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【完結】オオカミはフードを被る  作者: Nadi
オオカミはフードを脱ぎ捨てた

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迎え

 マギ、ウンブラ、ルナ、そしてウィルトスの魔法使いたちは、丸く透き通った大きな石を前にして悩んでいた。


石を魔力を通して調べていたひとりの魔法使いが口を開く。


 「やはり、これは魔道具ですね。魔法に反応しています。ただ、初めて見るもので、どういった用途で使われるかは、まだわかりません」


ルナが石を覗き込む。


石は、不思議そうにするルナの顔を反射して写すだけだった。


 「魔道具ということは、ただの石ではないですよね‥‥魔獣が使っていたものだったら、キエリさんなら何かわかるかもしれません」


マギが頷いて「キエリさんを呼んでくるか」と言って部屋から出ていこうとした。


ルナは、マギがキエリは今どこにいるかなんて知らないだろうと呼び止めたが、マギは見当はつく、と言って部屋から出ていった。


 マギがキエリを連れてくる間に、なにも反応のなかった石が突然光り出した。


 「!!」


その場にいた全員が息をのんだ。何が起こるかわからないので、腰につけている剣に手をかける。


 『‥‥トント!! アンタ、また定期連絡怠ったわね! ってか、さっきから何してんの? 変な魔力送ってきて』


石から男性の声が聞こえてきた。


声は聞こえてくるが何を言っているかはウンブラや魔法使いたちにはわからなかった。


ただ、キエリから魔獣の言葉を教えてもらっていたルナが、ほんの少しだけ聞き取ることができた。


小声でウンブラに内容を伝える。


 (父上、魔獣の言葉です。全てはわかりませんが、何をしているんだ? と尋ねているようです。)


 ウンブラは、自分の娘が何故魔獣の言葉を何故理解できるのか、と一瞬混乱しそうになったが、キエリと仲が良かったのだから、ルナも本当はキエリの正体をもともと知っていたのだろうと考えた。


そのため、キエリから魔獣の言葉を教えてもらっていた可能性は考えられる。


 もしかしたら、実はキエリの正体を知っている人間は複数人いるとも考えられたが、今はその考えを横に置いた。


 (‥‥そうか、ルナ、お前は何か話すことはできるか?)


ルナが首を横に振った。


 (問題なく会話することはできません)


 『トント?‥‥‥』


返事のないことに石から聞こえる声は不審がったようで、少し黙った。


すると「ねぇ、そこにいるのは誰?」という人間の言葉で話しかけてきた。


 「人間の言葉‥‥!?」


魔法使いが人間の言葉が聞けたので、つい大声で反応してしまった。


ウンブラとルナがしまったという顔をして魔法使いを見る。


魔法使いも自分がしてしまった発言がまずいことに気付き、あっと口を塞ぐ。


 「アハッ、やっぱり人間がいるのね。ってことは、トント‥‥そこにいた魔獣はアンタたちにやられたのね」

 「‥‥」


 気付かれるのは時間の問題でしかなかったが、こうなってはできるだけ情報を相手から上手く引き出す方に考えを変えたほうが良い。


ウンブラが石を通して話しかける魔獣と対話の姿勢をとる。


 「私は、ウンブラと申す。そなたの名を聞いてもよいだろうか?」

 「あら、渋いお声、けっこうスキよ♡アタシはアーラ。素敵な名前でしょ?」


魔獣は、男性の声だが、不思議な口調をしており、意外と好意的に話しかけてきた。


話している分には、人間と変わりがない。


 「それで、砦ひとつ落としちゃうのだから、アナタたちって、ウィルトスっていう人間の群れなんでしょ?」

 「‥‥そうだ。そういうアーラ殿は、ここにいた魔獣は、そなたの部下か?」

 「んま、そんなとこね」


相手は好意的な声色だが、言葉少なで答える。


 部屋の扉がノックされた。


マギがキエリを連れて戻ってきたのだ。


ルナがそっと扉を開け、今の状況を二人に伝えた。


 ウンブラは、相手が本当のことを言うかどうかわからないが、まずこの国にとって重要なことを確かめたかった。


しかし、直球にきいてもはじかれる可能性がある。


 「アーラ殿、こんな人間と魔獣が話し合えるのは、またとない機会ですな? 人間の言葉は何故話せるのでしょう?」

 「そうね。ほんと、人間の言葉って変な感じだわ。でも、魔法ですぐだったわ。副作用が酷かったけど」

 「それは初耳ですな。魔法で言葉を習得しているとは‥‥」

 「人間も同じ言葉を話してくれたら、こんな苦労しなくてすんだんだけど‥‥というか」

 「もうまだろっこしい世間話なんてしなくていいわよ。ききたいことがあるならきいてちょうだい。いじらしくも、もがく人間にご褒美よ。答えてあげる」


ウンブラは顔をしかめて髭をさする。言葉の印象からすると、この魔獣は人間を下に見ているようだ。


 「では、遠慮なく質問させてもらおう」

 「まず、この国の王と王妃は無事だろうか?」


 話しを静かにきいていたキエリの心臓が跳ね上がり、額から冷や汗がつたう。


王と王妃はフェリクスの父と母であり、キエリからしてみれば複雑なのだが、一年一緒に過ごして、とてもよくしてもらったのは、紛れもない事実で、無事でいてほしいと願っていた。


 「死んだわ」

 「‥‥!!」

 (キエリさんっ)


キエリは、魔獣の言葉を聞いた瞬間、こうなることも心構えをしていたはずが、現実を突きつけられ、眩暈がし、ふらついた。


傍にいたルナがキエリを支えた。


フェリクスと幼馴染であるルナも王と王妃と他人のような関係ではなかったはずだ。


それでも、しっかりと意識を保っている。


 (ごめんなさい、大丈夫です)

 (無理しないでくださいね)


 ウンブラは静かにそうか、と言って、感傷に浸る間もなく、次の質問をする。


 「何故、魔獣たちは我々の国を襲ったのだ? そなたたちの目的は何なのだ?」

 「ふーん‥‥アタシ達というと語弊があるし、それに目的のためなんて言葉選びは不適切ね。アナタたちの国が消えてしまったのは、必然なの」

 「必然ですと‥‥?」

 「そうよ。全ての人間はいずれあの方にひれ伏すのだから、アナタたちの国が一番初めだったというだけよ」


気を取り直したキエリは「あの方」というのに思い当たるものがあり、ウンブラに手振りで話してもいいか?ときくと、ウンブラが頷いてくれたので、キエリは石の向こうにいるアーラに話すかける。


 「初めまして、キエリと申します。あの方というのは、魔獣の王ですか?」

 「‥‥っ!?」


なぜかアーラの息をのむ声が聞こえ、返答しない。


 (‥‥? 急に黙り込んだ。まさか、王に関する質問は踏み込んではいけなかった?)


キエリは、眉をひそめて返答のない石を見つめた。


すると突然「アハハハハハッ!そんなとこにいたのね!」とアーラが笑い出した。


キエリは、アーラが突然どうしたのかと訳が分からず、後ずさりする。


 『迎えを出しますから、待っててね♡キエリ様』


キエリの背筋に悪寒が走った。


 (どういうこと? わたしを迎えに?)


魔獣は、通信を切ったようで、石はうんともすんとも言わなくなった。


動揺して目が揺らいでいるキエリに、ルナがそっと肩に触れる。


 「キエリさん、先ほどの魔獣は最後になんと?」

 「わたしに迎えをよこすと‥‥」

 「どういうことですか?」


 キエリは、魔獣がキエリのことを捕えようとしていたことを思い出す。


しかし、何故捕えようとしていたのかまではわからず、人間や魔獣なんかがいれば、労働力になるから、と捕まえるよう指示をだされているかと考えていた。


それが、まさか、自分を狙っているとは思っていなかった。


キエリは、明確な回答がわからず、ルナの問に首を横に振るしかなかった。


 マギとウンブラの顔は険しい。


アーラがキエリに迎えをよこすということは、使者を送るというのも考えられなくもないが、今までの好戦的な魔獣の軍の態度を考えると、そんな優しいものではないだろう。


 「マギ殿、至急襲撃に備えるましょう。それと皆さん、王と王妃のことはどうぞ内密にお願いします」


 王と王妃の安否の情報を今流してしまえば、隊員たちに影響しかねない。


特に、フェリクスには。


マギは、頭をがしがしかきながら、深いため息をつく。


 「まったく‥‥感傷にもひたれやしねぇ。しかし、あいつらもいつ来るかくらい言ってほしいもんだ。その間ずっと神経すり減らさねばならん‥‥」

 「おそらくですが、すぐだと考えられますよ。相手はたいそうキエリさんに興味があったようですから‥‥」


キエリは、肩に鉛が乗ったようにからだが重くなった。


 「申し訳ありません。わたしのせいでまさかこんなことに‥‥」


マギとウンブラは、驚いたように顔を見合わせ、マギが苦笑する。


 「キエリさんのせいみたいに聞こえたなら、すまんな。もともと、魔獣からの襲撃はあり得ることだったし、それが少し早まっただけさ」


マギの言葉を聞いても、キエリは、申し訳なさから眉が八の字から戻らない。


 「わたしも‥‥戦います。どうか、戦わせてください!」


 (相手の狙いは、もちろん砦と街を再び支配することもあるだろうけど、わたしまで‥‥このまま迷惑をかけるだけなんていやだ)


マギはこくりと頷いた。


 「実はな、キエリさんに頼みたいことがあったんだ」

 「なんでしょう?」

 「殿下の傍で、殿下が無茶をしないように見張っててほしい。あんたの言うことなら殿下もすんなりと聞くだろうからな」


マギは、困った奴だとでも言いたげに髭をさすりながら、苦笑した。


 マギもずっと無茶な戦い方をするフェリクスの身を案じていた。


そして、彼もキエリとフェリクスの仲を見守っていた人物である。


マギも自分なりに精神が不安定になっているフェリクスにはキエリが居てくれた方がいい、と考えたのだろう。


キエリは、マギが自分のことを信頼してくれていると思うと、自然と姿勢を正された。


 「わかりました。必ず、殿下をお守りします」

 「おう、頼むぜ。それとルナも、殿下の傍についててくれ」

 「はい!」


 キエリとルナは、急いで部屋を飛び出して、フェリクスの元へと向かった。

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