決断
帰りしなに、キエリは走りながらフェリクスにこの問題のきっかけを問いただした。
「フェリクス、どうして、わたしの両親のこと知ったの?」
「‥‥昨日、窓辺に伝書鳥が来て、手紙を置いて行ったんだ。そこに書かれていた」
「きっとゼノだわ。ゼノとわたし以外にこのことは誰も知らないはずだもの‥‥」
「ゼノ殿か‥‥」
戦場ではキエリの心を揺さぶってきて、それをフェリクスが窘めたが、今度は自分がやられたのか、とフェリクスは反省した。
「フェリクス‥‥殴ったのは、ごめんなさい。ちゃんと後で治療するね‥‥」
「いや、いいよ。これは、しばらくこのまま残しとく」
「え? なんで?」
「残しとく」
キエリは、変なところで頑固だなぁ、なんて思った。
「キエリ、ありがとう‥‥おかげでなんだか、頭がすっきりした」
「キエリ、砦に戻ったらなんだが‥‥」
「なに?」
フェリクスの決意を聞いて、キエリは驚いてフェリクスを落としそうになったが、キエリは承諾した。
キエリがフェリクスを背に乗せて帰ると、ルナやマギ、ウンブラをはじめとした隊員たちがかなり心配していた。
キエリからフェリクスが降りると、マギが「いったい何があったんだ?」と問いただす。
「皆、心配をかけてすまなかった。ルナ、マギ、ウンブラ、話がある。来てくれないか」
そう言ってフェリクスは、部屋にみんなを移動させた。
全部説明するには、キエリの両親のことに触れてしまうと思って、フェリクスがキエリを見やると、キエリはもう全部話していいよ、と許可をだしてくれた。
フェリクスは、ゼノからの手紙で真実を知らされ、精神的にまいって森まで逃げ出してしまったこと、そこをキエリが立ち直らせてくれたこと、包み隠さず全て話した。
話しを聞いていたルナやマギ、ウンブラは驚愕で声を失っていた。
マギが驚きで目を見開きながら、フェリクスの頬を指さす。
「いろいろ言いてぇが、それで、情けなく泣いてたフェリクスをキエリさんがはったおしたのか?」
フェリクスは、何故か嬉しそうに、しかもぱっと明るく笑って、キエリにぶたれた頬をさする。
「あぁ! 好きなひとからこんな風に愛をぶつけられるとは、不思議と気分が晴れた。この傷がずっと残ってくれれば、記念になるんだがな」
キエリがぎょっとして、フェリクスを見る。
「ちょっと! そのために残したいって言ったの!?」
ルナはぐっと眉を寄せ、口に手をあて、考え込む。
「まさか、何年もの付き合いだったフェリクスにそんな思想があったとは‥‥これも、ひとつの愛の形なのか?」
「ルナさん! なんか違います! わたしはただ、フェリクスに怒っただけです!」
マギがもう笑うのを耐えられなくて、かっかっかと大笑いした。
「そうか、そうか、キエリさんはフェリクスに怒ってくれたのか」
「キエリさん、おりゃあ初め、魔獣のあんたが王子のフェリクスと本当にうまくいくのかと心配してたんだよ‥‥けど、違ったな、あんただったからうまくいくんだな‥‥」
「マ、マギさん‥‥」
キエリは、かぁっと恥ずかしさで頬が赤くなってしっぽを自分に巻き付ける。
フェリクスは、キエリの手を取って、穏やかに微笑む。
「あぁ、このひとでないと駄目なんだ」
「フェリクス‥‥」
フェリクスは、マギたちを見据えると淀みなく言い放つ。
「俺は、キエリとの関係をきちんと認めてもらえるように、ウィルトスの隊員全員に話そうと思う」
うーむ、とウンブラが難しそうな顔をする。
「私もキエリさんは殿下に必要な方だと思います。なので、賛成ですが、どうやって皆を納得させるおつもりで?」
「国法を盾に使おうと思う。あと、あの儀式も‥‥古いものだが、有効だからな。それでだめなら‥‥認めてくれるまで、足掻いてみるさ」
ウンブラはにっこりと笑って、うんうんと頷いた。
「こうして、若い者が愛を貫く! よいですなぁ‥‥」
ルナが恋愛話を聞いたときにほわっとするのは、まさかの父親譲りなのかもしれない。
「申し訳ないが、ウィルトスの隊員たち全員を玄関ホールに集めてくれないか?」
「もちろんですとも!」
「私も皆に伝えてきます!」
ウンブラとルナはうきうきしながら部屋から出ていった。
キエリは、正直これから反対の嵐が待っていると思うと緊張して背中からも手からも汗がにじみ出てきていたが、フェリクスが固く手を握ってくれて、賛成してくれる人がいてくれて、とても心強いと思えた。




