信じる
キエリは、フェリクスの様子を見に、フェリクスの部屋へと戻ろうとした。
すると、部屋の前には扉をじっと見つめる困り顔のルナがいた。
「ルナさん、おはようございます」
ルナがキエリに話しかけられて、驚いたように、ぱっとキエリの方を見た。
「あ、あぁキエリさんおはようございます。」
ルナは、やはり友人のキエリがいるのは安心できるのか、優しく微笑んだ。
「どうしたんですか?」
「どこにもいないから部屋かと思って来たんですが、実はノックしても返事がなくてちょうど入ろうかと‥‥いつもだったらすぐに出てくるのに‥‥まさか、何かあったんじゃあ」
「まだ、寝てるかもしれませんよ?」
キエリが出た時に気付かないくらいには深く寝ていたので、疲れのせいでまだ寝ているのだろうと思った。
ルナは、うーんと首を傾げた後、何か思いついたようにあっと手を叩いた。
「あぁ、そうか‥‥キエリさんがいるからかも‥‥」
何のことかと首を傾げるキエリに、ルナはにこりと優しい笑顔を見せる。
「実は、フェリクスは、四年前からずっと不眠が続いてて、なかなか睡眠がとれていなかったんですよ。でも、キエリさんが来てくれたから、安心したのかもしれません」
「え‥‥」
フェリクスは目の下にクマができていて、あまり眠れていないだろうとは思っていたが、そこまで深刻になっているとまでは、思っていなかった。
しかも、四年前というとフェリクスに不幸が重なった時からということだ。
(フェリクス‥‥王様と王妃様の生死もわからなくて不安だったろうに‥‥しかも、わたしもいなくなって、それに、ソールさんも‥‥)
(彼の心にできてしまった穴は大きい‥‥それに、ルナさんも‥‥)
キエリは、ルナの顔を心配そうに見つめる。
「フェリクスのこと、教えてくれてありがとうルナさん。‥‥あの、ルナさんは眠れてますか? 顔色が少し悪いですよ」
「大丈夫ですよ。少し連戦が続いたので、疲れがたまっているだけですから‥‥」
ルナは、弱弱しく笑った。
彼女も大切な人を失ってしまったのだ。本当は、大丈夫なわけがない。
「ルナさん、あの‥‥」
自分のことだけで手一杯で、ずっと友人のことも恋人のことも放っておいてしまったという負い目が、キエリに言葉をださせなかった。
キエリが言葉に詰まっていると、ルナは手首につけているブレスレットを見せた。
キエリが五年前にルナに感謝の気持ちを込めて贈ったものだった。
銀色の輪の部分に紫色の花のような形の透き通った石がついている。
「キエリさん、私、辛いときはこのブレスレットを見るんです。なんだかこれを見ると心が落ち着く‥‥あの頃を思い出せる。もう取り戻すことはできないけれど、また笑いあえる未来があると信じて戦えるんです」
「それに、ふふ、ソールとお揃いにしてくれたんですよね」
キエリは、少しの恥ずかしさから顔が赤くなり、こくりと黙って頷いた。
キエリは、ソールにもブレスレットを贈っていた。
色は違うが形はルナのものと同じだ。
贈り物を選ぶとき、悩みに悩んだ結果、キエリなりに彼らには特別なつながりがあるような気がして、お揃いのものにしたのだ。
今思えば勝手な計らいだった。
お揃いになっているとおそらくルナもソールも気づいていたが、二人とも大事に持ってくれていた。
「私、実は嬉しかったんです。ソールとお揃い‥‥」
「え‥‥」
ルナは、優しくブレスレットをなでた。
顔も優しく、柔らかくなる。
ぐっと何かを飲み込むように目をつむり、開くと、また、凛とした表情がかえってきた。
「私、キエリさんが生きていたように、ソールは生きてると信じたい‥‥いいえ、信じてます」
「ルナさん‥‥そうですね、そうですよ!」
ルナは、にこりとほほ笑んだ。
「そうだ、キエリさん。フェリクスに言伝を頼んでもいいですか? 連戦続きなので、今日くらいはゆっくり休んで、と」
「わかりました」
「フェリクスは油断するとすぐに何かしてるので、しっかり見張ってやってください」
「ふふ、わかりました」
ルナは、またあとでと言ってその場をあとにした。




