目を覚ます
フェリクスは、あてもなく、混乱して訳も分からず、とにかく歩いて、砦からも街からも離れた森の中で縮こまっていた。
歩いていた間、泣いていたらしく、目と鼻は赤く、ぐずぐずといっている。
「うぅ‥‥おぇ‥‥」
森で倒れてからは、ずっと吐き気に襲われていて、もう、腹の中には何もないはずなのに、再び吐いてしまう。
「はぁ‥‥はぁ‥‥うっ」
「俺のせいで‥‥キエリ‥‥」
「‥‥クスー‥‥」
遠くの方から、澄んだ声がフェリクスの耳に届く。
「フェリクスー!!」
(キエリ? キエリが俺を探しに来たのか? 駄目だ。もう、俺なんかのことは)
フェリクスは、立ち上がろうとするがうまくからだが動かないのか動きが鈍い。
のろのろと動いている間に、キエリがフェリクスを見つけた。
「あぁ、フェリクス! よかった」
キエリは、不思議な光をたどって、フェリクスのもとにたどり着いた。
『よかったね、あなたは大事なひとを大切にしてあげて』という声を最後に、光は空気に溶けていった。
キエリが人型に戻り、フェリクスに駆け寄ろうとすると、フェリクスが手を向け制止した。
「頼むキエリ、来ないでくれ!! お願いだから‥‥」
フェリクスの肩は震えていて、何かに怯えるように大きいからだを縮こませている。
「フェリクス‥‥もしかして、泣いているの? どうしたの? 何があったの?」
キエリは、何故フェリクスがこんな状態になっているかわからず、質問し続けることしかできない。
ただ、フェリクスが酷い状態であるのは周りに嘔吐したあとがあるのですぐに理解できた。
「フェリクス、帰りましょう? 体調が悪そうだわ‥‥ちゃんと診てもらわないと」
「どうして‥‥?」
「え?」
「どうして、君の両親を奪った原因である俺に優しくできるんだ!?」
「っ!!」
キエリは、頭の先からつま先まで一気に冷たくなった。
指先が震え、唇にまで震えが伝わる。
「どうして‥‥それを」
フェリクスは、混乱しているのか、キエリの問いには答えてくれなかった。
「俺は、君の父親の眼を食べて、今の今までのうのうと生きていたんだろう? 君が両親を奪われて、心にずっと悲しみを抱えてきたのに、その原因を作ったのが‥‥俺自身なんて‥‥!」
フェリクスにこのことがばれてしまうこと、それはキエリが恐れていたことだ。
しかし、もうばれてしまったのなら、取り繕うこともできない。
ゆっくりと息を吸い、吐く、そして、決意を込めてぐっと拳を握る。
「知ってしまったんだね‥‥」
キエリは、フェリクスが制止したが、かまわずフェリクスに近づいた。
フェリクスは、後ずさり、キエリから逃げようとするが、動きが遅いのでキエリはすぐにフェリクスの目の前を陣取った。
そして、フェリクスの両腕を掴み、目をまっすぐ見る。
フェリクスは、ずいぶん泣いたのか涙でぐしゃぐしゃの酷い顔をしている。
「フェリクス‥‥」
「キエリ‥‥もう、俺は耐えられそうにない‥‥いっそ、キエリの手で殺してくれ‥‥」
「‥‥っ!!」
キエリは、何かが切れてしまい、フェリクスの頬を力を込めて拳で殴った。
「聞きなさい! フェリクス・エピメディウム・レックス!!」
キエリの聞いたことがないほどの怒気を含んだ声に、フェリクスはやっとキエリの目を見た。
何が起こったかわかっていないようで、情けない表情だ。
「キエリ‥‥っ」
キエリは、ぐっとフェリクスの胸倉を掴む。
「わたしの両親はたしかにあなたの病気を治すための材料にするために殺されたわ。それに悩んで、あなたのことを愛していいのかわからなくて、だから四年前あなたのもとを去った。それは、事実よ」
「だったら‥‥」
「事実だけど‥‥それでも、わたしはあなたを愛さないなんてできなかった! あなたが生きてて嬉しかった! それも紛れもない事実なの!! だからっ、殺してなんて馬鹿なこと言わないでよ! お父さんの分もお母さんの分も足掻いてでも生きなさいよ!」
「わたしは‥‥わたしはあなたの隣で、一緒に幸せになるって決めたの! だから、ひとりで勝手に諦めるなんて絶対許さないんだから‥‥!」
キエリは、感情が高ぶりすぎて、我慢できずにぼろぼろと大きい瞳から涙がでては落ちを繰り返す。
「それなのにっ! それなのに、あなたは!」
キエリは、もう一発逆の頬に平手打ちをした。
しかし、怒ったせいで力が全部出しきってしまったのか、全く痛くない。
「もう! もうっ!!」
キエリは、それでも平手打ちをやめないで打ち続ける。
「あのっ、キエリ‥‥」
「うるさい!! 馬鹿! へたれ!」
「キエリ!」
フェリクスがキエリの両手を掴んで、止めさせた。
「キエリ、ごめん!」
キエリはキッとフェリクスを睨みつける。
「何によ!」
「情けないこと言った。キエリを独りにしてしまうところだった」
「そうよ! 二度とそんな馬鹿なこと言わないでよ!」
「‥‥本当に、いいのか? 憎くはないのか?」
フェリクスがまた情けない表情になって手の力が抜けいく。
キエリは、むっとしてまたフェリクスの胸倉を掴んだ。
また、フェリクスは平手打ちがくるのかとぐっと目をつむったが、キエリはそのままフェリクスを引き寄せ唇を重ねた。
勢いの強い口づけで、離れた時にはお互いに息がやっとでき、ぷはっと声が出てしまった。
キエリは、自分のしていることが恥ずかしくなっているのか、睨みながらも頬が赤く染まる。
フェリクスもキエリの行動にぽーっと惚けてしまっている。
「‥‥帰ろ」
「‥‥はい」
キエリは、オオカミ型になって、フェリクスに背に乗るように促した。
フェリクスはさすがに重いからいいよ、と遠慮したが、ひと睨みすると大人しく背に乗った。
確かに、キエリには少し重かった。




