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【完結】オオカミはフードを被る  作者: Nadi
オオカミはフードを脱ぎ捨てた

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一緒に

 「う‥‥ぐ、ひっく‥‥」


 アンナがキエリからそっと離れたが、まだ涙は止まらず、鼻は真っ赤でずびずびと鼻をすすっている。


キエリは、とにかく落ち着けようとアンナの頭を撫でる。


 「ずみません、キエリさん‥‥」

 「いいよ、落ち着くまでいるから」

 「‥‥キエリさん、優しすぎます。あたし、諦めきれなくなる」

 「う、うぅん‥‥それは、困るけど、今更冷たくするのは、できないかな‥‥」

 「いつか、その優しさに付け込むやつが現われますよ‥‥あたしみたいな」

 「なんか、それ前に似たようなこと言われたな‥‥でも、やっぱりアンナは、わたしの大事な友だちだから」 

 「とも‥‥だち‥‥」


キエリは、穏やかに微笑んでこくりと頷いた。


 アンナにとって、今キエリから受けている優しさも残酷なものでしかないが、それでも冷たく拒絶されるよりずっとよかった。


こんな気持ちを勢いのまま吐き出してしまった時、元のような関係に戻ることはできないのでは、もしかしたら、キエリは、二度と自分に笑いかけてくれなくなるのでは、と心配でならなかった。


 「こんなあたしでも、友達だって言ってくれるんですね」

 「もちろんよ」


キエリの瞳は優しく、澄み切っている。そこには嘘も軽蔑もない。


アンナは、今までのぐちゃぐちゃした気持ちを全部出し切るように大きく息を吐いた。


そして、ぱっと顔を上げた時にはキエリの知っている笑顔がアンナにかえってきていた。


 「絶対、絶対幸せになってくださいね! あ、もしなんか嫌なことがあったらすぐに言ってくださいね、あたしはいつでもキエリさんの味方ですから!」


キエリもいつものアンナの笑顔が見れてほっとしたのか、自然と笑顔になった。


 「うん、ありがとうアンナ」

 「きゃー! やっぱりキエリさんの笑顔は最高です! かわいい!」


アンナはぎゅっとキエリを抱きしめた。


キエリは、ほんの少しどぎまぎしたが、アンナが元気そうなのでよかったと心の中で安堵して、アンナを抱きしめ返した。


 すると、突然キエリのからだが持ち上げられ、空中に浮き上がった。


 「そろそろキエリを返してくれないか?」

 「あ、フェリクス」


アンナは、舌打ちして忌々し気にフェリクスを睨みつけ、ふぅー、とため息をついて、立ち上がった。


 「フェリクス様、でしたよね‥‥‥」


フェリクスを前にしてまたむすっとしだしたアンナと、キエリをしっかりと持って眉間に皺を寄せながらアンナをじとっとした目でみているフェリクスに挟まれ、キエリはあわあわと喧嘩にならないかと心配した。


 「‥‥‥キエリさんを‥‥頼みましたから‥‥」


アンナは、まだ不服そうな表情はしていたが、以前のような怒りはなく、まっすぐフェリクスを見ていた。


 「もちろんだ」


フェリクスもアンナの目を見て、しっかりと返事をした。


アンナは、それだけ言うと、その場から立ち去った。


 (アンナ、もう怒ってるわけではないみたい。よかった‥‥)


 キエリがいまだにフェリクスに持ち上げられているので、下ろしてほしいという合図に足をばたばたさせるがフェリクスは下ろすどころか、キエリをぎゅっと抱きしめた。


キエリは腰に両腕をまわされて、後ろからぬいぐるみのように抱きしめられている状態だ。


 「フェリクス、下ろしてほしいのだけど‥‥」

 「‥‥俺を褒めてはくれないのか?」

 「あ‥‥‥」


 そもそも、この戦いはフェリクスとキエリの婚姻を認めてもらうために行ったのに、キエリは、儀式が終わった後は怪我をしたアンナにつきっきりになっていた。


 フェリクスは、子供のように拗ねていて、キエリを一向に放そうとしない。


 「ご、ごめんね。お疲れ様! うん、かっこよかったよ!」


キエリは、しまったという気持ちから慌ててしまい、本心なのに取り繕ったような言い方になってしまった。


 「‥‥‥」


表情は見えないが、何も言わないあたりまだ許してくれないらしい。


 「本当だよ! 戦ってる時の真剣な表情もかっこいいし、わたしたちのために戦ってくれてると思うと、嬉しくてたまらなかったし」

 「わたしの視線に気づいたとき、手を‥‥振ってくれて、その時の笑った顔が可愛かったし」

 「‥‥こんなこと言うの、ちょっと恥ずかしいのだけれど‥‥‥あなたのからだに見惚れてた、し」


 (うああぁ、わたし変なこと口走ってる!)


とにかく思っていたことを続けざまに報告してみたが、恥ずかしさがこみ上げてきて顔を真っ赤にしながらからだがぎゅっと縮こまる。


フェリクスは、やっとキエリを下ろした。


下ろしはしても、キエリはまだフェリクスの腕の中にすっぽり収まったままだ。


だが、キエリは自身の発言の恥ずかしさから顔を上げることも、振り返ることもできない。


 (ま、まず、落ち着こう)


 「キエリは、俺の笑った顔が好きなのか?」

 「え? うん」

 「俺のからだも好き?」

 「えぇ!? なんか、こう、うぅ‥‥なんか、そんな言い方されると」

 「好き?」


フェリクスはキエリを引き寄せて、腕の檻をより固く閉じる。


きちんと答えるまで、離さないつもりのようだ。


キエリの背中からフェリクスの熱い体温が伝わる。


 「‥‥‥すき、だけど‥‥」

 「ふふっ、そうか、あっはは」

 「お、面白がってるでしょ‥‥」


キエリは意地が悪いと言いたそうな視線でフェリクスの方を睨む。


 「うん、キエリは面白い。それに、キエリとこんな風にまた会話できるのは嬉しいよ」


キエリは、少し胸がちくっと刺されたように痛みを感じた。


 四年間、キエリは夢の中を漂うように過ごしていたが、フェリクスもキエリの生死もわからず戦い続ける日々を過ごしていた。この離れていた四年間は、お互いにあまりにも長い時間だった。


 「フェリクス‥‥もうこれからは、ずっと一緒だから、いっぱい話をしよう。あとは、平和になったら一緒にどこかに遊びに行ってみたいな。また一緒に本を読むのもいいなぁ」

 「あぁ‥‥でもまず復興の忙しさでいっぱいいっぱいになるだろうな‥‥」

 「そうだね‥‥」


フェリクスは、キエリの首筋に顔を甘えるようにすり寄せた。キエリは、フェリクスが愛おしくて頬に口づけをした。


 「キエリ‥‥また明日からウルブスに向けて出発する」

 「うん‥‥」

 「次こそは、必ず魔獣の王を倒して、取り戻して見せる。どうか、俺の傍で支えてくれ」

 「もちろんよ、フェリクス‥‥」


キエリはくるりとからだを回して、フェリクスをしっかりと抱きしめた。


フェリクスもしっかりとキエリを抱きしめ返して、優しく頭を撫でた。

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