荒んでいく
四年前、王都が巨木に侵食され、魔獣に支配された日から数日、騎士団の魔獣討伐の遠征にでていたフェリクスたちが所属する騎士団が、王都の異変を聞いて、早急に王都へ戻ってきた。
騎士団は、城下町や城へ人命救助と魔獣から王都を奪還に向かったが、魔獣の猛攻により、城にたどり着くこともできずに敗走した。
その後、魔獣は今まで突然現れて暴れる災害のような存在だったが、魔獣はなんと隊を組み、まるで軍隊の様に人間を襲い始めた。
騎士団は、魔獣の侵攻により、国境付近まで敗走させられるという苦渋をなめることとなった。
しかし、それから魔獣から国の奪還を目的とした軍『ウィルトス』を結成。
各地の貴族たちと隣国の支援を受けて、着々と王都に向けて進軍していた。
フェリクスは、王と王妃の安否が不明の今、国を背負うという重圧を一人で背負わなければなくなった。
フェリクスは、あの日から悪夢にうなされ、満足に眠れることがなくなった。
しかし、それは国を背負うという重圧によるものあるが、それよりも、愛する人が立て続けにいなくなってしまったという事実のほうがフェリクスには耐えがたかった。
魔獣に支配されている街と砦の解放をするため、ウィルトスの主戦力は現在、街から離れたところに陣をはっている。
フェリクス、騎士団長であったマギ、それにルナの父であるウンブラ、それとその他参戦している貴族たちが天幕で軍議をするために集結していた。
マギが街と砦の地図を開いて、今回の作戦を説明し始める。
「今回の作戦を簡単に説明すると、敵の頭を叩いて、敵の無力化を狙う」
ルナの父であるウンブラが今までの情報を整理する。精悍な顔つきはルナを思いださせる。
「魔獣はあの日以来生態が、がらりと変わったのでしたな。組織ができ、司令塔の存在が現われた‥‥」
「しかも、その司令塔は人間の言葉まで話すそうで、まぁ、交渉はできないですが」
貴族たちは厳しい面持ちで頷く。
交渉ができない、というのは言葉の問題ではなく、完全に魔獣がこちらを見下して話を聞かないからである。
今度はマギが話を続ける。
「だが、魔獣の新しい生態として、その司令塔さえ倒せば、その支配下にいる魔獣は著しく動きが鈍くなり、ほとんど無力化できる」
「そして、その司令塔だが、偵察隊の報告によると、砦を占拠して道楽にふけっているそうだ」
他の貴族たちが不思議そうな顔をする。
「マギ殿、道楽とは?」
マギが嫌悪感を露わにして、顔をしかめる。
「女を囲っているそうだ‥‥人間の」
「魔獣の生態が変わったとウンブラ卿が言っていただろう? そして、人の言葉を解すほど、知能がある。人間の様に振舞う魔獣が現われているということさ」
貴族たちは、魔獣が行っているだろう非道を想像して怒りや嫌悪を顔に表す。
静かにじっと話を聞いていたフェリクスが口を開く。
「マギ、偵察に砦の裏口が使えないかも確かめたのだろう」
「はい、あの砦には脱出用の秘密の裏口がありましたが、魔獣たちには気づかれていないようです」
「その裏口から少数で素早く司令塔を叩く、俺と数名腕の立つ奴を連れていく。その他の兵は、魔獣が弱体化した後に街にいる魔獣を一掃してくれ。万一、俺がやられた場合は退却すること。それでいいだろう?」
貴族たちは、フェリクスの話しを緊張した面持ちで黙って聞いていた。それは、フェリクスがこの軍のトップであるが故の緊張もあるが、幾度もの戦場で戦前に立ち、魔獣を引き潰すように殺すフェリクスは鬼人のようで、貴族たちに恐れが生まれていたからだ。
ウィルトスの隊員たちもそんなフェリクスに憧れと畏怖を同時に抱いている。
そんな中、聞く耳を持つかどうかは時と場合によるが、フェリクスに進言や諫めることができるのは、昔からフェリクスを知っているマギとウンブラ、そしてルナくらいになってしまった。
ウンブラが厳しい面持ちでフェリクスをまっすぐ見つめる。
「お言葉ですが殿下、少数で敵地に殿下が直接行くのは今回はおやめください」
フェリクスは、ウンブラを冷たく睨みつける。
このひと睨みでも心臓を鷲掴みにされるような感覚に襲われるが、ウンブラはそれでも引くことはしない。
「殿下は確かにお強い、しかし、殿下はこの軍の、いえ、この国を背負うお方。ですから‥‥」
「だから、俺には留守番をしていろと? 断る。戦わずして、何が王だ‥‥怖気づいているまに大事なものはこの手からするりと落ちていく‥‥そんな苦汁を再び俺に味わえというのか。俺を臆病者の王にしたくないのなら、無駄口をはさむな」
「ですが‥‥」
「ウンブラ、マギ、お前たちは街で待機だ。いいな?」
「‥‥御意」




