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【完結】オオカミはフードを被る  作者: Nadi
オオカミはフードを脱ぎ捨てた

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69/99

目的

 もう、こそこそとする必要がなくなり、堂々とキエリとフェリクスは二人で隣を歩けるようになった。


婚姻の報告を終えた二人は、廊下を横並びで歩く。


だが、喜ぶべきこの状況も、キエリはアンナのことが心に引っかかって、上の空な状態だった。


 (アンナ‥‥どうして、あそこまで怒っているのかな?)

 (アンナと出会って余り経っていないけれど、彼女はわたしを気にかけてくれたり、守ろうとする‥‥)


 「キエリ」


キエリがハッとして横を向くと、フェリクスが心配そうにしている。


 「アンナのことを考えているのか?」


キエリは、眉が八の字になって、こくりと頷く。


 「彼女と出会って、日が浅いのだけれど、彼女、とてもわたしを大事にしてくれたの」

 「わたしは‥‥確かに彼女の命の恩人にあたるのだろうけど‥‥それでも‥‥」


フェリクスは、口に手をあてて考え込む。


そして「まさか、恋敵が女性で現れるとは、考えていなかった」と呟いた。


キエリは、一体何のことかと首を傾げる。


 フェリクスは、真剣な表情でキエリをまっすぐ見る。


 「キエリの友人でも、手を抜くわけにはいかない。いいだろうか」


キエリは、困ったように眉を寄せたが、ゆっくりと頷いた。


フェリクスも苦笑して、ありがとうとキエリの額に軽くキスをした。


 「ふふ、やっぱり公表してよかった。そうでないと、キエリにこうやって愛を伝えられない」


フェリクスは恥ずかしげもなく笑顔でそう言うので、キエリは、顔が真っ赤になってしまう。


 思えば、こうやって二人で過ごすのは城を出て以来だ。


今更、心臓がどきどきしてきてしまう。


 キエリと再会してからも、フェリクスはしばらく精神不安定で、愛の伝え方も正直無理やりだった。


今は穏やかで、お城で過ごしたあの日々のようだ。


 「わたしもこれでよかったと思う。これで、あなたに辛い選択をさせる必要がなくなったもの」

 「‥‥ごめん、キエリ。それに、ありがとう。俺が迷って自信を無くしていたせいで、たくさん迷惑をかけて、傷つけて‥‥それでも、俺の傍にいてくれて、本当にありがとう」

 「フェリクス‥‥わたしだって、勝手にひとりで抱え込んで、あなたを長い間苦しめていた。ごめんなさい。こんなわたしだけど、あなたの隣にいさせてね‥‥」

 「ああ、これからは、俺たち自身の手で、共にいられる居場所を作ろう」


フェリクスは、キエリに穏やかに微笑み、頷いた。


キエリは、フェリクスの笑った顔が大好きだと思った。



 「殿下ー!キエリさーん!」


よく通る元気な声が廊下に響いた。


二人が後ろを振り返ると声の主はやはりプエッラだった。


それに、その後ろにはあの魔獣のコルヌがプエッラにうっとりとした視線をあびせながら、ぴったりとついている。


 「プエッラさん」

 「よかった! いたいた」


 プエッラには、キエリとフェリクスの仲を隠すために嘘をついていた。その罪悪感がキエリにわいてくる。


 「プエッラさん、あの‥‥」

 「あーっ! ちょっと待ってっ謝ろうとしてる? だめだめだめ、謝らないで!」


プエッラは手をぶんぶんと前に振りながら、キエリの謝罪を止めさせた。


 「でも、嘘をついてしまいました‥‥」

 「そんなの、しょうがないじゃないもの! というか、あたし、ぜんぜん考えが足りてなくて、隠すのはトーゼンだよね‥‥恥ずかしい話、今日キエリさんと殿下がみんなから反対されたのを見て、やっと事態の重さに気付いたの‥‥」


プエッラは、申し訳なさそうにしながら、俯く。


 「秘密にしてなきゃ、大変なことになるのに、あたしったらキエリさんに詰め寄るように聞いてしまって‥‥ほんとにゴメンナサイ!」


プエッラは、勢いよく頭を下げた。


 「プエッラさん、顔を上げてください。プエッラさんが悪いことなんて、何もないですよ」

 「そうそう! 女王様の言うとおりダ! プエッラは悪い女じゃないさ!」


コルヌは、話の内容をわかっているのかわかっていないのか、プエッラを擁護する。


プエッラは、顔を上げ、コルヌをキッと睨みつけ、ぷんすかと怒り出す。


 「コルヌ! 絶対てきとうに言ってるでしょ! どっか行ったと思ったら、また帰ってくるし!」


コルヌは、豪快にハッハッハ!と笑う。


「プエッラは、動きが面白いな! さすが、おれの番になる人間だ!!」

 「誰がなるか!」


プエッラはさらにキーッと怒り出して、コルヌの胸を思い切り殴ったが、全く効いていないようだ。


 二人の痴話げんかをよそに、キエリは、コルヌの言葉に何かが引っかかった。


 「‥‥‥」

 「‥‥‥コルヌさん、さっき、わたしのことを女王と呼びました?」

 「あぁ! 呼んだぜ!」


キエリは頭を強く殴られたような衝撃が走った。


かつて、ドラゴンと話をしたことを思い出す。


 (もしかして‥‥もしかして‥‥わたしが、狙われたのって‥‥)


 「コルヌさん、女王とは、魔獣の王の番という意味ですか?」


コルヌが実に不思議そうに首を傾げた。


 「そうだが、それ以外に何があるというんだ? そうだ! 王があなたを待っているのにそういえば、なんでここにいるんだ?」


キエリは、頭を抱えてうなだれた。


プエッラもフェリクスもなんの話か分からず、眉をひそめている。


 「ちょっとコルヌ、どういうこと? キエリさんは、このフェリクス様の恋人よ? 魔獣の王って、なんの話をしているの?」


コルヌはうーんと考える。


 「なんの話しって‥‥我々の王の番はそこにいるキエリ様ってことだ。なんか変か?」

 「変よ!」


キエリは、顔を真っ青にしながら、コルヌに続けて質問する。


 「コルヌさん、もしかして、魔獣がわたしを狙って攫おうとしていたのは、その魔獣の王の番にするためだったんですか?」


コルヌは、少しむっとした。


 「そんな、攫うだなんてひと聞き悪いぜ! おれたちは、王のもとに迎えるためにあなたを探してたんダ!」

 「‥‥‥」


 (最初から、そのために狙っていたんだ。魔獣の王と面識はないし、ドラゴンのあの子も可能性があるくらいの気持ちで言っていたものだから、てっきりそんなことは起こるわけないと思っていたのに)

 (でも、むこうにはゼノがいる。ゼノがわたしのことを魔獣の王に伝えたの? でも、それでわたしの存在を知った?‥‥でも、何故わたしなの? わからない)


思考がぐるぐるとキエリの頭の中を回り、眩暈がした。


すかさず、フェリクスがふらつくキエリを支える。


 「キエリ、なにか思い当たることがあるのか? 説明してくれ」

 「正直、確実なことがわからない‥‥‥あのドラゴンのこと覚えてる?」


フェリクスは、こくりと頷く。


 「あの子に言われたの、わたしは魔獣の王の番になる可能性があるって」


フェリクスにとってその情報はかなり不愉快だったらしく、怖いくらい眉間にぐっと皺が寄る。


 「フェリクス‥‥顔」

 「‥‥ごめん‥‥それで?」

 「わたし、ドラゴンから話を聞いたとき、そんなことありえないと思ってた。魔獣の王と会ったこともないのに、そんな仲になるはずないでしょ?」

 「‥‥わたしが旅をしている時、魔獣たちがわたしを捕まえようと狙ってきていた。その時は、てっきり、労働力にするために捕えようとしていたんだと思っていた。昨日だって、ゼノが敵にまわっていて、それでわたしを迎え入れようとしていたのかと思ってた。けど、どれも違ったんだ‥‥」

 「わたしを魔獣の王の番にするために、捕まえようとしてたんだ‥‥」


話を聞き終わると、プエッラはえぇー!?と叫んで混乱していた。


一方、フェリクスはどんどん顔が険しくなり、目がすさんでいく。


それに気づいたキエリは、フェリクスの頬を両手で包んでほぐすようにさする。


 「魔獣の王の目的がわかってよかった‥‥大丈夫、わたしはあなたのものだから」

 「あぁ‥‥絶対に渡すものか‥‥」


熱く見つめ合う二人を見て、プエッラがひゃ~と言いながら、頬を赤く染める。


それを見てはいけない、けど、見たい!というように手で顔を覆いながら、指の隙間から見ていた。


ハッと、キエリとフェリクスがプエッラの視線に気づいて、さっと向き直り、咳払いする。


 「あの、なんか、お二人の時間を邪魔しちゃって、ゴメンナサイ」

 「んと‥‥失礼しました、プエッラさん」


キエリは、ずっとプエッラに夢中なコルヌにまた向き直る。


 「コルヌさん、どうして魔獣の王はわたしを番にしたいのですか?」

 「さぁ? おれにはわからないナ?」


プエッラばかり見ているが、コルヌはキエリが質問すると返答はくれる。


 「コルヌ、嘘ついてるんじゃないでしょうね?」


プエッラが疑いの目をコルヌに向ける。


 「本当さ! プエッラに誓って嘘ついてない!」

 「あたしに誓うの? 女神じゃない?そこは‥‥」


コルヌは本気で慌てていて、嘘をついていない様子だ。


キエリは、もうこれ以上それに関しての情報は得られそうにないと思った。


 「あ!」


プエッラが思い出したように、ポケットから紙を取り出して、フェリクスに渡した。


 「そういえばこれ、アンナから頼まれたんです‥‥もう、アンナってば、どういうつもりなのかな‥‥」


フェリクスが渡された手紙をみると、決闘の場所が書かれていた。


といっても、砦の裏にある訓練に使われた広場だ。


 「ありがとう、プエッラ」


プエッラはまた元気ににっこり笑って「あたしは、お二人はお似合いだと思いますよ!」と言いながら手を振って立ち去った。


しかしすぐに、コルヌにきーきー言い出したので、キエリとフェリクスは大変だなぁ、と困ったように笑って見送った。

プエッラちゃんは、素晴らしくいい子です。

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