女子会
キエリ、アンナ、プエッラ、そしてキエリの様子を見に来たルナも捕まって、四人は湯浴みも終えて、寝る準備を万全にして、女性専用にと振り分けられた部屋に集まった。
寝台は一部屋に二つしかないが、二つの寝台をくっつけて特大寝台にし、みんなで輪になって座る。
「ほんと、ルナさんのお父様がわかる人でよかった! おかげで湯浴みも部屋も男の侵入を気にしないでいられます!」
ルナの父、ウンブラが目を光らせているおかげで、ほとんど女性がいないウィルトスでも、男性と女性で湯浴みを分けたり、鍵付きの部屋が割り当てられたり、女性が心安らげるように配慮がされている。
ルナは、少し照れたように俯く。
「いや、何というか、父上は少し過保護なところがあって‥‥」
「いいじゃないですか! あたしのパパ…あ、父なんて、酷いんですよ! あたしに小さい頃から兄たちと同じ訓練を受けさせて‥‥あぁ、もう!」
プエッラは、家での出来事思い出しているのか、拳に力を入れてぷんすかと怒っている。
キエリは、そんなプエッラが少し面白くて微笑む。
「でも、いいじゃないですか。プエッラさんが生き残れたのもそういう積み重ねがあったからかもしれないですよ」
プエッラの拳から力が抜け、不服そうにはしているが、図星のようでこくりと頷く。
「そう、なんですよね‥‥今回も大変だったけど、こうやって生きてるのは、やっぱり父の訓練のおかげなんですよね」
「はぁーあ、父や兄たちが病気でなければ、あたしがこうやって参加することもなかったのになぁ‥‥」
アンナがしゅんとしてプエッラを見る。
「ご家族が病気なんですか?」
プエッラは、慌てて手をぶんぶんと横に振る。
「あっ、病気というか、食べ物があたったんですよ!そのせいで、参戦が遅れているんです!ぜんぜん深刻じゃないです!」
アンナは、ほっとして胸をなでおろした。
元気なプエッラを見て、ルナがふふっと笑った。
キエリは、そんなルナを見て、少しほっとした。
(ルナさん、少し元気が出てる。たとえあんな状況でも、ソールさんが生きててくれて嬉しかったんだ)
「そうだ、プエッラさん。あの魔獣とはどうして、あんな仲になったんですか?」
プエッラは、一気に血の気が引いて、あああぁ、と言いながら、後ろに倒れて、寝台に悶えてごろごろと寝転がった。
ぐんっと再び起き上がり、慌てて訂正を始める。
「ちっ、ちがうんです! あたしは普通に戦ってたんですよ! そしたら、鳥の魔獣に混じってあいつも降ってきて‥‥‥」
プエッラは、魔獣襲撃の戦闘時、アクイラや他の隊員たちと共に魔獣に応戦していた。
「うりゃああああああ!」
プエッラは、斧を魔獣に振り下ろし、次々魔獣の肉と骨を裂く。
「次じゃあああ!」
他の魔獣にも斧を振り下ろすが、今度は素早くかわされ、斧は地面を傷つけた。
(次の二撃目、三撃目!)
プエッラは、斧を軸にからだをしならせ、魔獣に蹴りを入れた。
よろめく魔獣にアクイラが弓矢でとどめをさした。
「ありがと、アクイラ!」
「あまり無茶するなよ、いいな!」
「はいはーい、さ、つぎつぎ!」
プエッラとアクイラは次々と魔獣を地面に落としていく。
すると「だぁーーーーーッ!?」という叫びと共に、何か大きなものが空から落ちてきた。
ドゴォン!という衝撃がし、土煙が辺りにまっているせいで何が落ちてきたのかは、わからなかった。
「なに?なんなの!?」
「プエッラ、何であれ油断するなよ!」
「わかってるし!」
土煙がおさまると、その姿が良く見えてくる。
屈強な男性のようだが、その額には相手を貫けそうな鋭い角を持ち、明らかに人間ではない。
それだけわかれば十分なので、アクイラは、矢をその魔獣に向けて放った。
しかし、アクイラの矢は間違いなく魔獣の胸に命中したはずなのだが、なんと矢の方が、ばきっと音をたてて折れてしまった。
魔獣が何かした様子はない。虫にでも刺されたかのように、矢が当たったところをぽりぽりとかいていた。
『なぁーんだここ? 寝てたはずなのに、おれはどこに来ちまったんだ?』
魔獣は、きょろきょろと辺りを見渡している。
プエッラとアクイラは、弓矢が効かないとわかると、すぐに切り替えて、アクイラが剣を取り出す。
二人は一気に走って魔獣との距離を詰め、二方向からの攻撃をしかける。
振り下ろした斧と突き刺した剣は、魔獣にいとも簡単に素手で止められてしまった。
「はっはー? さてはおまえら人間だな? おれにそんな攻撃は効かないゼ!」
「おらぁ! 二撃目!!」
プエッラが斧を軸にからだを回転させた勢いで魔獣の顔に、アクイラが掴まれた剣を引くように勢いをつけて魔獣の足に、同時に蹴りを入れた。
「っつ!」
しかし、痛みが走ったのは、むしろプエッラとアクイラの方であった。
魔獣に蹴りがばっちり入っているのだが、魔獣は微動だにしない。
アクイラは、まさかここまで硬いとは思わず、一旦距離をとろうと、もう掴まれている剣を諦め、魔獣から離れた。
しかし、プエッラはまだ魔獣から離れておらず、腰に常備してある短剣を取り出した。
「らぁあ! 三撃目!!」
プエッラは、魔獣の肩に片手をつき、力の限り短剣を魔獣の首筋に突き立てた。
プエッラが突き立てた剣は、ほんの少しだけ魔獣の肉を裂き、赤い血が一滴垂れた。
(やばっ、こっから考えてなかった!)
プエッラは、バランスが崩れ、地面に背中から落ちそうになったが、魔獣が、がっしりとプエッラを支えて、プエッラは地面に落ちることはなかった。
(殺られる!)
プエッラは、ぐっと目をつむり、死を覚悟した。
「‥‥‥?」
しかし、一向に魔獣からの攻撃はない。
恐る恐る、プエッラは片眼を開いた。
やはり、屈強な魔獣は、プエッラを支えながら、こちらをじっと見つめている。
「‥‥‥れた」
「は?」
「惚れた!!」
「はぁーー!?」
魔獣は、屈強で馬鹿みたいに力が強そうな割に、プエッラを優しく立ち上がらせた。
そして、跪いて、情熱的にまっすぐプエッラを見つめる。
「素晴らしい闘争心! 諦めない心! 好きダ!」
「おれは、コルヌ! あんたに惚れた! 番になってくれ!!」
「はぁーーーーーー!??」
コルヌと名乗る魔獣はうっとりとプエッラを見つめるが、プエッラはかなり顔が歪んでいる。
それから魔獣コルヌは、完全に人間のプエッラの味方となって、一緒に戦っていた。
アクイラは、何故魔獣と戦っているはずなのに、魔獣の味方を増やすんだ!とプエッラに文句を言っていたが、そんなことはプエッラ自身が言いたかった。
しかも、プエッラの隣で戦いながらコルヌが「名前はなんていうんダ?」だの、「何食べるのが好き?」だの、「子どもは何にんほしい?」だのきいてきたので、プエッラの怒りは頂点を通り越し、呆れ果てていた。
コルヌは、戦いが終わった後もしつこいくらいべったりとプエッラの後ろをついてきたので、うっとうしいからどっか行ってくれない!?キッと睨みつけて怒ると、そうだな、離れて愛を育む時間も必要だナ!とふざけたことを言いながらにこにこと笑って、やっとプエッラから離れた。




