280 ●中央銀行
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次回更新は12/21(日)
(1576 ●津田信広(48))
将軍御所である二条城へ一条房基を呼び出した。家臣を置いて一条房基独りだけを呼びつけるわけにはいかないので、伊予から上京してきた一条義輝と毛利隆元、小寺孝高達も同席させた。衆議院が機能し始めており、土佐の議員は一条房基でなく一条義輝を立ててきていた。対応する幕府側は事務方が中心。信長はまだしも役職者も顔を揃えない。今回は通達の場であり、交渉はこれから。織田政権からすれば一条房基といえども地方の有力者として扱う姿勢を見せたかった。
「今回は表向きは小規模な経済委員会の会合としてお集まりいただきました。ご足労いただきありがとうございます」
「今回の話は幕府からの正式要請になります。伊予で行われている貨幣鋳造を幕府直轄の事業とし、大坂に移転することに協力願いたい。ゆくゆくは名古屋で行うこととなります」
『・・・・いきなりの話ですね』
一条房基は落ち着き払っている。相変わらずこちらの情報は筒抜けらしい。
「国が一つになろうとしています。貨幣鋳造は中央銀行の業務として統制する必要があります。今回はこちらの考えを伝え、落としどころを探るための最初の話し合いの場です」
『甲州金や薩摩金などの鋳造も管理されるおつもりか?』
「一番大規模な土佐金から手をつけたい」
『いくつか条件があります』
さて、交渉開始だ。
『伊予の銭鋳所には朝廷から監査のための役人が常駐しています。刻印に元号を使用させていただくために朝廷には使用料を献上しています(212話)。この制度を維持していただきたい』
初めて聞く話だ。なるほど勝手に元号を使用しているわけではなかったのだな。
「他には?」
『金貨と銀貨の鋳造は速やかに中止しましょう。銅貨の元禄通宝は次の元号が定まるまでは鋳造を続けさせてもらいます。年明けには信長殿が征夷大将軍になられる。改元が行われるでしょう。そのタイミングで移行するのはいかがでしょう?』
まさか、こんなに簡単に事業を手放すのか?
「本当によろしいのですか?」
『信じられないですか? そちらから担当者を派遣していただいて、施設を破壊する現場に立ち会っていただくことにしましょう。監視のために数年間は人を残していただいて構いません。屋敷などはこちらで用意しましょう』
「どうしてそんなに簡単に手を引くことを決められるのですか?」
『・・・・経済を円滑に回すためには悪貨を駆逐し、安定して良貨を流通させる必要があります。貨幣鋳造は何の利益も生み出さない事業です。中央銀行ができるのであれば喜んで協力します。鋳型などは破壊しますが、機材は無償でお譲りしますよ』
「一つよろしいですか?」
毛利隆元が声をあげた。
「何でしょうか?」
「これまで地金を一条公に買い取っていただいていた。これからは幕府が買い取っていただけるのか?」
「地金ですか?」
「鉱石から取り出した金、銀、銅の塊のことだ。原材料を渡して金貨や銀貨を受け取っていた。石見銀山は朝廷に献上しており、実質は商人のものだが、毛利家が守護し、仲介をしてきた。生野銀山の銀は小早川家の管理下にある」
中国地方には良質な鉱山が多いと聞く。ゆくゆくは幕府の直轄地としたいが、今はまだ大名の力が強い。
「その辺りの細かい話は改めて協議する場を設けさせていただきます」
「細かい話ではないぞ!」
『まぁまぁ、幕府が買い取らなければ今まで通りこちらで引き取りますよ。西欧単位の重さでインゴットを作って、西欧貿易に使いますから』
「銭鋳所は破棄するのではないのですか?」
『貨幣は造りません。ですが、土佐で造っている金貨や銀貨は混ぜ物を入れているから海外では通用しません。ですので金座や銀座などの銭鋳所は廃止しますが、精錬所は残します。幕府が必要であれば精錬した金塊や銀塊を卸すことは可能です。できればお引き立ていただけるとありがたいですね』
「その精錬所も移転するわけには参りませんか?」
『金座や銀座を作るのは難しい話ではないですが、鉱石や地金の保管場所、高炉の建設、金塊や銀塊の警備と管理、場所や燃料の確保など、受け入れる体制を整えるだけでも数年かかりましょう。担当部署を決めて、計画を出していただいてから協議することにしましょう』
遷都事業が優先のため10年先の話になってしまう。一条氏の力を削ぐつもりでいたが、一筋縄ではいかないようだ。今回は抵抗なく受け入れてもらえただけで良しとするしかない。
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