CODE.No.702.
No.702
ナッツ
ここは鬱蒼とした木々が生い茂る森の中。
普段は静かな深き森の木々の上の樹上であるが、森の静寂を突如破り、その木々の上空、樹上に突如大きな炎の球が生じたのだ。
その大きさは普通自動車を優に超え、大型自動車ほどもあろうかという大きさである。
そして、その巨大な炎球の表面は、まるで太陽のそれのように炎が絡まりあい渦巻き、渦巻く紅炎は炎熱と赤い光を周囲にまき散らしており―――、先ほどのことであるが、しかも、その巨大な炎球は二つに割れたのだった。
二つの炎球は、まさに恒星である赤色矮星同士の連星のように互いの重心を回りながら、上空より周囲に炎熱と紅炎をまき散らすのだ。
「―――ファイアメルト・デュオッ」
火炎の魔女は叫んだ。
そう、鬱蒼とした森の中に突如として現れた炎球はこの魔女の火炎魔法の行使のためである。
火炎魔法の激しい炎熱を受けて、木々の樹上の葉は燻ぶり、燃やされ、その暑さで風炎が生じてついには木々にも炎が燃え移らんとしているほどだ。
火炎魔法の行使者彼女の詠唱後、空で滞空していたその二つの小さな赤色矮星のような炎球は、赤い炎の尾を引きながら地上へと、まるで星が落ちるかのような勢いで地上へ猛スピードで落下。
否―――、厳密に言うならば、これは戦いである。ファイアメルト・デュオを以って、地上にいる機人の少女めがけて魔女がその自身の火炎魔法を行使・放ったのである。
魔女の放った巨大な二つの炎の球は、地上にいる機人の少女をめがけて行使された。着弾の瞬間に、まるで液体のように炎がまき散らされ、あとはもうその機人の少女とその周りの空間は激しい炎に包まれたのだ。
ドンッ、ドォウッ、カッカっと、
爆発炎上、爆炎、噴き撒ける炎、燃ゆる炎。
先ほどまで静寂に満ちていた森に巨大な火柱が上がり、森の中を炎熱を伴った衝撃波が轟々と駆け抜けた。
だが、『ファイアメルト・デュオ』という火炎魔法が炸裂し、辺りが火の海となってしばらく経ったときのことである、時間にして数分後。
「う、うそ・・・あの火焔魔法を喰らって無傷だなんて―――」
魔女の呟き。あまりの驚きに魔女を目を大きく見開いた。
火炎魔法『ファイアメルト・デュオ』を行使し、放ったほうの魔女が驚いた、なぜなら劫々と燃え盛り、空気を炙り燻ぶらせるほどの真っ赤な炎の中から相手の少女が現れたからである。
すたすたすた、ざり、ざりっと、燻ぶり焼けて灰となった地面を歩む足音が聞こえてくる。
その劫々と燃え盛る炎の中を歩く足音である。
その足音の様子からは、炎の熱さと煙に慌てて逃げるようなそんな様子や素振りはない、燃え盛る炎の中を平然と歩いているようなそのような歩みである。
燃える空間を、地面と下草が燃え、炎が空気を舐め盛るのをもろともせず、普段の足取りで、火炎魔法を放たれたほうの機人の少女は、何事もないかのような平然としたその歩みを進めるのだ。
炎は未だにゆらゆらと、まるで炎の壁のように燃えており、その炎の中に人影が映る。その機人の少女の人影である。
機人の少女は、ざり、ざり、ざりっ、っと、前へとその足を進め、また一歩、一歩ずつ歩みを進める。
機人の少女はあの火炎魔法の攻撃をまともに浴びても、傷一つ、焼け跡一つついておらず、まるで、この姿を、この自分の無傷の姿を魔女と少年に見せるかのごとく、ゆっくりとした足取りで魔女と少年の二人の前に歩み、進み出たのだ。
機人の少女はその魔女と少年に対して殺意はない。機人の少女は、恐怖と驚愕に固まる二人のそばまで歩くと彼らの数歩手前で歩みを止め、、、下火になっていく炎と燻る煙を背に機人の少女は、魔女と少年の前に向かい合って静かに立つ。
機人の少女は、その魔女とその少年稲村敦司を見つめ、敦司の目には、その機人の少女の透き通ったきれいな双眸は、その瞳は、まるで紫水晶のような彩りに見えた。
その機人の少女の容貌を見て察するに、この機人の少女の歳は若いと思われる。学ランを着た敦司は、恐怖に慄きながら機人の少女と向かい合っているが、学生である自分と同じ年頃十代後半の少女に違いないと判断するほどの若い容貌である。
機人の少女の面立ちは完璧な左右対称であり、誰が見ても均整の取れた美しい顔だちをしている。敦司の目にも、自分の目の前で静かに佇むこの少女の顔だちは驚くほど整っており、本当に完璧な左右対称で、怖いくらいの造形美的な美しさであることが見て取れている。
機人の少女は黒髪ではなく、色の着いた髪をしており、ぼさぼさ頭では決してなく、くせ毛のある髪質でもなく、すらりとした長い後ろ髪である。しかも、この機人の少女は、髪型も顔の正中線を挟んで左右で全く同じなのだ。
機人の少女は、無表情であり、こうして魔女と敦司の二人と相対しても、その紫水晶のような眼差しは威圧せず、その美しい形の口元は微笑みもかけず、愛想もなく、労いのような表情もない。
「あなた方はいったい何が目的なのでしょうか―――?」
機人の少女は魔女と敦司に問うた。
自分の目の前で静かに立つこの少女彼女の顔立ちは驚くほど整っており、本当に完璧なほど左右対称であると言っていい。髪型も顔の正中線を挟んで左右で全く同じだ。
凛としたこの少女の顔は本当に完璧な左右対称で、誰が見ても均整の取れた美しく端整な顔立ちをしている。
「「ッ!!」」
突然発せられたの少女のきれいな声に、眼を見開き驚く敦司とリラ。
その二人が見つめる先―――そこには一人の少女が静かに立っているのだ。
その少女が見た目どおりの歳ならば、敦司やリラと同じくらいの歳に思われた。彼女の顔は本当に完璧な左右対称で、誰が見ても均整の取れた美しく端整な顔立ちをしており、それと色のついた髪、そして紫水晶のような色の瞳。
一目見ただけでその少女の異様さが、敦司とリラには見て取れたのだ。
彼女はピクリともその表情を動かさず、その口だけを開く。
「あなた方はいったい何が目的なのでしょうか―――?」
いまの彼女は“兵装”を解放状態のためにその眼はまるで魚が死んだような虹彩がない瞳であるが、普段の彼女の目は虹彩を伴っている。
“女神”より彼女に与えられた役割は『特務官』であり、その機体の番号はNo.702である。No.702は機人の世界ネオポリスの中でも、一、二を争うほどの性能があり、『イデアル』にその身を窶しているが、“惑星イニーフィネの防人”という役割のためにNo.702は日夜暗躍をしている。
このCODE.No.702というのが機体識別である、ということをNo.702本人から聞いた敦司は、彼女を呼びやすいように、“702”から“ナッツ”の名前を連想し、彼女No.702に『ナッツ』という名前を与えたのである。
ネオポリスの最高位の機人という存在は、常に、常時、まるでパッシブスキルのように叡智の力を発動・発散させているために、ある程度の対異能・対魔法・対氣を備えており、また物理攻撃にも強く、ある種の機人のように自動修復機能を装備えている機体もいる。
それがゆえに、人が着るような衣服を必ずしも纏う必要はないものの、そんないまのNo.702はちゃんと衣服を着用している。
彼女No.702は、まるで制服のような長袖服を着ており、その服は頸元で爪入りを備え、身体の前でボタンかファスナーのある明度の高い明るい白を基調とした裾の長い軍服のような服装である。
腰には金属のバックルが付いた革帯を締め、一見するとNo.702の着ている服は、アイナやチェスターが正装として着ている“皇衣”にも似ている外観である。
視線をそのままNo.702の下半身に持っていけば、その彼女の下衣も制服か軍服のようなズボンであり、その下には黒い色をしたニーソのような長い靴下を履いている。
靴も軍靴のように丈夫そうな踵のしっかりとしたものであり、その色合いもNo.702が着ている服と同じ白っぽいいろである。
さきにも述べたが、No.702の容貌と容姿は、No.702は紫水晶のような色をした綺麗な紫の瞳を持ち、眼を見ても、耳を見ても、鼻を見ても、口元を見ても、完璧な左右対称で、誰が見ても均整の取れた美しく端整な顔立ちをしている。
しかし、表情に乏しく、まるで鉄面皮のように淡々とした無表情でその口から人の言の葉を操る。その言葉に冗談や嘘、あるいは偽りが混じっていても気づくことはないだろう。
No.702の髪は艶々としていて美しく、その髪型も左右で全く同じ長さであり、その髪の長さはすらりと背中で長い。
No.702の体型は、肥えてはいない。そして、痩せすぎでもなく、すらっとした体型である。肩の筋肉や背中の筋肉も、またその両脚も筋骨隆々とした肉付きではない。
No.702は、性別が女性を模して創られているが故に、その胸部のふくらみも忠実に再現されている。No.702の胸のふくらみは、大きくもなく小さくもなく、その彼女が着ているかっちりとした軍服のような衣服の上からはっきりとその存在を強調させることはない。
腹部は、余分な肉が付いているということはなく、No.702の腰は括れており、その腰をとめる帯がしっかりと、その括れた腰で止まっている。
臀部もふっくらと丸みを帯び、形は綺麗に、敦司の目にも、No.702の胸部も臀部も、丸い肉付きがちゃんと見て取れている。
一部の高位の機人は自身の機能を“解放”することができる。No.702にもその機能が付いており、No.702がその兵装を解放し、解放状態となると、その顔や表情は一変する。すなわち眼は虹彩を失い、まるで死んだ魚のように虹彩のない瞳に変貌する。
その状態になると、機人の身体にも変異が生じ、右手首から先が霧散し、その代わり異形の銃と取り替わるなど、その身体に兵装を纏うことができるのだ。
イニーフィネ皇国の皇衣のような衣服を着こんだ女性。紫水晶のような色をした綺麗な紫の瞳を持ち、眼を見ても、耳を見ても、鼻を見ても、口元を見ても、完璧な左右対称で、誰が見ても均整の取れた美しく端整な顔立ちをしたまるで造形美のような美しさを持つ機人の少女。
その彼女こそが、ネオポリスの最高位の貴人であるCODE.No.702.稲村敦司がナッツと呼ぶ機人の少女である。




