遠くとも
「あっ、キエリさん、こっち!」
しんみりしている戦いの後でも元気な声でキエリを呼んだのは、プエッラだった。
そして、その隣には、かなり存在感の強い筋肉質な屈強な男性が立っている。
しかも、彼の額には一本の立派な角が生えており、耳は人間の耳ではなく馬のようで、生えているしっぽも馬のものに近い。
明らかに人間ではない。
「あの‥‥そのひとって‥‥」
プエッラは、肩を落とし、絶望するように頭を抱えながら、大きなため息をついた。
「‥‥‥なんか、変なのに懐かれちゃって‥‥あぁ、もうどう説明すればいいのか」
屈強な魔獣はニカッと眩しいほどの笑顔をプエッラに向けた。
「ハッハッハッハ! プエッラは不思議なことを言うなぁ。おれは、変なのじゃなくて、きみの番になるコルヌ、サ!」
プエッラは、ぬああああああ!という叫びと共に顔を覆って、座り込んで悶えだした。
キエリは、話に完全においていかれて、ぽかんとしている。
プエッラの動きがぴたっと止まり、はっと何かを思い出し、さっと立ってキエリに向き直る。
「そうだ! こいつはどうでもいいから! 女の子が怪我してるから治療してほしいの!」
キエリが指さした先には隅でおやま座りしているアンナがいた。
「アンナ! 怪我をしたの!? 見せて」
キエリがアンナの前に座ると、アンナはおずおずと手を差し出した。
魔法の使い過ぎで、手が痛々しくただれていた。魔力をうまく調整できないときに起こる症状だ。
「アンナ‥‥痛かったでしょう? すぐに治すから」
しかし、アンナはすぐに手を引っ込めてしまった。
キエリがアンナの顔を見るとアンナの視線はキエリの頬に注がれていた。
「キエリさん、その頬はどうしたんですか?」
プエッラは、魔獣のコルヌに気をとられて全く気付いていなかったらしく、キエリの顔を覗き込み、叫び声をあげる。
「きいゃああああ! き、キエリさん! せっかくの可愛い顔に! かおに!」
キエリは、慌てて大丈夫といってプエッラを落ち着かせる。
「わたしの怪我は後で薬で治しますから、大丈夫ですよ」
「え? 魔法でささっと治せないんですか?」
「他人の怪我を治すのはできますが、自分に魔法を使っても魔力がぐるぐるからだの中を巡るだけで、わたしにはできないんです‥‥ゼノなら、できるだろうけど‥‥‥」
言葉の端は声が小さくなった。
ゼノのことを思い出し、生きていて嬉しいのと、恐ろしいことに手を染めてしまっていること、しかも、それは自分と関わってしまったが故の選択であったと思うと、息が止まりそうになる。
「キエリさん?」
アンナが眉を曇らせ、心配そうに見つめている。
「ごめんなさい、大丈夫。手をかして‥‥」
(‥‥フェリクスにも言われたのに‥‥しっかりしないと)
キエリは、アンナの両手をとって魔力を込める。
キエリの美しい光の魔力がアンナの掌にあたると、アンナの手から痛々しい怪我は、まるでなかったかのようにすっかり消えてしまった。
アンナがくるくると掌と甲を回し見て、ほわぁーと感激の声をもらしている。
プエッラもアンナの手を見て、すっごーと感心している。
(よかった‥‥もう、わたしも限界になってきた‥‥少し、休まないと)
人間の多いこの場所ではゆっくり休むことができないので、休める場所を探そうとすこしふらつきながら、キエリは立ち上がった。
アンナがふらつくキエリを支えようと立ち上がったが、大丈夫だよ、と言ってひとりで歩き出そうとする。
(あ‥‥)
キエリが遠くから向けられる視線に気づいて、そちらの方をちらりと見る。
フェリクスがキエリを心配そうに見ていた。
(フェリクスを心配させてしまってる‥‥)
キエリは、アンナの方を見て「ごめんなさい、やっぱり支えてもらえるかな?」とお願いすると、頼られるのが嬉しいのかにっこりと笑顔になって、「もちろんです!」とキエリを支えた。
キエリとフェリクスの視線が重なったのは、遠く、一瞬だったが、フェリクスの近くにいたアクイラとキエリの近くにいたプエッラ、そして、キエリのことをよく見ているアンナは気づいていた。
(どこで休めばいいかな‥‥外でも、オオカミ型なら寒いけど、耐えられるから、どこか探して‥‥)
キエリがどこか邪魔にならないところで休もうと、アンナに支えてもらいながらとりあえず歩いているところに、プエッラに手をぐっと掴まれて、歩みが止めさせられた。
「キエリさんっ!」
プエッラが切羽詰まった表情でぐいっと顔を寄せる。
「女子会!しましょう!!」
「??」




