恋バナ?
魔獣コルヌとの出会いをプエッラは、絶望した表情で語った。
アンナは、へぇー、よかったですね!なんて他人事のように言って、何故かルナは、きらきらした眼差しで話をふんふんと聞いていた。
キエリは、プエッラの苦労を想像して、困ったように笑いながら、話を聞いていた。
プエッラがしゅんとして、小さいため息がでる。
「まさか、戦場でそんなことが起こるなんて思ってなかった‥‥なんかもう、あいつも何食わぬ顔してウィルトスにいるし! もう、どうすればいいの!?」
アンナがきょとんとしながら、首を傾げる。
「何が駄目なんですか? いいひとそうでしたよ?」
プエッラはぎょっとしてアンナを見る。
「いやいやいやっ、敵だった奴が剣で切りつけたら、惚れた! だよ。どう考えてもあいつ変態じゃん!」
ルナがぽーっとしながら、独り言のように呟く。
「こうやって、ひとつの恋が始まるのだな‥‥」
プエッラはさらにぎょっとしてルナを見る。
「え? ちょっとルナさん!? ほわっとしてるとこすみませんが違いますよ! 始まってませんからね!」
プエッラは、うぅぅと力なく肩を落として、落胆する。
「あたしは、あんな愚直な感じな奴じゃなくて、もっとこう、キリっとした‥‥そうっ! そうだった!」
何かを思い出したプエッラがキエリをじっと見つめる。
「キエリさんって噂通り、フェリクス様の恋人なの?」
疲れもあり、柔らかい雰囲気に完全に油断していたキエリは、ドキッとしてしっぽと耳がぐっと立ち上がった。
プエッラの大きな瞳を見ていられず、視線が空中の何もない場所にふらふらと移る。
隣に座るルナも嘘がつけないのか視線が泳いで、さらに顔がそっぽを向く。
「ち、がいますよ‥‥」
プエッラは、心底驚いたようにキエリを見ている。
「うそ!? ゼッタイそうだと思ってたのに‥‥だって、フェリクス様が大事にしているネックレスの石、キエリさんの瞳にそっくりなんだもの。一回だけ、そのネックレスを‥‥なんていうのかな、愛おしそうに眺めてるの見たことあって」
キエリは、顔が真っ赤になって、あわあわしながら、しっぽをぐるりと腰にまわした。
(気が緩んでる! おさまれ! 取り繕わないと)
「ほら! やっぱり! ね、恋人なんでしょ? ね!」
アンナが詰め寄るプエッラに不機嫌そうに割って入る。
「プエッラさん、そんなわけないですよ。だって、恋人だったらあんな風にキエリさんを捕まえたりしませんよ」
「キエリさんをあんな風に脅すなんて、あり得ない!」
アンナは、フェリクスに対し良い印象を持っていないようだ。初対面であんな扱いを受けたのだから無理もない。
プエッラは、キエリがどのように捕まったまでは知らないので、アンナの言葉に興味を示す。
「え? なになに? 何があったの!?」
アンナは、その時のことを思い出して、腕を組んで苦々しく顔をしかめる。
「あの人、あたしのことを荷物の様に運んで、挙句の果てにキエリさんを捕まえるために、脅す道具に使ったんですよ! キエリさんに、ウィルトスに来ないとあたしの首をへし折るって言って!!」
「あんな人間初めて出会いました‥‥」
プエッラは驚いて、えぇー!?と大声が出てしまった。
キエリは、巻き込んでしまって申し訳なくて、顔が上げられない。
ルナもその場にいなかったので、目を丸くして驚いている。
「アンナ、本当に巻き込んでしまってごめんなさい」
もう、謝らずにはいられなくてキエリが頭を下げた。
アンナは、キエリが何故謝っているのかわからず、慌てだした。
「え? え? なんで、キエリさんが謝るんですか? だって、やったのはあの大男じゃないですか!」
アンナは、よっぽどフェリクスのことが嫌いなのか、恐れもせず、フェリクスのことを大男呼ばわりする。
プエッラがさすがにアンナの言い方を咎める。
「ちょっとアンナ、フェリクス様を大男呼びなんてしてたら、罰を受けるわよ!」
アンナは、よほど怒っているのか、プエッラの注意に耳をかさない。
「大男呼びでも足りないくらいよ! 本当だったら、もっと罵倒する言葉を用意してるけど、そしたらキエリさんの耳が汚れるから、我慢してるの!」
キエリは、怒りでより頑固になっているアンナにどういえばいいか迷った。
「アンナ、わたしはそんなことでアンナに罰を受けてほしくはないから、人前ではやめておこう?」
アンナは、しゅんとしながら、渋々わかりました、と承諾した。
プエッラとルナはアンナが折れたことに、ほっと息を吐いた。
アンナがキエリの言うことは大人しく聞いてくれるので、プエッラはアンナがちょっと主人に怒られる猛犬に見えた。
「それで、話は戻るんですけど、ほんとにキエリさんは恋人ではないんですね?」
プエッラがまだ諦めていなかったようで、キエリはまたドキッとしたが、今度は顔に出ないようにした。
軽く受け流すように、笑う。
「ちがいますって、だって、わたしは魔獣ですよ? 殿下とそんな仲に、なれないですよ」
プエッラは、うーんと唸ってまだ納得はしていないようだった。
そして、ぴこん!と何か思いついたようで、人差し指をぴんと立てる。
「やっぱりおかしいですよ! そもそも、なんでフェリクス様は魔獣のキエリさんを捕まえたんですか? その‥‥普通だったら有無を言わさず、倒しちゃうのに」
「それに、フェリクスとそれにルナさんも、キエリさんが捕まる前からキエリさんのこと絶対知ってましたよね? それに、他にもちらほらとキエリさんのことを知っている人達がいるような‥‥」
キエリは、ふとソールに質問攻めにされた時のことを思い出してしまった。
このままでは、もっと質問が出てきそうなので、いっそ話してみることにした。
ただし、もちろん大事な部分は話さないでおく。
「うーん‥‥わたしの負けです。わかりました。どうして、わたしと殿下、それにルナさんと知り合ったのか、お話ししますね」
キエリは、ちらりとルナを見ると、ルナもしょうがないですね、と言って困ったように笑った。
プエッラとこれまた初耳なアンナは目を見開いて興味津々というような表情になる。
「たしかに、わたしはルナさんや殿下たちと一緒に時を過ごしたこともありました。でも、その時は、わたしは魔獣ということは魔法で姿を変えて、隠していましたよ」
「えぇ! そんなことできるの!?」
プエッラは、大げさなくらいリアクションが大きいが、アンナは息をのむように静かに驚いていた。
キエリは、自然と微笑んで、こくりと頷いた。
(このまま話をわたし自身を中心にして、フェリクスとの仲はなるべく避けよう‥‥)
「わたしは、魔物ということを隠しながら、十数年、人間と一緒に生きてきました」
「ひとりで‥‥ですか?」
アンナは、人間と共に生きてきた、と言ったのにも関わらず、ひとりでと尋ねてきた。このひとりで、は誰にも本当のことを言えずに孤独だったのか、という意味なのだろう。
アンナは、もしかしたらキエリに対してだけかもしれないが、いろいろ考えを巡らせてくれる。
キエリは、ゆっくり首を横に振って、安心させるように穏やかに微笑む。
「わたしには、人間の育ての親がいたから‥‥わたしは、幸せだったよ」
(そう、ゼノと過ごした日々は、幸せだったんだ‥‥でも、わたしは、ゼノを苦しめてしまった。今だって‥‥)
(ゼノを止めないと。これ以上、ゼノにあんなことしてほしくない)
「そう、ですか」
キエリが幸せだったというのを聞いて安心したのか、アンナは胸をなでおろす。
「それで、どうやって皆さんは出会ったんですか!?」
プエッラがキエリの話を子供が物語を親にねだるように目を輝かせながら促した。
「たまたま、わたしが住んでいた村に殿下たちが魔獣狩りで立ち寄って、それで‥‥‥わたしと育ての親は、魔獣の研究をしていたので、王都で研究をしないかと誘われたんです。それで、しばらく城で魔獣の研究していました」
だいぶ省略したが、実際そうである。
冒険譚や壮大な物語を期待していたプエッラには悪いが省略しなければ、ぼろがでる。
それでも、プエッラとアンナには新しい情報が多かったのか、ぽーっと考えに耽っている。
じっと耳を傾けていたルナも懐かしさがこみあげてきているのか、ぽつりと呟いた。
「あれから、五年も経ったんですね‥‥」
キエリも懐かしいあの頃を思い出す。大変なことだらけだったが、やはり、大事な思い出だ。
「本当に‥‥ふふ、また国が平和になったら、ルナさんと一緒に甘いものめぐりしたいです」
ルナも穏やかに微笑んだ。
平和になった時が来たら‥‥王都には近づいてはいるが、まだ終わりは見えない。
「あたしもいきたいです! というか、みんなで行きましょうよ!!」
プエッラが元気よくこぶしを振り上げて、甘いものめぐりに行くことを宣言した。
アンナもうきうきした様子で、その約束が果たされることを楽しみにしている。
いつのまにか、話が甘いものだったり、平和になったらこんなことしたい、あんなことしたいという話に移ってくれて、キエリとルナは普通にプエッラたちとの会話を楽しんだ。
結局、疲れもあって、キエリたちはすぐに眠りについてしまった。




