かなわない
アクイラは、人生で一番荒ぶっている最中だった。
憧れていた人物がまさか自分が毛嫌いしているやつと恋仲になるだなんて、この世の終わりなのかとさえ思えた。
アクイラは、いてもたってもいられず、訓練場で剣を乱暴に振っていた。
「くそっ! なんでっ! フェリクス様はっ! 魔獣なんぞと!」
「あの方は、俺たちの国を導く崇高な方なのに!!」
ただ、怒りにまかせてふるう剣は太刀筋が荒く、剣を当てる的にしていた藁を酷く傷つけた。
「ふん! くっ!?」
剣は、アクイラの手からすっぽ抜け空中を回った。
アクイラを通り越し、後ろの地面にざくっと刺さったかと思えば、ひゃ!?という女性の悲鳴が聞こえた。
アクイラがしまった!と思い後ろを振り向くと、アンナの足元にアクイラの剣が刺さっていた。
「す、すまない! 怪我はないか?」
アンナは、かなりむすっとしてアクイラを睨みつける。
いつものアンナよりもずっと目つきが鋭い。
ただでさえ虫の居所が悪そうなところに、火に油を注ぐ様なことをやってしまった。
「別に、すこし驚いただけ。なに? 荒れてんの?」
アクイラは、お前もそうとうだぞと言いたかったが、刺激するのはやめておいた。
「ただ、訓練に身が入りすぎただけだ」
「ふーん」
アンナは、アクイラがキエリともめてからアクイラに驚くほど冷たい態度をとっている。
初めは、普通に気さくに話しかけてくれたのだが、今は無表情だし、正直怖い。
アンナは、いきなり黙々と地面を掘りだし、何かを埋めている。
「何しているんだ?」
「あんたに教える義理はない」
「なんなんだよ、その態度! お前、変わりすぎだぞ!」
「これがあたしの普通よ。別にあんたとは数日の付き合いなんだから、わからなくて当然じゃない」
「はっ! そのわりには、同じ数日の付き合いのあの魔獣には随分と心を許してるじゃないか!」
アクイラは、つい心で思っていたことを嫌味な風に言ってしまった。
しまったと思ったが、時すでに遅しで、アンナはじとっとした目でアクイラを睨みつけていた。
アンナが急に立ち上がったため、また蹴りをいれられるのではと身構えたが、アンナは無視してまた他の場所の土をいじりだした。
「な、なんだ‥‥今度は蹴りをいれないのか?」
「蹴りをいれられるようなことを言ったという自覚はあるのね‥‥お望みなら、そこが機能しなくなるまで、蹴り倒してやるけど‥‥」
アクイラは、さぁっと血の気が引いて、後ずさりした。
(なんなんだこの女!? 怖すぎる!!)
アンナがふと、作業する手を止め、アクイラの方を見る。
「ねぇ、アクイラはどうして孤狼の儀に参加しないの?」
「それは‥‥」
「びびったの?」
「ちがっ‥‥‥いや、オレがフェリクス様に勝てないのはわかっている。わかっているから、参加を申し出なかった。それに‥‥」
「それに?」
「たとえ、万が一いいや億が一にオレが勝ったとしても、オレの望むものは手に入ることがないと思ったんだ‥‥」
(そうだ‥‥オレの考えが変わらないように、フェリクス様のお考えが変わることもない)
(オレにできることは、もう、何もない‥‥)
アンナは、アクイラが話している間、手を止めて、アクイラの方を向いていたが、今度は地面を見て固まってしまった。
そして、じっと何かを考え込む。
「望むもの‥‥か」
「あたしの望むもの‥‥もう、絶対に手に入らないのね」
アンナは、放心して地面を見つめているので、アクイラはどう声をかけていいかわからなくなった。
「とっ、とにかく‥‥そう、フェリクス様はお強いのだから、無茶だけはするなよ‥‥下手したら大怪我することになるぞ」
「はぁー、あなたって悪い人ではないのだけど、肝心なところがね‥‥」
アンナが深いため息とともに、残念そうにアクイラを見やると、あとはまた、アクイラが見えないかのように土を掘っては何かを埋めるのを無心で繰り返していた。
その後アクイラは、アンナに話しかけても反応が無いとわかると、少し寂しそうな顔をして、その場から立ち去った。




