気のせい
フェリクス、ルナ、アンナ、プエッラ、コルヌ、アクイラはドラゴンの背に乗って、悲願の魔獣の王と討伐と攫われたキエリを救い出すために、王都ウルブスに向かっていた。
二人の大柄な男性と他四人を乗せても、ドラゴンのゾンフは涼しい顔をしていた。
ただ、乗る側は馬のように鞍もなく、ドラゴンのとげとげとした鱗を掴むほかなく、どう空中であびせられるすさまじい風に耐えようかと考えていたが、ゾンフは乗り込んだ皆を包み込んで守るように水の壁を作ってくれた。
ゾンフとしばらく話をしていたコルヌがプエッラのもとに戻ってきた。
「ちゃんと伝えた?」
「おうよ! だが、この娘っ子はかなりの方向音痴だゾ。こっちの世界から、あっちの世界に戻る道がわからなくて、ずっと世界中をさ迷っていたそうだ」
コルヌは、しっかりとウルブスの場所を把握しているようで、ゾンフが道を間違えそうになれば、すかさず修正してくれた。
人間組は、心底コルヌがいてくれてよかったと思った。
彼が居なければ、言葉の通じないドラゴンと長い旅になっていたかもしれない。
プエッラのためにドラゴンに甲斐甲斐しく指示をだすコルヌを見て、常に元気なプエッラが影が差し掛かった。
それに気づいたコルヌが大げさなくらい慌てだす。
「どっ、どうしたんだ!? プエッラがそんな顔するなんテ? おれが何かしたか? それとも、髪型が崩れたのが嫌なのか? それとも‥‥それとも‥‥」
コルヌは、思いつくことを並べてみてプエッラの反応を待ったが、プエッラは首を横に振った。
「ずっと聞きたかったんだけど、あなたってさ‥‥魔獣の軍にいたでしょ。それなのにいいの? こんな風にあたしたちに協力して」
コルヌがぽかんとしてプエッラを見た。
そして、急にだっはっは!と大いに笑い出した。
プエッラは真剣に考えていたようで、何故だか笑われたのには釈然としないし、何より腹が立った。
「なんなのよ! こっちは真面目に話してるのに!」
「いやぁ、違う違う、プエッラを馬鹿にしたんじゃないゼ」
急にコルヌがプエッラに顔を近づけて、ニカッと眩しい太陽のような笑顔を見せた。
「やっぱ、プエッラはいい女だなぁと思って」
プエッラは、真っすぐ射抜くような視線で急に言われて、どうしようもなくどぎまぎしてしまった。
いつもだったら「なに急に変なこと言い出すのよ!」と言いながら回し蹴りを食らわせるものなのだが、今はできなかった。
きっと、ドラゴンに乗ってるこんな状態では回し蹴りなどできないからだ、とプエッラは思っておくことにした。
「なんなのよ急に‥‥? 口説いてんの?」
コルヌは、不思議そうにプエッラを見つめる。
「プエッラに惚れた時からずっと口説いてるぞ。気づいてなかったのか? まさか、おれの求愛が足りない!?」
今の今までずっと付きまとわれていたのに、これ以上があると思ったらたまったものではないと、プエッラは首をがんがん横に振って、「十分だから!!」と、コルヌを制した。
「ってか、質問に答えてよ! あんたは平気なのかって?」
「平気じゃないサ、むこうには友達もいるしな」
「だったら‥‥!」
プエッラの言葉がとまった。だったら‥‥その後はなんていえばいいのだろう。
敵のはずのコルヌは、自分に勝手に好意を寄せているとはいえ、協力までしてくれている。
好意を知っているうえで、裏切り行為をさせていると思うと、プエッラは、自分がとても悪い女なような気がしてきた。
「だっはっは! やっぱりな、いい女だよ」
「だから、それ何?」
「おれが仲間を裏切っているのをプエッラは気にしているんだろう?」
「う、うん‥‥」
そのとおりなので、プエッラは素直に頷いた。
「プエッラが気にすることじゃないだろう? おれは、プエッラに惚れてるのだから、どんどん利用してやればいい」
「もうっ、それがなんか、嫌なんじゃない! そんなことばっかしてたら、あたしめっちゃ悪い女じゃん‥‥」
「ならないな、プエッラは、ならない」
「な、なんでそんなこと言えるのよ‥‥?」
「おれが惚れた女だからな」
何故かコルヌは、自信ありげにきっぱりと言い張る。
(そんなふうに言われると、なんも言えなくなるじゃない‥‥)
プエッラは、空中で冷えるはずなのに少し顔が熱かった。




