理由
インテルは、魔獣に家族を殺されて魔獣への復讐に人生を注いでいた人物だったが、キエリと出会ってから、だいぶ軟化した。
うずくまっていたアクイラが顔を青くしながら、ふらふらしながらやっと立ち上がった。
「お、おはようございます、インテルさん。何でもありません」
インテルがその細目でキエリと泣きじゃくっているアンナをじっと見る。
キエリとは四年ぶりで、ここにきてから姿は見かけたが、話はまだしてなかった。
インテルは、呆れたようにため息をついた。
「はぁー‥‥あなたはいつもトラブルばかりですね、キエリさん」
キエリの耳がぴんと立って、しっぽが少し揺れたが、すぐに窘めてとめた。
まさかインテルが普通に話しかけてくれるとは思っておらず、嬉しくなってしまった。
「インテルさん、元気そうでよかったです」
「元気‥‥ねぇ、まぁ、ここにいれば魔獣をたくさん殺せるので気分はいいですね」
インテルは、満面の笑みでさらっと言った。
キエリは、嬉しいと思った気持ちが一気に冷めてしまった。
そういえばこういう人だった。
「そう、ですか‥‥あいかわらずですね」
「それで、魔獣のあなたがウィルトスに何をしにきたんですか?」
「しにきた、というは少し違いますが‥‥わたしも捕虜としてあなた達に協力します」
「協力、という言葉だけでは具体性にかけますね。一体あなたに何ができるというのですか?」
「治療と、必要であれば戦場にでて戦います」
インテルの眉がぴくっと上がる。
「戦う、ということは、魔獣を殺すということですが、甘いあなたにできるのですか?」
「‥‥できます。もう、わたしはすでに何人もの人間にも魔獣にも手を下しましたから‥‥」
「‥‥」
インテルは、黙ってじっとキエリを見つめている。
キエリもインテルをその澄んだ瞳で見つめる。
インテルにはかつて、人間を傷つければ殺す、ということを言われていた。
キエリは、インテルにあわせる顔がなかったが、もはや一緒に戦ういじょう、隠すこともできない。
「インテルさん、怒ってますか?‥‥わたしを殺したいですか?」
「‥‥」
キエリの言葉にぎょっとしたアンナがキエリとインテルの間にキエリをかばうように割って入る。
「ちょっ、ちょっと! キエリさんなんてこと言うんですか!? あたし、話が全然分かりません!」
アンナは、慌てているがキエリとインテルはいたって冷静でいる。
インテルがゆっくりと口を開く。
「‥‥私が殺すとしたら、無差別に人を嬲り殺す化け物です。勘違いしないでください」
それだけ言うと、インテルはすたすたと歩いて朝食をとりに行ってしまった。
アンナは、結局何だったのかとしかめ顔でインテルが歩いて行くのを見ている。
(インテルさん‥‥‥ありがとう)
キエリは、ずっと抱えていた重りがほんの少し軽くなった気がした。
すぅっと息を吸い、ゆっくりと吐いて、自分の弱い部分を追い出す。
そして、ふつふつと、静かにだが確実にアクイラの発言への怒りがわいてきた。
先ほどとは違って、凛とした自信ある佇まいでアクイラの前にでた。
アクイラは、まだアンナから受けた打撃が効いているのか、顔を青くしながら、こちらを忌々し気に睨みつけている。
「アクイラさん、わたしが気に入らないのはわかりました。しかし、わたしを貶めるような発言はいただけません。取り消してください」
キエリは、まっすぐアクイラの瞳を見る。
「なっ、なんでオレが魔獣なんかのっ‥‥」
「取り消してください。魔獣の雌が人間の男をたぶらかすにできてるなんて、失礼です」
キエリは、初めこの発言をされたとき、何を言われても仕方がない、なんて考えてしまった。
しかし、それを受け入れてしまえば、キエリのフェリクスへの感情が汚された感覚がして、一瞬でも受け入れようとした自分が恥ずかしくなった。
そして、そんなことを言ってくるアクイラに実に腹が立った。
「取り消してください‥‥」
頑として訂正を求めるキエリに、アクイラはたじろいでばつが悪そうにしたが、結局は謝罪も訂正もすることなく、不服そうに舌打ちしてその場をあとにした。
アンナは、泣きすぎて鼻を真っ赤にしながら、立ち去るアクイラにあっかんべをしていた。
「くっそーあいつ結局謝らなかった‥‥ごめんなさい、キエリさん。あいつ、あたしと話してた時はあんなんじゃなかったんですけど‥‥」
キエリは、苦笑しながらも首を横に振った。
「いいの、ありがとうアンナ。わたし、あなたが怒ってくれて嬉しかった」
「はわわ‥‥うぅ、キエリさん大好きです!」
アンナは、思いきりキエリに抱き着いて、ぎゅーっと抱きしめた。
もう、キエリはアンナの激しめのスキンシップに慣れ、しかもそれが嬉しく思えてきて、笑顔でしっぽを揺らしながらアンナを抱きしめ返した。
アンナは、今日はまだ砦にそこら中に生えている植物を片づけなければならないらしく「キエリさんみたいにきれいな花が咲いてるのにもったいないな」なんて言いつつ、去っていった。
アクイラ君、あなたって人は‥‥




