執着✿
最後に挿絵が入ってます。見たくない方注意です。
軍議が終わり、明日の戦いに備えて貴族たちは解散していった。
フェリクスが天幕をでて、その後にウンブラとマギが続く。
外には、谷の砦の攻略に出て帰還したルナがうかない顔をして立っていた。
ルナは、フェリクスたちを見ると礼儀正しくお辞儀した。
「殿下、マギ殿、父上、ただいま戻りました」
ウンブラが娘の無事の帰還に喜びの笑みを浮かべる。
「うむ、無事で何より、しかし、どうした? お前がそんな顔をするとは、何かあったのか」
ルナがハッとして、いつも通りのきりっとした顔に戻した。
「失礼しました。谷の砦は奪還に成功し、負傷者は数名にとどまり、死者は‥‥0名です」
ウンブラが報告を聞いて、ルナの肩を叩く。
「死者がいないとは、素晴らしいじゃないか! 不安そうな顔をするものだから、何かあったのではと心配したぞ」
ルナは、父の言葉が届いていないかのように反応が鈍い。ゆっくり、フェリクスを見る。
フェリクスはそのルナの視線から、ルナが何かを言うまいかどうか悩んでいることが見てとれた。
「ルナ、何かあるのなら言え」
「‥‥」
「殿下‥‥いいや、フェリクス‥‥キエリさんが生きていた」
「!! なんだって!?」
しかし、キエリの姿はここにはない。
しかも、良い知らせのはずなのに、ルナが辛そうにしているということは、キエリに何かあったのだ。
「キエリは今どこにいるんだ! 教えてくれ!!」
フェリクスがルナの肩を掴み、ものすごい剣幕で詰め寄った。
それをウンブラが肩から離れさせる。
「落ち着いてください殿下! ルナ、キエリさんとは、あのキエリさんか? お前の友人でもあり、殿下の‥‥」
ルナは、こくりと頷く。
ウンブラもキエリには会ったことがあった。
一見、可愛らしいお嬢さんだが、国の魔法と魔獣の研究に参加しており、研究に多大に貢献した人物と認識していた。
そして、同い年くらいの同性の友人の話を楽しそうにルナが話すのをウンブラは何度も聞いていた。
ルナが放心した様子でゆっくりと話し出す。
「キエリさんを見つけたが、彼女はもう‥‥戻らない、と‥‥わたしのことは忘れてほしい、と」
フェリクスは、その言葉を聞くと一気に顔が絶望の色で塗りつぶされた。
「一人にしてくれ」と、呟くと力なく歩き出して行ってしまった。
フェリクスは、陣から離れ、ひとり岩場のところに腰掛けた。
首元を探り、キエリからもらったネックレスを取り出す。
ネックレスには、キエリの瞳と同じ色の石が輝いている。
(キエリ‥‥俺のキエリ‥‥どうして、俺のもとに来てくれないのだ? 俺の隣にいてくれると言ったのは噓だったのか?)
フェリクスは、以前も背は高く体格も大きかったが、いくつもの戦いをくぐり抜けたのもあって、この四年でより逞しく成長した。
しかし、今はその大きなからだも大事な人に拒絶されて、うずくまり、小さく縮こまってしまう。
(キエリ‥‥君のことは片時も忘れられない、ずっと君のことを想ってきた。きっと君は生きていると信じていたから、今まで生きてこれたんだ)
「なのに‥‥なぜなんだ!?‥‥あぁ、キエリ‥‥う‥‥ぅ」
フェリクスは心がばらばらに引き裂かれる感覚に襲われた。
目からは、ずっと前になくしてしまったかと思っていた涙があふれてくる。
ひとしきり涙が流れた後、フェリクスのずたずたになった心の奥から重く黒い感情が芽生えてきた。
フェリクスの琥珀色の瞳が暗く光る。
「キエリ‥‥俺の‥‥そうだ、俺のキエリだ‥‥何年かかってでも、何をしてでも、必ず俺の元に取り戻して見せる‥‥」
「逃げられると思うなよ、キエリ」




