支配された街
キエリとアンナは何日か歩き続けたが、旅の大変さからアンナが途中で折れてくれることを幾度となく願ったが、その願いが叶うことはなかった。
「キエリさん! 街が見えてきましたよ! ゆっくり休めるといいですね!」
こんな戦争状態でゆっくり休めるところなどあるのかと思ったが、彼女の楽観的な性格がその考えを思いつかせたのだろう。
「無事な街だといいけどね。魔獣に蹂躙されているか‥‥もしくは、ウィルトスが守っているか」
キエリは、街が見える丘の上に座り込んだ。
アンナは、不思議そうな顔をしてキエリを見る。
「キエリさん、疲れてしまったんですか? それなら、街で休みましょうよ! あと少しですよ」
キエリは、アンナに呆れて肩を落とす。
「魔獣のわたしが街に入れるわけがないでしょう? 行きたければ行ってくるといいわ」
アンナは、あ、と声をもらした。
「ごっごめんなさい、キエリさん。あたしキエリさんが魔獣だってこと、意識してなさ過ぎて、無神経でした‥‥」
「意識してないなんて、あなたはよほどの変わり者よ」
「よく言われます!」
何故か満面の笑みを浮かべるアンナにキエリは眉をひそめた。
(アンナさんは本当に訳の分からない人だ。同じ変わり者でも、ゼノの方がわかりやすい。あ、でも強引なとこはちょっと似てるかも‥‥ゼノ‥‥‥生きているのかな)
「‥‥」
キエリが急に沈んだ顔をし始めて、ぎゅっと縮こまったので、アンナは心配そうに座り込んでキエリの顔を覗き込んだ。
「キエリさん?」
「なんでもない‥‥」
すると、アンナは突然何か思いついたように顔が明るくなった。
「そうだ! ここで待っててください! 少し街の様子を見てきます。それで、もしおいしそうなものが売っていたら買ってきますね!」
「え? 街が魔獣だらけだったらどうするの?」
「うーん、そしたら逃げます! きっと、案外大丈夫ですよ!」
本当にこの楽観的思考はどこからやって来るのか。
キエリが止めるのも聞かずにアンナはさっさと街に行ってしまった。
キエリは、このままおいて行ってしまおうかとも考えたが、何故かその場から動けなかった。
ウィルトスが襲撃する手筈となっているこの砦は人間が使っていたころとは違って、砦中に植物のツタがはびこり、淡い桃色の花がそこら中に咲いている。
一見、その花に包まれている砦は美しく見えるが、その中では、ウシ型魔獣トントをトップとした魔獣が人間さながら欲望のままに暴挙をはたらいていた。
「いやあああ! おやめください!」
魔獣トントは、砦に何人もの人間の女性を無理やり連れてきて、首輪をつけ、まるで奴隷の様に扱っている。
今も一人哀れな女性が組みしかれている。
「がはははは! 力のない弱い人間唯一良いところは雌の抱き心地が良いというところだな!」
「あぁ‥‥う」
周りにも奴隷にされた女性が怯えて、次は自分がああなるのかと震えている。
すると、突然扉が開けられた。
『トントサマ レンラク アーラサマ カラ』
トントの卑劣な行動が部下の魔獣によって中断された。
トントは、舌打ちしながら、女性を乱暴に寝台に投げた。
ローブのような服に身を包み、部屋の外に出た。
『おい! オレ様が楽しんでいる最中はノックしろと言ってるだろう! まったく、これだから下級の魔獣は‥‥知能が低くて困る!』
下級魔獣と呼ばれた魔獣は、トントと同じウシ型ではあるが本来のウシとは違い一回り大きく、大きな手を地面について四足歩行している。
しかし、トントの見かけは毛に覆われたウシなのだが、大きさは大柄な人間くらいで、人間の様に二足歩行をしている。立派な角は生えているが、爪や牙に凶暴さがない。
トントが、どかっときらびやかに装飾した椅子に座ると、部下の魔獣が丸く透き通った大きな石を持ってきた。
トントが石に手をかざすと、その手に魔力を込める。
『アーラ様、王の僕のトント参上いたしました』
『トント、アタシが呼んでるのにもっと早く来れないわけ? それに、定期連絡も怠るなんて、せっかく下級から中級にしてあげたのに、こんなんじゃあアンタの処遇も考えなきゃね』
『も、申し訳ございません!! 二度といたしませんのでどうかご慈悲を!』
『ふん! 一度だけよ。中級を作るのも大変だし‥‥はぁ、こんな無駄話をするためにアンタに連絡したんじゃないんだったわ』
『なっなんでしょう? このトントめに何なりとお申し付けくださいませ!』
『ふん、それで、まだ「あの方」は見つからないのかしら?』
『そっそれが、捜索範囲は広げているものの、依然行方は知れず‥‥』
『まぁ、もともとアンタに期待なんかしてないわ、でもね、アタシ達の王が求めている限り、全力をつくして探しなさい、いいかしら?』
『はっ!』
それを最後に通信が切れた。
トントは、肩を震わせ怒りのままにそこらへんにいた魔獣を殴りつけた。
『あのクソ野郎が! 何が王だ! 城から出れもしないあんな奴に何故従わなければならないんだ!』
トントは、部下を殴りつけただけでは飽き足らず、部屋のものに当たり散らす。
『クソっ! だいたい、このオレ様がこんなとこでくすぶっていること自体腹立たしい!』
『オレ様が戦前に立てば人間どもなどすぐさま殺しつくしてやるというのに! こんな砦を守って女を探せだと!? ふざけやがって!』
『フーッ、フーッ‥‥』
椅子に再びドカッと座り込み、歯ぎしりする。
そして、なにか思いついたようにニヤッと笑う。
『そうだ‥‥そうだよ、王が求めている女だ。女など娶り放題の王が血眼になって探している女は、必ず何かある‥‥』
『先に例の女を捕えてしまえば、王の弱みを握れるかもしれない‥‥ふふっ、これに気付くとは、さすがオレ様だ』
不気味に笑い、謀を巡らせるトントに絶望的な一報が入ってくる。
『トントサマ テキシュウ』
『は? なんだと? どこだ? 街に反抗的な人間の群れがでたのか? それなら、街にいる奴らに相手させろ!』
『チガイマス ココノ トリデニ シンニュウ シテマス』
一気にトントの毛深い顔から血の気が引いていく。
『なんだと!? それを早く言え!!』
部屋から出て、鼓膜が破れそうなほどの大声で叫ぶ。
『全員侵入者を討て! 一匹残らずだ!!』




