許されない
ルナ、ソールを除いた、フェリクスたち一行に多くの魔獣とアーラが立ちはだかっていた。
『コルヌ‥‥アンタ、どこに行ったと思ってたら、まさか王を裏切ってそっちについてたなんてね‥‥はじめ知った時は驚いたわよ』
アーラは、極彩色の翼を羽ばたかせながら、忌々し気にコルヌを見る。
その顔は、いつもの美しさを微塵も感じさせないほどに、憎しみを表している。
『だっはっは! 久々だなアーラ! すまん、おれは、愛に生きることにした!』
コルヌはニカッと眩しいほどの笑顔を見せて、プエッラの肩を寄せた。
プエッラは、何を話しているかはわからないが、不満げにコルヌを睨みつけていた。
『許せない‥‥アタシたちの王を裏切ることは許されないのよ!』
アーラは、巨大なワシのような姿にからだを変え、コルヌに襲いかかろうと急降下した。
「アクイラ!」
「はいっ!」
フェリクスがアクイラに呼びかけて、急降下してきたアーラめがけて、弓矢を放った。
しかし、アーラは巨体にも関わらずからだを空中でひねり、矢を避け、体勢を立て直すように再び空中を飛んで回る。
(アイツ‥‥人間離れした奴もいる。アイツは危険だわ)
アーラが何か指令を周りの魔獣に出したのか、魔獣たちがフェリクスとその傍にいたアクイラに集中した。
何匹もの囲まれたフェリクスたちは、それらに応戦するのに手一杯になった。
アーラは、コルヌに向かって急降下し、コルヌの肩に鋭い爪をたてた。
『ぐっ!』
「コルヌ!」
鉄壁の防御であるはずのコルヌに、アーラの爪はすんなりと食い込んだ。
コルヌは、逃がさないとばかりにがっちりとアーラの両足を掴み、プエッラが斧でアーラに攻撃を仕掛けようと振りかぶった。
だが、アーラは大きく翼を羽ばたかせ、そのままコルヌごと飛び立ち、屈強で重いはずのコルヌを軽々と空中に連れ去った。
『だっはっは! 空を飛ぶのは二回目だ! 足がつかないと落ち着かないな!』
『あらそう? じゃあ、お望みどおりにしてあげる!』
アーラが再び急降下し、コルヌを建物に何度も叩きつけてから、つき落とした。
「コルヌ!」
プエッラがコルヌに向かって走り出そうとしたところをアンナが腕を掴んで止めた。
「ダメよ、プエッラ! 離れたらあいつの思うつぼよ! コルヌならきっと大丈夫だから」
「う、うん‥‥」
「また、来るよ!」
コルヌを突き落としたアーラが旋回して、再びこちらに向かって飛んできた。
プエッラが気持ちを切り替えて、アーラを見据える。
「アンナ! あいつ素早いから、ひきつけてから魔法で攻撃して!」
「わかった!」
アーラが今度はプエッラに狙いを定めて、攻撃態勢に入った。
アーラがプエッラに向かって再び急降下する。
「まだだよ‥‥」
アーラとの距離が馬一頭分まで縮まった時、アンナはアーラに向かって炎の魔法を放った。
炎がアーラに直撃し、アーラはひるんだ。
(やった!)
「たたみかけるっ!」
プエッラがひるんだところにすかさず、斧での攻撃を試みた。
『小娘がぁ!』
アーラは急に人型に戻ってプエッラの狙いを外させ、踏み込んできたプエッラの懐に入り、みぞおちに拳を殴りいれた。
プエッラのからだから骨が砕ける音がし、力なく地面の倒れ込んだ。
「プエッラ!」
アーラは、素早くアンナに距離を詰め、アンナの腰深くに回し蹴りを食らわせた。
「ゔっ!」
アンナは、吹き飛ばされて、地面に転がった。
アーラは、ふぅーと息を吐き、こきこきと首をならす。
『そこらの小娘にやられるアタシじゃないわよ‥‥って』
アーラが後ろから殺気を感じて、振り返ると同時にからだをのけぞってプエッラの横凪に斧を振った攻撃を避けた。
(骨を折ったのにまだ動くの!?)
「でりゃあああ! 二撃目!」
プエッラは、口から血を吐きながらも、そのまま回転してもう一度斧を振りかざした。
しかし、プエッラの攻撃が届く前にアーラは風の魔力を周囲に放ち、プエッラを吹き飛ばした。
吹き飛ばされたプエッラは、地面に転がり気絶したのか動かなくなった。
アーラの額に冷や汗がつたった。
『くっ‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥』
(ゼノ‥‥助かった‥‥)
念のために確実にとどめを刺そうとプエッラに向かって歩くアーラの耳に、こちらに向かってくる馬の蹄が地面を蹴る音が届いた。
『プエッラ!!』
額に角を持つ巨大な馬のような姿になったコルヌががれきを駆け抜け、アーラに向かって突進してきた。
アーラが再びワシ型になり、空中に飛び去ろうとしたところをコルヌも地面が沈むほど強く蹴り上げ、高く跳んだ。
コルヌはアーラよりも高く跳び、上からその巨体でのしかかった。
『コルヌぅ!』
アーラは、忌々し気にコルヌの名を呼ぶのと地面に落ち、土煙が巻き上がった。
土煙が消えたころには、コルヌはアーラの喉元に自身の鋭い角を突き立てていた。
『な、によ? 情けのつもり?殺しなさいよ!』
『お前にはここで大人しくしてもらうさ‥‥おれは、友達を殺したくはない。言っておくが、おれは、アーラが何と言おうとアーラの友達はやめないぜ』
『とも‥‥だち‥‥』
アーラから、コルヌを忌む気持ちが抜けていくように、抵抗する力が抜けていった。
ワシ型から人型になったが、コルヌの拘束を抜けても、動く様子はなかった。
『はぁーあ‥‥アンタって脳筋だけど、いいヤツなのよね』
『そうだろう!』
コルヌは、馬の顔でニカッと笑う。
コルヌは笑っているが、アーラは呆れたようにため息をついて、ぼーっとコルヌ越しに空を見上げた。
『‥‥‥』
『友達、か‥‥アタシさ、さっき、初めてできた女の子のお友達を‥‥見殺しにした‥‥』
コルヌは、辛そうに顔をしかめて、アーラの次の言葉を待った。
『あそこで逃げちゃったら、きっと王に殺されるって、わかってたのに‥‥逃げたの‥‥』
『アタシ、お友達とあの方を裏切りたくないっていう気持ちを天秤にかけたのよ‥‥』
『後悔‥‥してるのか?』
アーラの視線がコルヌの顔に戻った。
アーラは、コルヌの問いに言葉で答えずに、ただ、儚げに笑った。
『ごふっ‥‥』
アーラの口から血が飛び出た。
『アーラ!! 嘘だろ!? 毒を飲んだのか!?』
『アタシも‥‥アンタみたいに素直に気持ちがだせたらな‥‥そこは、うらやましかった‥‥わ』
『アーラ!!』
コルヌは、人型に戻って友人の亡骸を抱きしめ、何度も名を呼んだが、返事が戻って来ることはなかった。
アーラが命を絶ったことにより、フェリクスとアクイラを取り囲んでいた魔獣たちの動きが著しく鈍くなった。
フェリクスが魔獣たち越しにコルヌがアーラの亡骸を抱いているのが見えた。
(‥‥はやく、この戦いを終わらせよう)
「アクイラ、プエッラとアンナを安全な場所まで運べるか?」
「戦線を離脱しろということですか!?」
「魔獣の動きが鈍い今の内だ。そうでなければ、彼女たちが危険だ‥‥コルヌ殿にも協力してもらえ」
「‥‥っ! わかりました」
戦線を一時でも離脱することには不服だったが、大怪我を負った彼女たちのことは心配なようで、アクイラは一瞬ごねたが素直に従った。
敵の魔獣の血で濡れたフェリクスは、一人となっても歩みを止めることなく、巨木に向かって走った。
(キエリ! もうすぐだから、無事でいてくれ!)




