第五話 誘導
すっかり夜も更け、風が肌寒くなってきた頃。
「……?」
「あっ……親分も起きちまいましたか。」
「ああ。なんだか寝付けなくてな。」
「実は僕もなんすよ。なんか嫌な空気というか、悪寒というか……」
「少し歩くか……」
「うっす。」
星空に照らされる中、二人は夜の山道を歩き出した。
「おかしいな〜。いつもなら一度目を瞑っちまえば朝まで寝てられるってのによ。」
「まあ、この時期の山は寒いですし、仕方ないんじゃないすか?」
「……もしかしたら飢影の呪いだったりしてな……」
「ヒイイ! やめてくださいよ! あんまりそんなこと考えんようにしてたんすから。」
「ハハッ! 冗談だ。お前は脅かさないと面白くねえからな!」
「なんすかそれ……」
二人は、異様なほどの山の静けさを消し去るように、愉快に談笑していた。
……しかし、どこからか、まるで亡者や怪物の類のような恐ろしい声が聞こえた。
「……来イ……」
「!?」
「い、い、今の聞こえました!?」
「ああ……聞こえた。」
明次は金丸の腕に絡みつき、歯と膝をガクガク震わせながらこう言った。
「親分!! 本当だったんですって、この伝説は! 早く逃げましょ! ね!」
「バカ野郎! 俺の話聞いてたのか? もし飢影が本当にあったら、売りさばきゃ俺らは大金持ち間違いなしだ!」
「い、いや……それでも……」
「大体、今のが人の声かどうかも分からんだろ。伝説が本当であろうと嘘であろうと、俺達はこの声の主を確認せにゃいかん。」
「確かにそうなんすけど……」
「そうと決まりゃあ……えっと……声は……あっちの方向からだな……」
二人は道なき道を進み、ついに巨大な洞窟の入口に着いた。
「この洞窟……中から風が吹いてますよ。しかもかなりの強風……中は想像以上に広いかもすね。」
「じゃあ行ってみるしかねえか。」
「えっ!? 行くんです? 明日にしません?」
「バカ野郎! 明日になって声の主がどっか行っちまったらどうしようもねえじゃねえか。」
そう言うと、金丸は洞窟に入って行った。
「……いや、別にどっか行っちまったならそれでいいでしょ……全く…………………あれ? ……僕一人?」
結局、明次も急いで洞窟に入って行った。




