本性
『キエリーー!!』
フェリクスたちを乗せたドラゴンのゾンフは、ウルブスに差し掛かったところで巨木にいたキエリを目視した。
ゾンフは興奮して、一直線にキエリに向かってものすごいスピードで飛んでいく。
「ちょっ、ちょっと! いくら、魔法で守っているといっても速すぎ!!」
プエッラが叫ぶように懇願すると、ゾンフは巨木に到達する前に急停止した。
「きゃ! 止まるなら止まるって言ってよ!」
『どうした、ゾンフ?』
フェリクスがゾンフに何があったのかと話しかけるが反応がない。
目をぱちぱち瞬きさせて、空中で飛びながら前に進む様子がない。
「どうしたんだ? たしかにさっきキエリと言っていた。キエリを見つけたんじゃ‥‥」
「うわ!!」
ゾンフは突然急降下し、そのままウルブスの街に落ちた。
「フェリクス!!」
巨木の枝の上からドラゴンを見ていたキエリは、思わず叫び、駆け寄ろうとして枝から落ちてしまいそうになったが、魔獣の王が両腕でキエリの腰を掴んで止めた。
『危ないよ!』
『でも、あそこには、きっとフェリクスがっ!』
『そう、だね‥‥』
『え‥‥?』
『だから、落っこちてもらったよ』
キエリは、聴こえた言葉が信じられなくて、恐る恐る振り返る。
そこには、穏やかに微笑む魔獣の王の顔があった。
『‥‥あなたがやったの?』
『うん』
どうやってかはわからないが、たった今、フェリクスが乗っていたであろうドラゴンを地面に落とさせたと、この魔獣の王は平然な顔をして言ったのだ。
キエリは、すっと血の気が引いて、この魔獣の王に対し、やっと恐怖が芽生えた。
むしろ、今まで恐怖が芽生えなかったのが不思議なほどだ。
(わたしは、今まで何をやっていたの!? このひとがかわいそう!? たった今フェリクスを殺そうとしたひとを!)
(そうよ、彼は生きてる! 今すぐに彼のもとに行かないと!)
キエリがオオカミ型に変わろうとしたその瞬間。
「え‥‥?」
からだの力が抜けて、自由がきかなくなってしまった。
キエリがくたっとしてしまって、魔獣の王に寄り掛かる。
『逃げようとしても無駄だよ‥‥君の魔力はもらったから』
『は‥‥なして』
キエリは、力なく魔獣の王の手をのけようとするが、今の状態で力でかなうはずがなかった。
むしろ、また抱きかかえられてしまい、ますますキエリの自由がなくなった。
『考えたんだ‥‥もし、君の愛するという男がいなくなれば、君は僕を見てくれるんじゃないかって』
『絶対ならない! あなたの番になんて!』
『なるよ。君から今までの全てをなくして、僕だけで満たせばいいんだ‥‥本当は、もっと前からそうするべきだったのに、君の両親が邪魔するから』
何故、ここでキエリの父と母の話しが出て来るのかと、不思議でならなかったキエリは、眉を曇らせ。
魔獣の王を見上げた。
魔獣の王のゾッとする血のように紅い瞳がキエリを見つめる。
そこには、先ほどまでは微塵も見せなかった、歪んだ愛情と憎悪と支配欲が溢れてキエリにまとわりつく。
キエリは、恐怖でからだが骨の芯から震えた。
「あ‥‥‥あなた‥‥見たことある‥‥」




