一方的
襲われ注意です。
フェリクスがキエリを連れて、フェリクスが休む予定の部屋の扉の前まで来た。
(そういえば、どこで休むか考えていなかった‥‥アンナはどこにいるんだろう? 乱暴なことはされていない‥‥よね? でも、心細い思いはしているはず‥‥)
「殿下、わたしと一緒にいた女性はどこにいますか?」
フェリクスが扉を開けようとした手がぴたりと止まる。
「できれば、彼女と同じところで休みたいのですが‥‥ひとりで心細いでしょうから」
フェリクスがゆっくりとキエリを見る。その瞳はまた暗く光る。
「ずいぶんとあの女のことを気にかけているんだな」
キエリは、フェリクスの視線にゾッとする何かを感じ取って、数歩下がる。
「彼女は、わたしが巻き込んでしまっただけですので、できれば解放してあげてください」
フェリクスは、キエリに詰め寄る。
キエリは、視線をそらし、また少し下がる。
「そうするとお前は逃げようとするのだろう?」
「そんなこと‥‥」
もちろんキエリは逃げ出したかった。
今でもフェリクスと一緒にいるとどんどん離れたくなくなってしまっている。
このまま、ずっと一緒に居続ければ今度こそ離れることができなくなりそうな気がした。
「キエリ」
「!」
フェリクスは、キエリの手をぐっと握り引き寄せた。
片手でキエリを持ち上げ、扉を開け、そのままキエリを部屋へと引き込んだ。
ガチャリと部屋の鍵が閉まる音がした。
「駄目よ! お願い離して!」
キエリは、フェリクスが自分を引き込んで鍵を閉めた意味を察知した。
必死にフェリクスの胸を押し、浮いた足をばたばたとする。
しかし、フェリクスの力はずっと強く、キエリが暴れてもびくともしない。
(そうだ! 姿を変えれば)
「んん!」
キエリが姿を変えるよりも早く、フェリクスがキエリの唇を塞ぐ方が早かった。
「フェリク‥‥んん‥‥!」
フェリクスはキエリが口を開けたのを逃さず、舌を侵入させた。
右手がキエリの頭を押さえて動けないように固定させる。
「ん‥‥」
フェリクスの舌がキエリの口内をまさぐる。
上あごをさすり、歯の形をなぞり、逃げる舌を捕まえる。
フェリクスにされるがままになっているキエリは、息がうまくできずに、頭がぼーっとして、じんと頭の奥が痺れる。
「ふぁ!?‥‥は‥‥」
舌が吸われて、驚いて肩がびくついた。
唇が数回食まれて、やっとフェリクスは止まってくれた。
キエリは、いつの間にか抵抗する気力が奪われて、フェリクスに完全に体重を預けていた。
「はぁ‥‥」
キエリは、やっと酸素をいれられて、頭を回そうとする。
「フェリクス‥‥お願い‥‥もう、やめて‥‥ひぅ!」
フェリクスはキエリの懇願は無視して、べろっとキエリの首を舐め、フェリクスの右手はキエリのふわふわの耳を撫でた。
ちゅ、ちゅとキエリの首を軽く食むようにキスをいくつも落とす。
「フェリクス、だめ‥‥もう、わたしのことは‥‥」
キエリの言うことをうるさいと言わんばかりに、フェリクスはキエリの首筋に強く吸い付いた。
「い‥‥ぁ」
ぴりっとした痛みが走ったが、キエリはそれが嫌だとは思えなかった。
それが、危険だと感じ、再び手に力を込めて首筋に顔をうずめるフェリクスの肩を押しのけようとする。
「フェリクス‥‥いい加減にして‥‥駄目なことくらい、わかるでしょ」
するとフェリクスがキエリの首元の服をずらし、思いきりキエリの肩に噛みついた。
「いっ‥‥たぁ」
先ほどよりもくっきりとした痛みが走った。
おそらく、フェリクスの歯形が残っているだろう。
ずっと黙ったままキエリをむさぼっていたフェリクスがやっと口を開いた。
「四年間‥‥俺はキエリ、ずっと君を想い続けた‥‥」
フェリクスの声が昔のように優しくなった。
それが、逆にキエリを不安にさせた。
フェリクスがキエリの首元を探る。
キエリがフェリクスがしようとしていることに予想がついてその手を止めようとするが無駄だった。
先ほど噛まれたときに気付かれたのだ。
「散々、俺に忘れろだの、もう愛していないようなことを言っていたが‥‥ははっ、そうか」
キエリの首元から紐だし、それをつたうようにたどれば、フェリクスの瞳に似た石にたどり着く。
五年前にフェリクスがキエリに贈ったネックレス、それをキエリはずっと大事に持っていた。
フェリクスはそれが見えると感情がこみ上げ、いつぶりかの笑みがこぼれた。
キエリは、焦りと恥ずかしさで顔が赤くなる。
手で顔を隠し、顔を背ける。
「ちがうっ! これは違うの!」
「キエリ」
「たまたま捨てられなかっただけ! もう、あなたのことは‥‥」
「キエリ‥‥」
穏やかな低く落ち着く声がキエリの耳元で囁かれる。
せっかく作った心の鎧をゆっくりと脱がされるような感覚がした。
耳を塞いでぎゅっと目をつむった。
(もういや! どうしてなの? どうしてお父さんの眼を食べたとわかっても、まだこの人を愛したいと思ってしまうの!?)
(そんなの‥‥そんなの許されるわけないのに‥‥いや!!)
キエリは、自分の心の矛盾に板挟みにされて、心が押しつぶされそうになった。
目からぽろぽろと涙が流れてきてしまう。
キエリが固まっていると、からだが移動していた。
もちろん、それはキエリをずっと抱きかかえているフェリクスによるもので、しかも行先は、寝台だった。
キエリはハッとして、フェリクスの顔を見る。
フェリクスの瞳はまた暗くなっているが、視線は熱い。
(どうしよう‥‥フェリクス、わたしを抱くつもりだ‥‥)
そう思うとキエリのからだの奥がずくっとした。
こんな状況でも反応してしまう自分のからだが浅ましくて、悲しかった。
フェリクスはキエリと籍を入れておらず、キエリと寝室を共にすることはなかった。
だが、まさかこんな状況でなんて、どちらも想像していなかっただろう。
フェリクスは、キエリを寝台に寝かせ、逃げないように上に覆いかぶさってキスを重ねた。
涙の跡を拭い、目じりにキスを落とした。
「キエリ、俺のことは好きなのか? それとも、泣きたくなるくらい俺のことが嫌いなのか?」
「‥‥っ‥‥」
「‥‥そうか、俺と話すのも嫌か、なら」
「‥‥‥!」
フェリクスの手がキエリの胸に触れる。
「からだに聞いてやろう。そして、教えてやる、キエリ、お前は俺の女だと」




