貪る
「キエリ‥‥はぁ‥‥キエリ」
フェリクスの熱い吐息がキエリのからだを溶かす。
もう、抗えないと思った。
もう、自分の気持ちを隠し続けるのも辛かった。
自分の気持ちの最後の堰が取り払われたのは、キエリがフェリクスのからだにある痛々しい傷跡を見たときだった。
「フェリ、クス‥‥その傷」
「あぁ、魔獣から受けた傷だよ‥‥生死をさまよった時もあった」
フェリクスは、腹にある大きな傷跡をさする。
キエリはそっとフェリクスの傷に手を伸ばし、優しくさすった。
「‥‥っ‥‥キエリ」
(わたしが近くにいれば、生死をさ迷うなんてことにならなかったのに‥‥ルナさんがフェリクスが狂ったように戦っている、って言ってた‥‥無茶していたんだ)
「‥‥フェリクス、ごめんなさい‥‥ごめんなさい」
キエリはぽろぽろと涙があふれだす。
アンナに抱きしめられて、あれだけ泣いたけれど、まだあふれてくる。自分はこんなにも弱かったのかと突き付けられる。
(あの日、フェリクスたちの元から去って、わたしが弱いせいで、心の整理がつかずに何年も彷徨っていた。その間、何も知らないフェリクスたちをずっと苦しめ続けていた‥‥)
(‥‥もう、これ以上、愛している人を傷つけたくない‥‥)
キエリは、力があまり入らないからだをゆっくりと起こし、フェリクスの頬に触れた。
「フェリクス‥‥ごめんなさい」
「こんなに嘘をついて、傷つけて‥‥もう、許してはもらえないと思うけれど」
フェリクスは何も言わず、優しく額にキスをした。
「フェリクス‥‥わたし、本当はあなたが好き‥‥」
フェリクスは、驚いて目を見開く、そして、愛おしそうにキエリの頬を撫でる。
「もう一度言って」
「フェリクス、好き‥‥この世の何よりも大好き」
「本当か?」
「うん‥‥何があっても、あなたを愛してるから」
(この秘密を抱えたまま‥‥いつかあなたの隣にいられなくなる日まで‥‥それまで、あなたの傍にいようとするわたしをどうか許して‥‥)
キエリは、愛おしそうにフェリクスの頭を撫で、頬を撫で、自ら唇を重ねた。
その後は、四年という時間を埋めるようにお互いを求めあった。
特にフェリクスは、キエリを無我夢中で貪った。
キエリのからだがくったりとして、もう駄目だと懇願しても聞いてはくれなかった。
それほど、キエリを求めて、今まで我慢していたのかと、キエリは遠のく意識の中で微かに思った。
次の日の朝、キエリが目を覚ますと、隣にはフェリクスが静かに寝息をたてて寝ていた。
キエリがフェリクスの頭を愛おしく優しく撫でる。
(寝てるときは、子供みたいな顔してる‥‥あぁ、でもクマができて‥‥眠れていないのかな)
視線がフェリクスの首元にいく、首には五年も前にキエリがフェリクスに贈ったネックレスがつけられている。
(フェリクスも大事にしてくれてたんだ‥‥こんなに想ってくれていたのに、わたしは‥‥)
心に鋭いナイフを突き刺したような痛みを感じた。
フェリクスが病気を治すためにキエリの父の眼球から薬を作り、それで回復し、今生きている。
そんなフェリクスを愛していいのかずっと悩んだが、結局はこの人を愛さないことができなくなってしまっていた。
(お父さん、お母さん‥‥こんな娘でごめんなさい。それでも、わたしはこの人が生きてくれていて嬉しいと思ってしまう)
(ずっと、この秘密は胸にしまっておこう‥‥この人の隣にできるだけ長くいたい。せめて、この戦いが終わるまで‥‥)
フェリクスの頬にそっとキスをしてから起き上がろうとしたが、からだ中が重くて動きが止まる。
とくに腰が重い。
(フェリクスは愛情表現が激しい人だと思ってたけど、ここまでとは‥‥)
重いからだを寝台から下ろし、脱ぎ散らかされた服を集めて着る。
フェリクスの服もたたんで置いておいた。
(とにかく、湯浴みに行こう。出る時にバレないように気を付けないと‥‥まだ、日が昇ったばかりだから、今の内よね)
フェリクスを愛しているとは言ったが、周りの状況は変わらない。
魔獣のキエリと人間のしかも今となっては王の代理となっているフェリクスを愛しているなど知れてしまえば、お互いにいいことはない。
キエリがそっと扉を開け、人がいないか耳をぴくつかせて確認する。
(今の内だ。確か、湯浴みはあっちだったかな)
キエリは早足に湯浴み場に向かった。




