心底に沈む
フェリクスは、戦いを終え、ひとり、部屋で武器の手入れをしていた。
ふと、窓から外の景色を眺める。
(キエリは、もう眠っただろうか? 緊急とは言え、思いきり叩いてしっまった‥‥ちゃんと腫れがひいてくれれば、いいのだが‥‥)
(キエリが戻ってきてほしいがために、あのアンナという娘にも酷い扱いをしてしまった。謝らねば‥‥‥)
(ソール‥‥ルナから生きていると言われたが、敵に操られている状態とは‥‥どうしたら、あいつを救えるんだ‥‥)
ひとりでいる時は思考が四方八方にどんどん巡っていく。
(キエリ‥‥キエリは、国を捨てるといっても俺についてきてくれると言ってくれた)
「次は、逃げたりしないだろうか‥‥」
わきあがってきた不安がつい口から漏れ出てしまった。
一度キエリは、何も言わずにフェリクスのもとから去っていってしまった。
しかも、キエリは、自らの意思でフェリクスのもとに戻らないという拒絶の姿勢をとっていた。
今は、一緒にまたいてくれると言っていたが、一度逃げられたという事実がフェリクスに不安を与えていた。
今度また逃げられでもしたら、フェリクスは正気を保てる自信がなかった。
(キエリの言葉が嘘だと思いたくはない‥‥けれど、どうして俺はこんなにも心が落ち着かないんだ)
心が乱れて、槍を持つ手に力がこもり、みしっという音が聞こえてきた。
「しまった‥‥駄目にするところだった」
フェリクスは、我に返ったが心の淀みは消えないままだった。
(そもそも、何故キエリは俺のもとから去ってしまったんだ? 俺は悪くないと言っていたが、やはり、俺がキエリに何かしたんじゃないのか? よほどのことでなければ、キエリがあのようなことをするとは思えない)
だが、考えれば考えるほど、全て悪かったのかと思えてくる。
「駄目だ‥‥思考が暗くなっていく‥‥キエリはちゃんと俺のもとに今いるじゃないか。それでいい、それで‥‥」
コンコンコン‥‥
何かが窓を叩く音がして、窓を見る。
窓の外には、ここらでは見かけないような、真っ黒な鳥がいた。その足首には手紙が括りつけられている。
(どこからの手紙だ? こんな鳥を使う部隊はないはずだが)
警戒しながら窓を開ける。鳥は大人しく、手紙をとられるのを待っている。
フェリクスは、鳥から手紙を受け取ると、鳥はそのまま空に飛び去って行ってしまった。
どうやら、この手紙の主は一方的に手紙を送り付けたかったようだ。
フェリクスは、手紙を開き、目を通す。
「‥‥‥」
「‥‥‥っ!!」
「うそだっ‥‥うそだこんなの‥‥」
フェリクスの声は震え、顔から血の気が引いて絶望で眩暈がして、世界がぐらりとねじれる。
「あぁ‥‥だから‥‥だから、キエリは‥‥」
「俺は‥‥はぁ‥‥っうく」
フェリクスはふらふらとした足取りで部屋をでた。
そして、そのまま暗闇へと歩みを進めていってしまった。
キエリたちの朝は早く、湯浴みに行って、朝ご飯を食べる。
朝ご飯は、アンナがウィルトスの隊員たちと同じところで食べてたら、またアクイラのような奴に絡まれるだろうからと朝食をキエリの分も持ってきてくれてて、一緒に部屋で食べていた。
すると、勢いよく部屋の扉が開けられ、ルナが駆け込んできた。
息を切らしていて、かなり急いで走ってきたようだった。
「キエリさんっ!‥‥殿下を知りませんか!?」
キエリの食事する手がとまる。
「何か、あったんですか?」
「殿下が‥‥フェリクスが居なくなったんです。砦のどこにもいなくて」
キエリは、ルナの言葉を聞いたとたんに、即座に部屋から出て、廊下に飛び出した。
後ろから、アンナの呼ぶ声が聞こえたが、かまってられなかった。
もう一度確かめようと砦の中を駆け回る。
(フェリクス! どこに行ったの!? まさか、敵襲にでもあったの!? フェリクス!!)
キエリは、本当に砦のどこにもいないとわかると、早く走れるオオカミ型になって外に飛び出した。
(どうしよう‥‥! どこにいるかわからないっ、フェリクス! フェリクス!!)
『大事なひとを探してるの?』
突然、安心する、どこか懐かしい声がどこからともなく聞こえてきた。
周りを見ても、誰もいない。
「誰? 誰なの?」
キエリの足に淡い桃色の花が触れた。
『あっち‥‥あっちよ‥‥』
淡い色の花から光が溢れ出て、空中に舞う。
そして、キエリを導くようにふわふわと漂い出した。
キエリは、一体この光が何なのか全くわからなかったが、他にすがるものがないので、とにかくその光を追った。
(お願いっ、そこにいてフェリクスっ!)




