脅威
フェリクスが率いる少数精鋭部隊が砦の魔獣たちを切り倒していく。
フェリクスは、先頭に立ち、剣を両手に構え、魔獣に刃を突き刺しては引きちぎるように殺していく。
刃が鋭いというよりも、フェリクスの力が尋常ならざるくらいなので出来ていることだ。
(司令塔の魔獣はどこだ?)
すると、突然の敵襲で焦ったトントが指示を出すために叫んだのが聞こえてきた。
その声は砦中に響いたが、おかげでだいたいの位置がわかった。
フェリクスが後ろにいる部隊に走りながら指示をだす。
「司令塔は二階、おそらく東側だ。このまま追い詰めるぞ!」
「はい!」
トントは、焦っていた。魔獣たちの断末魔がすぐ近くまで迫っていた。
(クッソ! なんでオレ様がこんな目に!)
必死に逃げていたトントの視界についにフェリクスが入り込んだ。
黒いマントをなびかせ、顔に血をあび、自分よりも大きな魔獣をまるで綿を裂くかのように魔獣を切り倒していく姿はトントにとって死神の様に感じられた。
その姿を見た瞬間、命の危険があると本能が訴えていた。
『おい! そこのお前! オレ様を死ぬ気で守れ!』
近くにいた魔獣に命令をだすとトントは部屋に逃げ込んだ。
フェリクスたちの前に廊下に大きなウシ型の魔獣が立ちはだかり、丸太のような角をフェリクスに向けて突進してきた。
フェリクスの後ろにいた若い青年がさすがにこの攻撃は危ないと思い叫ぶ。
「殿下!」
しかしフェリクスは、その攻撃をかわすでもなく、思いきり攻撃を受けたように見えた。
が、ぎりぎりのところでかわしそのまま角に腕をまわして掴み止めていた。
「ふん! うりゃあああ!」
フェリクスは足を踏ん張り、腕に力を込め、なんと自分の倍もある魔獣をそのまま投げ飛ばした。
「まだ生きているぞ! 油断せずとどめ!」
「はい!」
青年が即座に動き首元に剣を深く突き立て、魔獣にとどめをさした。
「いいぞ、アクイラ。他の者もつづけ!」
「あっありがとうございます!」
青年の名はアクイラ。
彼はもともと村の普通の青年だったが、魔獣に村が襲われ、そこをフェリクスたちに救われた。
それからウィルトスに所属し、めきめきと成長していった。
(さすがフェリクス様だ! あんな魔獣まで簡単に持ちあげてしまうだなんて! オレもこの部隊に選ばれたんだ。期待に応えられるように尽力しよう!)
アクイラは、フェリクスに羨望の眼差しを向けたが、今は任務中だと自身を戒めた。
フェリクスがトントの逃げ込んだ扉に手をかけようとしたが、手がとまる。
そして、小声で後ろにいるアクイラたちに話しかける。
「微かにすすり泣く声が聞こえる。おそらく、この中には女性たちが捕まって人質にされている」
フェリクスがアクイラを見やる。
「この中だとアクイラが一番弓の腕が立つな。扉を開けた瞬間に即座に司令塔の頭を射抜くことは可能か?」
アクイラは名指しされて心臓がばくばくした。
(フェリクス様が期待してくれてる! 緊張するけれど、インテルさんにしごいてもらったんだ。できる!)
「はい、やります! やらせてください」
アクイラは、額から緊張で汗がつたっていたが、力強く頷いた。
フェリクスが頷くと背につけていた特製の長身の槍を手に持ち、バンっと扉を開けた。
案の定、トントが泣きむせる女性を片腕に乱暴に持っていた。
「うっうごくな! このめ‥‥」
トントが言い終わる前にアクイラが瞬時に狙いを定め、あらかじめ引き絞っていた弦から手を離した。
矢はトントの顔面目掛けて一直線に飛んで行ったが、間一髪のところでトントが手に炎の魔法をまとわせて矢をはじいて燃やした。
トントはバランスを崩し、女性から手が離れ、女性は床に倒れた。
(こいつら躊躇せず射ってきやがった!!)
トントが再びフェリクスたちの方に見ると、その時にはすでにフェリクスが槍を構えていた。
フェリクスは、すさまじい勢いで槍をトントめがけて投げた。
(あ‥‥死ぬ)
槍はトントの頭にぐさりと刺さり、勢いのあまりに後ろに倒れた。
「きゃあああ!」
女性たちが恐怖のあまりに泣き叫ぶ。
フェリクスは、泣き叫ぶ女性の横を通り過ぎ、槍をトントだったものの頭から抜き取る。
「合図をだせ。あとは街の魔獣を片づければ終わる」
合図ののろしを持っている部隊員が外に出て街にいるウィルトスの部隊に合図を出しに行った。
他の部隊員は女性たちの保護をする中、アクイラは先ほどの失敗から動けずにいた。
「アクイラ、先ほどの攻撃が失敗だったと考えているのか?」
「もっ申し訳ありません!」
「あれは失敗ではない。お前の狙いは完璧だった。敵が弓矢を防ぐ可能性はもちろんあった。だから、俺も槍で攻撃する準備をしていたのだ。だが、俺だけで攻撃していたら、もう一撃足らないところだった」
「それに万一失敗して死人が出ていたら、責任は指示をだした奴にあるのだからお前が気にすることはひとつもない。わかったか?」
「‥‥は、はい!」
アクイラは、目頭が熱くなってぐっと涙をこらえた。
「あらかた片づけたと思うが、砦の残りの魔獣も一掃するぞ。その後、街に援護に行く。弱体化したとはいえ、魔獣は手ごわい。油断はするなよ」




