仲良し
ウィルトスは、再び首都ウルブスに向けて歩みを進めていた。
キエリは、フェリクスに一緒に馬に乗るか?と言われたが、どうせだったら荷物運びするよ、とオオカミ型になって背にいくつかの荷物を載せていた。
オオカミ型となっているキエリを周りの隊員たちは興味ありげな視線をおくっていた。
ルナやプエッラ、アンナはキエリの傍で話しながら歩く。
あの夜一緒に過ごして仲良くなったので、自然とこの組み合わせができていた。
「うわー、キエリさんオオカミ型になるとおっきくなるんですね! 乗せてほしい!って言ったら失礼ですかね?」
キエリを見て、プエッラが子供のようにはしゃぐ。
遠慮しながらも好奇心が止められないようだ。
「いいですよ。わたし、人に乗ってもらうのけっこう好きです。撫でられるのも」
「本当ですか! じゃあ遠慮なく、次に野営するときに乗せてもらっていいですか?」
「ずるい! あたしも乗せてもらいたい!」
うずうずしていたアンナまでプエッラのお願いにのってきた。
「ふふ、いいですよ」
キエリは、少し子供のようにはしゃぐ二人が可愛く思えて、優しく微笑んだ。
「ふふ、キエリさんは人気者だな」
ルナが微笑んでキエリたちを見る。
「ルナさんも乗りますか?」
ルナは自分もその提案がされるとは思っていなかったらしく、少しドキッとしていたが、少し気恥しそうに咳ばらいをした。
「‥‥じゃ、じゃあ、この前乗らせてもらったので、その、ふわふわしっぽをふわふわしていいですか?」
「ふふふ、はい! ふわふわしてください!」
キエリが嬉しそうにしっぽを左右に振る。
結局その後プエッラもアンナもふわふわしたい!と言い出した。
周りの隊員たちはちょっとうらやましそうに女性陣を見ていたような気がした。
暗くなる前に野営を張り、ウィルトスの隊員たちはそれぞれ時を過ごしていた。
「きゃー! キエリさん速―い!!」
キエリは、約束通りプエッラを背に乗せてぐるぐると広い場所を回っていた。
それを遠巻きにウィルトスの隊員たちがうらやましそうに見ている。
満足したプエッラはにこにこ顔でキエリから降りた。
風を切り走るキエリに乗っていたので、髪の毛がくしゃくしゃになっている。
キエリが人型に戻ってプエッラの髪形を手櫛で梳かしてあげる。
プエッラの前にキエリに乗せてもらっていたアンナは満足げに笑って、キエリに羨望の眼差しを向けている。
「やっぱりすごいなー魔獣はみんなこうやってからだが変わるんですか?」
キエリが顎に手をあてて考え込む。
「うーん‥‥魔獣によるかな。わたしみたいに人型になれる魔獣となれない魔獣もいるみたいだし。魔獣の姿はいろいろあるみたいだから」
「そういえば、わたしのお母さんやお父さんはわたしみたいに人型になれたなぁ‥‥ほとんどオオカミ型で過ごしていたけど‥‥」
キエリは、前よりは心の整理がついたのか、自然と会話の中に自分の父と母の話ができていた。
ルナは、キエリの両親のことを知っているので少し悲しそうにしたが、キエリが自然と話しているならあまり顔にだしてはいけないと、すぐに穏やかな表情に戻った。
プエッラが空中に視線を移し、頬杖をつきながらうーんと唸りだした。
「どうしました?」
「キエリさんのお父さんとお母さん‥‥こうして聞いてみると、やっぱり変わらないよね?」
アンナが不思議そうに首を傾げる。
「何が?」
「人間と魔獣だよ! そりゃあ、見かけが違って、からだも全然違うけど、キエリさんみたいな魔獣もいるんでしょ? なんだか小さいキエリさんとお父さんとお母さんが過ごしてるのが普通に想像できちゃって」
「なんか、こう、うまく言えないけど、他の魔獣だってほんとは人間みたいに生活してるのかなって‥‥」
「‥‥‥気分を悪くさせてしまうと思うですけど、正直あたしキエリさんに会うまで魔獣は獣って感じが強くて‥‥でも、キエリさんに初めて会った時は、普通の女の子に思えて、今まで戦ってたのも魔獣のはずなのになぁ、って」
キエリは、おずおずしながらも正直に話してくれるプエッラに優しく微笑む。
「それはしょうがないですよ。みなさんが戦っている魔獣は人型ではないのが多いでしょうから」
「それに‥‥実は最近、出会う魔獣がなんだか昔出現していた魔獣とは、なんだか違うような気がします」
(そうだ、何かが違う‥‥違和感があるんだ。なんなんだろうあの感じ‥‥)
キエリは、腕を組んでうーん‥‥としばらく考えてみる。
(言葉‥‥言葉を話しているけど、話が通じない。あとは何かに駆り立てられたように行動する‥‥)
(あのワシ型の魔獣たちと戦った時も‥‥あの子たちは無心で戦っているように見えた。まるで、生きる兵器だった)
考え込んで動きが止まったキエリを見て、今度はプエッラとアンナも首を傾げた。
ルナが心配そうにキエリの顔を覗き込んで、声をかける。
「キエリさん、考え事ですか?」
ルナの声掛けでキエリの意識が戻ってきた。
「ごっ、ごめんなさい。魔獣の研究をしていたはずなのに、前よりもわからないことがどんどん増えてしまって‥‥つい、考え込んでしまいました」
「そう、ですね。だいぶ魔獣の生態が変わったように思えます‥‥」
ルナは、何か思い当たる節があったのか、眉間に皺を寄せた。
「あ、あのキエリさん!」
男性の声が聞こえて、キエリたちが声の方に視線を移すと何人かのウィルトスの隊員たちが緊張した面持ちで立っていた。
キエリは、初めて話しかけてきた面々だったので、何事かと目を見開いてしまった。
「ど、どうしました?」
「えと‥‥その、俺たちも‥‥」
まごまごとしだして、いっこうに男性たちの用事が何なのかわからないでいると「キエリ!」とフェリクスの呼ぶ声が聞こえた。
フェリクスは、笑顔でキエリに手を振っていた。
キエリも愛しい人を視界に入れると、自然と優しい表情になり頬が緩む。
「フェリクス、軍議は終わったの?」
「あぁ、こんなところで集まって、何をやっているんだ?」
「気分転換にみんなを背中に乗せて走ってたの。あとは、ルナさんにふわふわしてもらったのよ!」
キエリは、嬉しくてしっぽを左右に揺らして満面の笑みが咲く。
それがフェリクスにはとてつもなく、いや誰が見ても可愛らしかったので、つい頭を撫でていた。
何故撫でてきたかはわからなかったが、とりあえず嬉しかったので、キエリはそのまま撫でられていた。
「フェリクスも乗りたいの?」
フェリクスは、少しドキッとしたが、すぐに苦笑に変わった。
「俺は、重いからいいよ」
キエリは少し残念そうにしゅんとした。
そして、はっとしてフェリクスばかり見てほったらかしにしていたウィルトスの男性隊員たちの方を見る。
「あ、あぁ、ごめんなさい。それで、何のようでした?」
隊員たちは、先ほどまで何か言いたそうにしていたのに、なぜか怯えるように肩を震わせ、何でもないです!と言って走り去ってしまった。
キエリたちは、結局何だったのかと顔を見合わせて首を傾げていた。
フェリクスが、キエリに見られないようにその隊員たちに冷たい視線をおくっていたことはキエリは気づかなかった。
「キエリも他のみんなも、明日も早いのだから、もう寝たらどうだ?」
フェリクスがまるで夜更かしする子供を注意する母親のように、寝るのを促した。
はしゃいでいたプエッラたちは眠たそうで、目を擦りながらぞろぞろと女性用の天幕に戻ろうとして、キエリもみんなの後に続いて行こうとしたところで、フェリクスに手を掴まれた。
「キエリはこっち‥‥」
フェリクスの瞳はほの暗く、熱を帯びていた。
キエリはそのまま手を引かれて、フェリクスの天幕に連れていかれた。
キエリは、フェリクスに抱かれたあの日から、もうこの視線の意味を理解してした。
まだ城にいたころも熱っぽい視線をおくられることは多々あったが、今はより多くの欲望が混ぜられている。
キエリは、顔を真っ赤にして、混乱していた。
昨日、砦でキエリが女性用の部屋で眠ろうとした時もフェリクスに止められたが「ほら、明日も早いんだから! はやく寝ましょう!」と、焦って早口で言って、逃げるように部屋に走って行ってしまった。
いや、逃げるように、ではなく、確実に逃げた。
次また夜に二人きりになれば、あの日のようなことが再び起こることは容易に想像できた。
(嫌じゃない‥‥嫌じゃない、けど、毎日だと体力がもたない!!)
(それに、もし今、子供ができたら‥‥)
キエリが歩みを止めるとフェリクスもまた止まった。
「ふぇ、フェリクス! いいよ、わたしはあっちの天幕で寝るから! ほら‥‥んと‥‥えーっと」
必死でうまい言い訳を探してみたが、出てこなかった。
フェリクスがキエリを抱き寄せ腰に手を回す。
距離が狭まるとキエリの心臓の鼓動は一段と早くなる。
かがんでキエリの耳に囁く。
「昨日も我慢した‥‥今日もずっと離れてた。キエリが足りない」
「キエリが欲しい」
キエリは目が合わせられず、頬を赤く染め俯くことしかできなかった。
(あぁ‥‥ずるい‥‥)




