:寮
寮館二階38号室
『仁内 真・寺崎 吉季』
部屋の前のネームプレートを確認してから鍵を差し込む。
ガチャ
寮館は三階までと四階、五階で設備が違う。四階、五階が二十五パーセント専用になっている。例えば、鍵もここは手動だがあちらはオートロックだ。他にも部屋の広さだのエアコンだの、とにかく細かいところで差を付けている。下は常に劣等感を抱き、上は常に優越感を抱く。そんな設計だ。ちなみに、最上階、つまり六階には生徒会専用の部屋がある。そこはもっと豪華らしい。
そして、ポイントは、寝るときに追加される。三階までは1日3ポイントだが、四階、五階は1日7ポイント、六階は1日15ポイントだ。
ポイントの主な使用先は食堂だ。メニューによってポイントが違う。さらに、図書室、コンピュータールームにも必要であるし、ポイントを払えば好きな授業が受けられる。
しかし、俺はポイントは使うだけでなく、「取引」の材料として見ている。ポイントは、各自のカードに電子化されて保存されている。ここで重要となるのが、このカードだが、それに入るデータはポイント数だけでしかない。そしてカードは何枚でも作ることができる。つまり、所有者が明確でないのだ。
例えば、もう一枚カードを作り、それに1日分のポイントを貯めたとする。そして、何かを得るときにそのカードを相手に渡す。すると、俺は3ポイントでその何かを得たことになる。
このように、ポイントで取引することは可能である。
扉を開けると、まず玄関、そして廊下がある。
玄関にはすでに一足靴が揃えられていた。
廊下の途中に扉は2つ、おそらくトイレ、風呂場室だろう。奥は就寝部屋のようだ。流石に二人部屋とだけあって、それなりの広さはある。奥の部屋で、人が慌ただしく動いているのが見えた。
俺も靴を揃えて、廊下に上がる。
新しいフローリングの床が光を少し反射している。
廊下を進もうとしたら、ひょこっと部屋から顔を出してきた。
「仁内君?初めまして、寺崎です。これから一年間宜しくね~。」
ずいぶんとフレンドリーな感じだ。
それに俺も挨拶を返す。ここでもまだ仮面を被っておこう。
「仁内です。これから一年間宜しくお願いしまーす。」
廊下を進み、就寝部屋に入る。
広さは十畳程、その中に机が二つと二段ベッドが置いてある。寺崎はすでに机の中や上に物を置き始めている。
「あ、なかなか来なかったから先、こっち側の机とっちゃったけど良かった?」
「ん?ああ、別にかまわないよ。」
―どうせ勉強なんてしないから、と心の中で付け足す。
しかし、出来るだけ普通に見せかけるため、俺も教科書類を棚に並べていく。
今日配られたばかりの新品のぴかぴかの教科書類だ。あとで適当にページをめくっておこう。
そうやって、ページをめくりながら机の上を整理していると、寺崎が後ろから声をかけてくる。
「ねぇねぇ。」
「ん、なんだい?」
その声に反応して後ろを振り返る。
「なにやら、ずいぶん時間かかってたみたいだけどどこいってたの?」
「あぁ、…………。」
そのことね、と俺は思う。
その質問が来ることは予想はしていた。しかし、これといった言い訳も思いつかない。
下のほうなのに生徒会に応募したといったらあやしまれるだろうか。いや、いくらなんでも他に誰もいないなんてことはないだろう。
なので、軽みをもたせるために少しいたずらっぽく笑いながらいう。
「ちょっと生徒会に応募しにいっててね。」
思った通り、寺崎は目を見開いて驚いた。
ここまではいい。あとは、この軽いのりを維持すればいいだけだ。
「おったまげたなぁ。」
寺崎が感心したように話す。
「上の方の、プライドの高い連中のなかに飛び込んでいくなんて。勇気あるねぇ。」
「まぁ、でも他にも何人かはいるんじゃない?」
できるだけ、軽い口調で返す。
俺がおためしで、軽いのりで生徒会に応募したと思わせるためだ。
目的をさとられないように、少なくとも俺が本気で生徒会に入ろうとしていることを悟られないように気をつける。まぁでもまさかここにいるやつが本気で生徒会入りを狙っているとは思わないだろう。
「よーし、もしお前が一次の書類に通ったらなにかおごってやるよ。」
この発言を聞いて安心する。もう、俺が普通の、下にいるやつらとかわらないとこいつは信じ込んだ。
これで、このあとも楽になるだろう。疑うことをしらない連中がおおくて助かった。
「お、いったな?じゃぁそのときはフルーツパフェでもおごってもらおうか。」
かわいそうに、すでに俺は一次は通ることが確定しているのに。
少し哀れみの目線を含みながら寺崎の顔を見る。
「よし、約束した。それよりもう時間がないぞ。昼飯の時間まであと十分だ。」
寺崎が時計を見ながらいった。
「おや、もう12時半まであと15分か。意外と時間がなかったんだな。」
「ほらほらはやくはやく。席がなくなることはないと思うけど、まぁ一応ね。だいぶ距離もあるし。」
「はいはいわかったから押すなって。」
寺崎に押し出されるようにして外に出る。
すでに周りには人影がない。どうやら、皆食堂へ向かったようだ。
「あっちゃーもう周り誰もいないよ、ご近所さんにも挨拶してないし。」
「あららぁ。」
「ご近所づきあい大事だよ!しかも運がいいことに隣は女子がいるよ!」
手をばたばたさせながら寺崎が言う。
「え、まじで。」
「さぁ。」
「あ?」
「なんとなくでてきとうにいってみた。」
「はぁぁ?」
こいつ、思ったよりもつかみどころがなくて厄介かもしれないな・・・。
「でも隣が女子だといいよね☆」
「俺は今後が心配だよ・・・。」
わざと聞こえるようにため息をつく。
「大丈夫大丈夫なんとかなるって。今まで当日しか宿題をやったことのない俺が言うんだから間違いない。」
「そこで変な自信もたれても・・・。で、時間は?」
「ふむ。」
腕時計をちらっとみる。
「うん、間に合わない。」
「だから大丈夫じゃないじゃねぇか!」
「よし走ろう。」
急に走り出す。しかたなく、俺もそれについていく。




