
「ほう。」
「既に何人かに手を回していませんか?」
臥方校長の顔が一瞬驚いた顔になる。が、すぐに余裕の表情を見せる。
「確かに、二人程君を潰すようには伝えてある。そうじゃないと生徒会に入るぐらい君には簡単すぎるだろう?」
「まぁそれはそうかもしれませんがね、生徒会に入るまでは何があるかわかりませんから。」
「今のところは及第点だよ。この後は二人が君を潰しにかかる。もちろん君なら這い上がってこれるだろうね?期待してるよ。」
「もちろんですよ、校長先生。」
「流石に試験の時みたいなことはしないから、安心して大丈夫だよ。」
「あれは流石に無理ですよ………。」
臥方校長が少し笑う。
「まぁあれは卑怯だったかもね。ただ、君の実力を見たかった。」
「それはそれは期待されているようで。」
「それはそうだよ、なにせ仁内陽斗の息子だからね。」
唐突に俺の父親の名が出てくる。
仁内陽斗―――。
とある企業の経営者だったが、十数年前に交通事故でなくなった。
もし生きていたならば、この会社の経営者は俺の親だったかもしれない。
仁内陽斗と臥方利通は中学時代からの旧友であったという。
そして、この会社は二十年前に、二人で創った会社だ。この会社がここまでのし上がるとは、親も考えていなかっただろう。仁内陽斗も、臥方利通と同じような人間だった。
「おっと時間を取りすぎてしまった。書類は通しておくよ、あとは君次第だ。」
「ありがとうございます。」
軽く頭を下げて、奥の扉から外に出る。昼食の時間まであと一時間ちょっと。案外時間がないかもしれない。早足で寮の部屋に向かう。




