王の番
グロい、カーニバル注意です!
ここからはキエリの家族編です。
魔獣の世界は、人間の世界よりも暗いが、天高く位置する巨大な淡い水色の花が同じ色の光を生み出し、魔獣の世界全てを照らす。
そして、地面のほとんどには、淡い桃色の花に埋め尽くされている。
キエリの一族、オオカミ型の魔獣たちは大きな洞窟を住処にして群れで穏やかに暮らしていた。
ある日、一族をまとめている長のトラリのもとに一匹の魔獣が息を切らして走ってきた。
『長! ミーティアが‥‥ミーティアが‥‥』
『ミーティアがどうしたというのだ?』
『はぁ、はぁ‥‥ミーティアが‥‥死にました。いや違う! 殺されたんだ!!』
周りの魔獣たちも息をのむ。
『なんだと!? 誰にだ? あの子は王の番になったばかりではないか? 王が大事にお守りしているはずではないのか?』
ミーティアの死を告げに来た魔獣は震えだし、毛で覆われた顔が絶望に染まる。
『‥‥‥』
『ミーティアは‥‥その王様に食われて殺されたんだ』
『!?』
オオカミ型の魔獣たちは、あまりの恐ろしさと疑いたくなるようなことに後ずさり、絶句する。
長であるトラリだけは状況を把握しようと冷静に努めることにした。
『それは、まことか? 噓であれば、それは王への冒涜であるぞ』
トラリの静かだが力ある瞳に見つめられて、魔獣はたじろいだが、まっすぐ見返した。
『ほ、本当です。おれは彼女のいとこだから、あの子が王様とうまくやれているかどうか、王様のところに会いに行ったんです』
『そこには‥‥ミーティアの姿がなくて‥‥』
『代わりに‥‥うぅ‥‥』
ミーティアのいとこだという魔獣は、その光景を思い出して吐き気をもよおしているのか、俯き人型になって口を押えた。
『ゆっくりでいいから、話しなさい』
『は、はい‥‥濃い血の匂いがして何かあったのではと、王様の住処に入ったら』
『たくさん、地面に血が流れていて、たどると‥‥うぅ‥‥王様がミーティアの腕を持っていて、でも腕の先にはミーティアのからだがなくて‥‥王様の口の周りが血まみれで!』
『わかった‥‥ありがとう。もう、休みなさい』
『ミーティア‥‥あぁ、ミーティア‥‥彼女の笑顔がもう見れないなんて、あの子の最後があんなだなんて‥‥』
ミーティアのいとこは涙があふれて膝をおって地面にうずくまったため、他の魔獣たちに支えられて、寝床に移された。
トラリは、厳しい顔をして考え込む。
(王は、ご乱心なのか? わたしたちに会った時はそのようなそぶりなど一瞬たりとも見せなかった)
(実際にミーティアは殺されてしまったのか? しかし、あの者が嘘を言っているとは到底思えない)
(哀れなミーティアよ‥‥わたしが判断を誤ったばかりに惨い死を迎えさせてしまった。許しておくれ)
『お父様』
『おぉ、ラクリマにルプスか‥‥』
二匹の人型になっている魔獣がトラリの部屋に入ってきた。
ラクリマと呼ばれた魔獣は、この一族で一番美しい銀色の毛を持つ魔獣だ。
人型の姿の顔つきも美しく誰もを魅了する。
隣には、番のルプスもいる。
彼は、見る者の心を洗うような水色の澄んだ瞳を持つ。
『ミーティアが亡くなったのですね‥‥』
『聞いていたのか‥‥彼女はお前の友人だったな‥‥』
『はい‥‥親友です』
ラクリマは、静かに俯き、悔しさで唇をかみ、彼女の大きな瞳から静かに涙が流れる。
ルプスがそっと涙を拭ってやる。
『彼女は、王の求愛に驚いてはいたけれど、でも、きっとあの方となら幸せになれると信じていました』
『彼女が‥‥哀れでなりません。何故そんなことが許されるのでしょうか?』
トラリは、沈黙してしまった。トラリとて、ミーティアの死が許せるようなものではなかった。
『わたし、確かめてきます。彼女が本当に亡くなったのか、何故彼女が殺されなければならなかったのか‥‥できれば、亡骸も家族のもとに帰してあげたい』
トラリは、娘の決意に賛成したかったものの、本当に王が乱心しているならば、そんなところに愛しい娘を行かせたくはなかった。
『お前の考えはわかった。わたしとて、このままではよいとは思わない。王のもとに参上しようと思うが、お前はここに居なさい』
ラクリマは、明らかに不服なようで、ぐっと拳を握ってまっすぐ射抜くように力強くトラリを見る。
『嫌です! わたしは親友の死を見届けなければなりません! お父様が反対しようとも、行きます!』
『何があるかわからないのだぞ‥‥』
トラリは、ラクリマなら行くと言うだろうとはわかっていたが、どうにも嫌な予感がする。
静かに話を聞いていたルプスが、話しに割って入ってきた。
『義父様、わたしも共に参ります。彼女のことは必ず守りますので、どうか、彼女の望みを聞いてください‥‥』
そう言って、ルプスは深々と頭を下げた。
ルプスは一族の中でも腕の立つ方だ。彼がいてくれれば安心ではある。
トラリは、ラクリマが頑としていうことをきかないともうわかっているので、勝手にひとりで行かれるよりは、一緒に行った方が安全だろうと考えた。
『わかった。王の様子をお伺いすることと、ミーティアの‥‥亡骸をもらい受けることが目的だと、肝に銘じておきなさい』
『ありがとうございます。お父様』
『ありがとうございます』
ラクリマとルプスはほんの少し微笑んで、トラリに頭を深く下げた。




