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【完結】オオカミはフードを被る  作者: Nadi
オオカミはフードを脱ぎ捨てた

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感傷

 キエリは、男の子から聞いた賊の住処に向かっていた。


 魔獣であることを隠すことがなくなってからは、移動の時は走りやすいオオカミ型でいることが多くなった。


走りながら、思考ばかりがめぐる。


 (初めは生きるのに必死で、後はこうやって他人ごとに首を突っ込んで‥‥人を殺すことにも、魔獣を殺すことにも慣れてしまった‥‥こんなのゼノを責められないわ‥‥)


 四年間、彷徨ううちに、以前抱いていた魔獣と人間が争わなくてすむという願いを自らの手で壊してしまっていた。


一度壊れたものは、もう元には戻すことはできない。


 (‥‥っ、今は目の前のことに集中しないと)



 しばらく走っあと、キエリがたどり着いたのは谷に作られた砦である。


キエリは、入り口から離れた岩場に人型になって身を隠す。


 キエリは、城にいた時に妃になるための勉強のひとつとして、国内にある砦についても学んでいた。だいたいの構造は頭に入っていた。


 (谷の底にある砦、おそらく谷の崖のところに見張りを置いてる)


キエリは鞄からあらかじめ摘んでおいた草を取り出す。


燻製を作るときに便利だと、ゼノに昔教えてもらった草だ。


燃やすと大量の煙が出てくる。


草を地面に置き、キエリがくるっと空中で円を描くと小さな炎が生み出された。


火種を草の山の下に置き、その場から離れて身をひそめた。


しばらくすると、草から煙がみるみるうちに立ち上り、遠くにいる見張りに異常事態だと知らせる。


見張りをしていたであろう賊が二人、キエリの罠にかかった。


キエリは、オオカミ型に戻り、にじり寄る。


 「なんだぁ? 誰がこんなとこで‥‥!」


賊たちが叫びをあげる前に、一瞬でのど元を牙でかき切った。


賊たちは絶命し、その場に崩れ落ちた。


キエリは、血の味がする唾を吐く。


 (まずは、二人‥‥あと、何人殺さなくてはいけないのだろう‥‥)


 以前は、血や肉が裂ける想像をしただけで、気分が悪くなり、吐き気をもよおしたのだが、今となっては血の匂いを嗅いでも、冷たく、冷静でいられる。


 (なんとなく、捕まっている人がいるところのめぼしはつくかな‥‥行こう)


 キエリは、潜むときは人型になり、賊を襲う時はオオカミ型と自身を使い分けて、砦の中へ窓から侵入し、進んで行った。



 キエリが過ぎた後には、賊の死体が積み重なった。


 キエリは、めぼしをつけていた場所を目指して、地下の階段を下りていく。


そこには牢屋が設置されており、案の定そこには捕まえられている人が十名ほどいた。


どの人も若い女性のようだ。


牢の前に見張りがいたが、キエリは、人型の姿で油断させ、一気にオオカミ型となって見張りの喉元をかき切った。


その様子を見ていた女性達は恐怖で悲鳴をあげてしまった。


 キエリは、人型に戻り、見張りの服を探って牢屋の鍵を見つけた。


丁度その時、さすがに異変に気付いたのか、上の階が騒がしくなっていた。


 (ここからが、問題だ‥‥この人たちを守りながら脱出しないと)


 キエリは、牢屋の前に立ち、牢屋の中にいる怯えてうずくまっている女性たちに冷静に話しかける。


 「わたしは、キエリと言います。あなた達を助けに来ました。時間がありません。わたしについてきてくれるという人は、これからわたしと一緒に来て下さい。もし、わたしを信じられなくてこの場にとどまりたいという方は、このまま牢屋にいてください」


キエリは、牢屋を開けると、狼狽えていた女性たちはお互いに顔を見合わせた。


本当に助けが来たのかと、囁き合い、逃げられるという希望を見つけ出し、一人ずつ立ち上がった。


 無事に全員が立ち上がって、キエリについてくるという意志を見せたことに、キエリは心の中でほっとした。


正直、血まみれのキエリを見て、怯えから動けなくなる人間もいるかもしれないと考えていたが、それ以上に彼女たちはここから逃げたいという思いの方が強かったようだ。


おそらく、この女性たちは奴隷として売られる予定だったのだろう。


売られた女性は悲惨な生涯をおくるというのは想像に容易い。


 キエリは、捕まっていた女性の中から村の男の子の姉を探し、一人の女性を目に留めた。


 「アンナさんですか?」

 「はっはい!」


自分の名前を呼ばれるとは思っていなかった女性は、目を丸くしている。


長い髪を後ろで三つ編みにしていて、頬にそばかすのある素朴な感じの女性。


キエリがあらかじめ聞いていた姿と一致している。


 「あなたの弟からあなたを助けてほしいと頼まれました。家族があなたを待っていますよ」

 「‥‥っ、はいっ!」


キエリの言葉を聞いて、相当心細かったのだろう、アンナは涙ぐんだ。


 「みなさん、賊が異変に気付き始めています。わたしから決して離れないでください」


キエリは、オオカミ型となって戦闘態勢をとってから、女性たちを連れて、地下室の暗い階段を静かに登っていく。


階段の上から数名が駆けおりてくる足音がした。


 「ここで待っていて下さい」


キエリは、女性たちに待機するように指示を出し、一気に階段を駆け登った。


しばらくすると賊たちの断末魔が通路に響いた。


キエリが女性たちのもとに戻ってきて、行きましょうと女性たちに促した。


階段を登ると、賊たちの死体が道のわきに寄せてあったが、階段は血でぬらぬらと濡れていた。


その様子を見て、女性たちは吐き気をもよおしていたが、キエリは、早く上に行きましょうと起伏のない声で言って、先に進む。


 キエリたちは、一階にたどり着くと、砦の廊下に出た。


女性たちのことを考えると、キエリが通ってきたルートは女性らの体力的にきついだろう。


 (裏口から出るしかないな‥‥少し遠回りになると思うけど、行くしかない)


キエリが考えを巡らせていると、誰かがキエリの肩に触れた。


ハッとして振り向くと、アンナであった。


 「すっすみません、キエリさん、あのっ‥‥」


アンナは、緊張しているのか言葉に詰まってしまっているが、キエリはじっと待った。


アンナは深呼吸をし、決心したようにキエリを見つめた。


 「あたし、多少は魔法が使えます! だからっ、あたしにも戦わせてください!」


彼女の目は真剣だった。


 「‥‥人を‥‥殺すことになるかもしれませんよ」

 「わかっています。でも、あなたにばかり押し付けるのは心苦しいです。だって、弟に頼まれてあなたはここまできてくれたのに、このままおんぶにだっこなんて、そんなの嫌です!」

 「それに‥‥」


アンナの顔に悲しみが現われる。


 「あなたが辛そうなので‥‥」


 (わたしが‥‥辛い?)


キエリは、アンナの言葉に頭が真っ白になり、一瞬ここが敵地であると忘れてしまうほどに驚愕した。


しかし、賊がこちらに怒号を放ちながら走ってくる音で我に返った。


 「魔法は何が使えますか?」

 「! 炎の魔法です。威力はそんなにありませんが‥‥」

 「わかりました。では、彼女たちの後ろについてください。あなたの炎の魔法をわたしの風の魔法でサポートします」

 「はい!」


 キエリたちは、裏口に向かって歩き出した。

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