話し合い
ランプの薄明りだけが天幕の中を照らす。
天幕は広くはないが、じゅうたんが敷かれていて、横になれば気持ちがいい。
「キエリ‥‥可愛い俺のキエリ‥‥」
フェリクスは座ったまま、キエリを足と手でがっちりと囲んでいる。
キエリは、身動きが取れないが、包み込まれている感覚が心地よくて、フェリクスの背に手をまわし、からだをすり寄せる。
フェリクスは愛おしそうにキエリの頭を撫で、キエリのふわっとした銀色の髪を手に絡める。
フェリクスは、キエリの肌が露出しているところにいくつもの口づけを落とす。
キエリは、甘い雰囲気に流されてはいたが、頭の片隅には、心配事をきっちりと話さねばとも考えていた。
「ねぇ、フェリクス」
「なに?」
フェリクスは、キエリに額や頬に軽い口づけを落としながら、キエリに耳を傾ける。
「あのね、わたし、フェリクスのことが大好き、こうやって触れてもらうのも好き‥‥」
フェリクスは、ドキリとしたのか一瞬手がとまったが、すぐにキエリの顎を上に向かせ、深く口づけをした。
「ん‥‥ちょっと、待って」
「無理だ‥‥キエリがもっと欲しい‥‥」
フェリクスの目が据わっている。
キエリは、このままだと話しどころではなくなると一旦フェリクスの胸を押して、離れようとしたが、そのまま押し倒されてしまった。
「待って、続きがあるから! 大事な話なの!」
フェリクスの眉がぴくっと動き、キエリからゆっくり離れた。
キエリは、フェリクスが話を聞いてくれそうなので、ほっとして、起き上がった。
「話って?」
「あのね‥‥わたしたちの子供についてなんだけど‥‥」
フェリクスは目を見開き、きらきらと輝きを放ち、キエリに詰め寄る。
「俺たちに子供ができたのか!?」
「ご、ごめん違うの、できてない」
「そ、そうか‥‥」
残念そうにしているフェリクスを見ると、キエリはこの人はわたしとの子供を喜んでくれるのかと、わかってはいたものの目の前で反応が見れて、心の底から嬉しくなった。
「あの‥‥それでね、最近考えてるの。そもそもわたしたちって、子供出来るのかな?って」
「それは、何度も試してみればわかるよ」
「へ!? あ、あぁ、うん」
フェリクスがはっきりと言い放ったので、フェリクス自身は子供ができるかどうかは問題にしていなかったようだ。
「他には?」
「それと‥‥今、子供ができてしまったら‥‥こんな状況で出産や子育てがまともにできるかわからないでしょ?」
「だから‥‥こんないいかたするの気恥ずかしいけど、わたしを抱かないでほしい」
フェリクスは、衝撃を受けているのか硬直してしまって動かない。
「フェリクス‥‥?」
フェリクスは、やっと時間が動き出し、頭を抱え込む。
「ちょっと、大丈夫フェリクス?」
「ごめん、もちろん妊娠については考えてはいたけれど、その時は安全な場所に避難してもらおうかと、勝手に考えていた‥‥ごめん」
フェリクスはしゅんとしているあたり、キエリに何も相談していなかったことに反省はしているようだ。
キエリが初めてフェリクスに抱かれた日は相談というのはできそうにもなかったが、とりあえず、勝手にとはいえ考えていてくれたのかとキエリは思った。
「そ、うなんだ。はじめに言っておいてほしかったけど‥‥もう、いいよ。でも、わたし、それは断るかな‥‥そうなったらあなたの傍で生む。もう、あなたと離れるの嫌だもの」
「‥‥‥俺も嫌だ」
フェリクスは自分の提案にもかかわらず、本心はキエリと離れたくないらしく、顔をしかめながら小声で拒否した。
「でしょ? だから、この戦争が終わるまでは我慢してほしいの。まだ、起きていないうちに話しあっておかないと、と思って」
この戦いは、いつ終わるかわからない。
現在ウィルトスは、王都ウルブスを今度こそ奪還すべく進行している。
今度の決戦で終わればよし、敗れれば、良くて再び一からやり直し、それか命を奪われる。
魔獣の王を倒し王都を奪還する。
これはあくまで希望であり、確実なことではない。
キエリは、確実ではないが平和になる未来を信じていた。
このウィルトスにいる者たちも、もちろんフェリクスもそうであった。
信じているからこそ、キエリはフェリクスにこの提案をだしたのだ。
「‥‥‥‥‥」
フェリクスに長い沈黙がおとずれた。
「フェリクス大丈夫?」
「‥‥‥‥‥‥」
フェリクスがあまりにも長い間黙りこくっているので、キエリは少し不安になってきた。
すると、フェリクスがキエリに深く頭を垂れた。
「え!? なにどうしたの? 体調悪いの?」
「‥‥‥ごめん、違うんだ。わかったよ平和になるまで、我慢する」
「はぁ‥‥自分の身勝手さと愚かさに呆れてた。キエリの都合も何も考えず、俺は‥‥その、あの日無理やりしてしまったから‥‥」
「あ‥‥あれは、無理やりだったっていう自覚はあったんだ」
フェリクスは、申し訳ないとより頭が下がる。
確かに、あの日のフェリクスは精神不安定で、キエリに執着の混じった愛情をぶつけられた。
キエリも初めはフェリクスの感情に震えていたが、結局は自分も気持ちを押さえられなくなっていた。
キエリは、そっとフェリクスの手を握る。
「もう、いいよ‥‥驚きはしたけど、フェリクスのこと‥‥好き、だから」
キエリは、気恥ずかしさが限界を越えてあたふたし始めた。
「なにも、わたしに触れないでと言っているわけじゃないよ!」
「‥‥わたしもフェリクスに触れてもらえないのは、寂しいから‥‥」
キエリは、自分の言葉が恥ずかしくて頬を赤くし、つい俯きたくなったが、こらえたため、自然と上目遣いになってしまった。
それが今のフェリクスには刺激が強すぎた。
「‥‥‥」
フェリクスがまた固まって、黙りこくってしまった。
キエリは、まだなにか不安なことがあるのだろうかと心配になって、フェリクスの頬に手を伸ばす。
フェリクスがキエリの手を引き、からだを引き寄せ抱きしめる。
「じゃあ‥‥キエリに触れてる間、俺は服を脱がないようにする」
「え? そ、そう」
「キエリを怯えさせてしまった分、キエリには償いたいと思う」
「は? え」
フェリクスの手がキエリのワンピースの裾からキエリの太ももをさぐる。
キエリのからだがフェリクスの熱い手に反応して跳ねてしまう。
キエリが恐る恐るフェリクスの顔に視線を向けると、フェリクスの瞳がまた熱を帯びていた。先ほどよりも熱く、愛情にあふれている。
瞳からキエリが好きだと聞こえてくるようだ。
「好きだよキエリ。世界の何よりも愛してるよ‥‥」
キエリは結局子供について話し合うという目的は果たせたが、体力温存はできなかった。




