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【完結】オオカミはフードを被る  作者: Nadi
オオカミはフードを脱ぎ捨てた

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 「キエリさん‥‥あなた、生きていたんですか‥‥?」

 「ルナさん‥‥」


 ルナは、キエリの大事な友人だ。


しかし、もうキエリの人生の中でもう会ってはいけない人間の一人でもあった。


 「あぁ、キエリさん! まさか、この砦で賊に捕まっていたんですか?‥‥あ‥‥」


ルナは、キエリが賊にてっきり捕まっていたものだと考えたようだが、その考えは間違っているとキエリの血まみれの姿を見るとすぐに理解した。


 キエリは、虚ろな目でルナを見つめる。


 (ルナさん‥‥どうしよう、何を話していいかわからない‥‥)


 ルナがぐっと何かを飲み込んで、膝をついてキエリに目線を合わせる。


本当に久しぶりに出会ったルナの茶色の瞳には、以前にはなかった深い悲しみが住み着いている。


 「キエリさん‥‥私と一緒に来てください‥‥フェリクスと会ってください」


フェリクスの名前を出されたとたんに心臓が跳ね上がった。


キエリは、唇を噛み、心の奥からこみ上げる苦痛に耐える。


 「フェリクスは、あの日から‥‥城が崩壊して魔獣に王都が乗っ取られてから、狂ったように戦っているんです‥‥」

 「きっと、あなたがいなくなってしまったと思って‥‥」


キエリは、心臓に鋭いナイフを刺されたように苦しくなった。


 「フェリクスが‥‥‥」


ルナは、もう耐えきれなくなったようで、涙をぽろぽろと流し出した。


いつも冷静なルナがこんなにも人前で感情をさらけ出すことが、どれだけルナがが今まで耐えてきたのかがわかる。


そして、泣き出したわけはもうひとつあった。


 「ソールも‥‥先の戦いで行方不明になって‥‥もう、これ以上は、フェリクスも私も耐えられません‥‥」

 「そんな‥‥ソールさん‥‥」


頭がいきなり強く殴られたくらいの衝撃が走った。


ソールもキエリにとって大事な友人だ。


そして、フェリクスとルナにとっては幼馴染であり、親友である。


フェリクスとルナはこの四年でキエリとソールを失っていたのだ。


 (フェリクス‥‥が苦しんでいる。わたしのせいで‥‥わたしが何も言わずにあの人の前から姿を消したから)


キエリは、ぐっと爪が食い込むほど拳を握る。


フェリクスやルナのことを考えると心がどうしようもなく揺らぐ。


 (でも、こんなわたしがフェリクスのもとに行ってどうするというの‥‥わたしは‥‥わたしは)

 (わたしは、フェリクスを愛する自信がない‥‥‥)


 返事をしないでいるキエリをルナが心配そうに見る。


 「キエリさん?」


ルナがキエリの肩に手を伸ばしたが、キエリはその手をそっと降ろさせた。


 「ごめんなさい、ルナさん。わたしはフェリクスにはもう会えないの‥‥フェリクスには、もうわたしのことは忘れて、と伝えてください‥‥」

 「どうしてですか!? なんでそんなことっ‥‥」


ルナは、大声を上げてキエリに詰め寄った。


キエリは、心が裂けてしまいそうなほど苦しかったが、そっと心を冷たくした。


この四年でキエリは、心を殺すすべを身に着けてしまっていた。


 「もう、フェリクスのことは愛していないんです。だから、一緒にいてもしょうがないんですよ」

 「あ‥‥そんな‥‥‥」


ルナは、目を見開いてぐっと眉間に皺が寄り、キエリの言葉にショックを受けているようだった。


キエリは、体力が回復してきて、立ち上がれるようにはなった。


ずっと支えてくれたアンナが不安そうにキエリを見つめる。


そして、キエリは、オオカミ型となった。


周りのウィルトスの兵士が武器を構える。


 「やめろ! 彼女は敵じゃない!」


キエリは、アンナに背に乗るように言って、アンナは辛そうな表情をしながらもキエリの言葉に従った。


 「キエリさん、お願いだ! 一目だけでもっ!」


キエリは、ゆっくりと首を横に振った。


そして、アンナを背に乗せて、開かれている裏口の扉から走り去って行った。


ルナがキエリを呼ぶ声が聞こえたが、キエリは振り向くことはなかった。




 キエリは、オオカミ型の姿になって背にアンナを乗せて、アンナの弟や祖母が待つ村へと向かっていた。


 アンナは、最初はしがみつくのに精一杯だったようだが、次第に慣れてきたようで、キエリに話しかけてきた。


 「あの、キエリさん、助けてくださって、本当にありがとうございました」

 「‥‥いいえ、結局はあの軍隊が来なかったら、わたしもどうなっていたか‥‥」


アンナは、ぶんぶんと首を横に振った。


 「あたし、キエリさんにお礼を言いたいんです! だってキエリさんには助けてもらった上に、勇気までもらいましたから!」

 「わたしが?」

 「はい! あたし、魔法は使えますけど、勇気がでなくて‥‥そもそも、あの恐ろしい賊と戦えれば、こんなことにならなかったかもしれないのに‥‥でも、キエリさんが一人でも戦う姿を見て、あたしも怖くても戦わなきゃって思ったんです!」

 「でも、そのせいであなたに人殺しをさせてしまった」

 「‥‥‥」


アンナはしばらく黙ったが、明るい声でその沈黙を破った。


 「でも、そのおかげであたしもあの女の人たちも、五体満足で生きてます! もし、あそこで諦めたままだったら、人質にされて苦しめられていたかも、最悪死んでいたかも‥‥だから、あたしはこれでよかったと思います」


キエリは、アンナの前向きな言葉に少しだけ救われた気がした。

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